ミステリ読書録

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横山秀夫/「64 ロクヨン」/文藝春秋刊

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横山秀夫さんの「64 ロクヨン」。

警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の
下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持を
もって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。D県警は最大の危機に
瀕する。警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある(紹介文抜粋)。


横山さん、本当に久しぶりの新刊。とはいえ、本書、三年ほど前に一度出版予定が立った作品
なのですよね。発売日も決定して、情報を入手した私は意気揚々と発売日に予約。入荷を心待ちに
していたのですが、待てども待てども本が出ない。うちの図書館は、基本的に新刊は発売しないと
予約を受け付けてもらえないシステムなので、結局図書館から『予約取り消し』の連絡が来て、
作品自体も出版する気配がなく、一体どうなったのかわからずそのままになっていました。
正直、もう断筆しちゃったのかな、とも思いました。直木賞関係でいろいろトラブルがあったり
して、出版社との関係がこじれたのかも、とかも思いましたし。どうやら、その予想はあながち
外れていなくもなかったようですが(心労で倒れたのに加え、いろんなことが重なって一時期
うつ病的な状態に陥ったこともあったそうなので)。

ただ、たまに企画物のアンソロジーなんかで短篇を書いているのは読んでいたので、いつか
そのうち復活してくれるのでは、とは思っていたので、今回の新刊出版のニュースは本当に
嬉しかった。三年前のことがあるので、実際本屋で実物を目にするまでは半信半疑なところも
あったのですけれどね。

単行本が出版されるのは、『震度0』以来7年ぶりだそうで。ファンにとっては、本当に
待ちに待った、という感じですね。総ページ数600ページを超える長編。まぁ、私はその前に
宮部さんの700ページ超え☓3冊という、とんでもない長編を読んで免疫がついていたので、
それほど分厚いとも思わなかったのですが。
ただ、内容的にはぎっしり凝縮された濃縮還元ストーリーって感じで、中盤までは結構苦戦
したところもありました。もともと警察小説って苦手な方だし。今回はとにかく登場人物も
多いので、警察内部の人間関係なんかを把握するだけでも一苦労。その上、事件関係者やら
マスコミ関係やら、いろんな立場の人たちも次々と出て来るので、頭混乱状態で読み進めて
ました^^;

主人公は、D県警の広報官、三上。娘が家出し、全国の警察に内密に捜索の手が回ったことで、
警察に弱みを握られた状態となってしまいます。そのうえ、妊婦の交通事故による匿名報道を
巡って、記者クラブとの関係も悪化。警察での立場は非常に微妙な状態に。そんな中、昭和
64年に起きた未解決の幼女誘拐殺害事件の被害者宅に、警察長官が視察に訪れる話が持ち
上がります。三上は、長官視察を被害者の遺族に受け入れてもらう為、被害者宅を訪れますが、
敢え無く拒否されてしまいます。再び事件がマスコミに取り上げられれば、事件解決に新たな
進展があるかもしれないにも関わらず、頑なに拒否する理由は何なのか。

いろんな要素が錯綜し、一体作者は何が書きたいんだろう、と思ったりもしたんですが、そこは
さすが横山さん。終盤、事件が一気に解決に向けて動き出してからの展開は圧巻。細かい伏線が
綺麗に最後に収集される過程はお見事、というしかなかったですね。そこまでは説明的な部分も
多くて、正直読むのがしんどいところもあったのですけれどね。64事件の被害者遺族の不可解な
態度や、三上の自宅にかかってきた三度の無言電話、そして、終盤に起きた高校生誘拐事件。
その全部が一挙に解き明かされて、目からウロコがぽろぽろ溢れる感じがしました。まさに、
『そーだったのかぁ~!』の連続(笑)。
まぁ、ツッコミたくなる部分がない訳じゃないんですけども。電話の部分なんかはね。さすがに、
無理があるような・・・と思わなくもなかったりして。
でも、トータルとしては、十分傑作と思える警察小説になってると思います。もちろん、終盤では
仲間との絆にぐっとくるところなんかもあるし、奥さんとの馴れ初めやら、奥さんのとの関係やらで
ほっこり、ニヤリと出来る場面なども挟まれ。高校の同級生にして、D県警のエース二渡との
心理対決などなど、事件以外でも楽しめるポイントがいくつも入っており、盛りだくさんでした。






ここからちょっぴりネタバレ。未読の方はご注意を。













ただ、個人的に残念だったのは、三上の娘の身の上がどうなったのかがわからないままなところ。
そこまで都合よく解決しちゃうと嘘っぽくなっちゃうからなのかもしれないですけども。でも、
希望を持たせる要素くらいは仄めかして欲しかったなぁ。最悪の事態にだけは、なっていて欲しく
ないですけど。
娘は父親に似た方が幸せになれるとか言われますけど、やっぱり、美しい母と不細工な父だったら、
母に似たかったと思う娘の気持ちも痛いほどわかりますけどねー。彼女が何故家を出たのか、その
本心も知りたかったな。














いやー、読み応えありましたね。
とにかく、横山さんの新作が出たっていう事実が嬉しい。これを機に、どんどん作品を刊行
して欲しいなぁと、欲張りな読者としてはついつい期待しちゃうところなんですが。
年末のランキング本には間違いなく入って来るでしょうね。なんとか間に合って読めて良かった^^;