ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柚木麻子「BUTTER」/<アミの会(仮)>アンソロジー「隠す」

どうもみなさま、こんばんは。
5月ももう終わりですねぇ。昨日いつも行くスーパー銭湯の中に植えてある
アジサイの花が咲いていました。梅雨もすぐかしら。6月になったら鎌倉とか
行きたいなぁ。


読了本は今回も二冊ご紹介。他に三冊たまっていますけれど・・・今、またしても
予約本ラッシュでして。がつがつ読んでおります。全部読み切れるかしらん^^;



柚木麻子「BUTTER」(新潮社)
柚木さんの最新長編。三人の男性を結婚詐欺の末殺害した罪で逮捕された梶井真奈子。
週刊誌記者の里佳は、真奈子を取材する為、拘置所へ通う。最初は取材を拒否された
里佳だったが、親友の怜子のアドバイスに従って、ある言葉を末尾に付け加えた手紙を
出すと、面会を許可された。面会を重ねるごとに彼女の言葉の魅力に絡め取られ、翻弄
されて行く里佳。彼女は本当に罪を犯したのか――。
タイトル通り、濃厚なバターのような読み心地。読んだ後には、胸やけでいっぱい、って
感じでした。平凡な容姿で結婚詐欺を働く悪女――と聞くと、どうしても思い出すのは
木嶋○苗の事件ですね。当然ながら、柚木さんもあの事件を下敷きに書かれたようです。
どこまで参考にしたのかはわかりませんが。真奈子が、優雅なマダムが開催する個人の
料理教室に通っていたなんて辺りはもちろん創作なのでしょうが・・・真奈子が、
七面鳥を料理することに対して激しい拒否反応を示した理由には、哀れな気持ちに
なりました。別に、習ったからといって、絶対料理しなくちゃいけない理由なんて
ないのに。それに、作って食べきれなかったら、小分けにして冷凍するって手だって
あるのに。どこまでも固定観念に縛られていた人間だったんだなぁと思いました。
真奈子がバターを使う料理に拘るところにも、ちょっとげんなり。でも、読んで
いると、不思議とバターを使った料理が食べたくなってしまったから、私も彼女の
言葉に完全に毒されていたのだと思う。前回の記事でバターチキンカレーを作りたく
なったのも、正直この小説を読んだからというのもありました。パンにつけるのも、
マーガリンなんて外道、あくまでもバターじゃなきゃダメって所が、真奈子なりの矜持
なんだろうと思いました。確かにバターの方が美味しいのだろうけど、バターは
高価だし、別にマーガリンでいいじゃん、って私なんかは思っちゃいますけどね。
だから真奈子の拘りには、正直全く共感出来なかった。身体がぶくぶくと太ろうが、
美味しい高カロリーなものだけを食べて生きる。欲望や快楽に忠実な生き方は、
それなりに今の世の中では生き辛かったのではないでしょうか。真奈子の考え方に
どんどん影響されていく里佳にも、あまり共感出来なかったな。真奈子の言う通りの
物を食べて、どんどん太って行っても気にしない辺りとか。女性なら、10キロも
太る前になんとかしようと思うと思うんだけど・・・そういうのも全然気にせず、
カジマナの言う通り高カロリーのものを食べ続けて脂肪が増えて行く。2~3キロ
くらいなら許容範囲なんだけど、さすがに10キロっていうのは・・・甘えかなぁと
思えてしまう。本人が気にしないのが一番問題っていうか。なんか、カジマナと
出会って、里佳はどんどん人間がダメになっていってる感じがして、読んでいて
すごく嫌悪感がありました。
真奈子の罪に関しては、一応結論らしきものが書かれてはいるのですが、できれば
裁判の結果まで書いて欲しかった気はしましたね。終盤の里佳に対する反撃には
驚きましたが、これがこの女の本性なんだろうなぁと妙に納得出来る展開でも
ありました。結局どこまで行っても悪女なんでしょうね。彼女の実家のシーンは
ほんとに気持ち悪かったな・・・ゾッとしました。母親も妹も、彼女のことを
全く悪いと思っていないところにも。やっぱり、家庭がこうだから・・・って
いうのがよくわかりました。
ぐいぐい読まされるのは間違いありませんでしたが、なんだか途中で濃厚過ぎて
胃もたれする感じもあり、読み終えた後は食傷気味になりました。
バターなんかしょっ中食べてたら、そりゃ胸焼けするよね。高カロリー食は、
たまに食べるからその良さがわかるのだと思う。カジマナのように欲望第一で
美味しいものだけを食べてぶくぶく太るような人間にはなりたくない、と思いました。
獄中の木嶋○苗がこれを読んだらどう感じるのかな、とちょっと気になりました。



<アミの会(仮)>「アンソロジー 隠す」(文藝春秋
女性作家だけで構成された<アミの会(仮)>によるアンソロジー第三弾。
寄稿作家陣が豪華なので、毎回読み応えのあるアンソロジーなんですよね。
今回も、バラエティに富んだ作品群で、なかなかクオリティの高い作品集に
なっていると思います。11人の女性作家が参加していますが、全部の作品に
共通するある要素が入っているところは、今回初の試みだったでしょうか。
もちろん、全作品の大きなテーマの一つがタイトルの『隠す』なのですが。
それ以外に、もう一つ共通点がありまして、全部の作品に、ある小道具が
登場するのです。
私は、3作目くらいであれ?これって、前の作品にも出て来ていたような?
と気付き始めて、一作目を確認したって感じでした。こういう共通点の
作品、若竹七海さんの短編集でもあったような。各作品同士リンクは全く
ないのだけど、こういう共通するモノがあると、一貫性のある短編集に
なってまとまり感が出ますね。面白い趣向だなーと思いました。
それぞれに面白かったのですが、やっぱりいちばん読めて嬉しかったのは、
加納朋子さんの『少年少女秘密基地』ですかね。大好きな『少年少女飛行倶楽部』
の彼らに再会出来たのはとてもうれしかった。じんたんのキャラいいなぁ。
彼らが救った女の子からもらった手紙をずっと大切に持っているところも
なんとも可愛らしい。ちゃんとした続編書いてくれないかな、加納さん。
ミステリ的に面白かったのは、近藤史恵さんの甘い生活かな。後味の
悪さも天下一品だけど・・・^^;他人のものを欲しがる人っていますよね。
こういう人間とは関わり合いになりたくないなぁと思いました。でも、
こういうことばかりすると、痛い目に遭うっていう典型的なお話ですね。
回り回って、自分に帰って来るんですね・・・。
冒頭の柴田よしきさんの『理由』は、イラストレーターの女が、タレント
の男を殴った動機を明かさなかった理由には、なるほど、と思わされました。
確かに、相手をどん底に突き落とすには、こういうやり方が一番効果的
ですね。
永嶋恵美さんの自宅警備員の憂鬱』も面白かった。引きこもりの主人公の
思考回路には若干ついていけないところもあったものの、その推理力には
感心させられました。イケメンに惑わされない所も、引きこもりならでは
かも。設定が面白いなーと思いました。シリーズ化出来そう。
松尾由美さんの『誰にも言えない』は、女探偵の主人公と助手の夏野君の
関係にきゅんとしました。夏野君は、本当にリンジーのことが好きだったの
だろうか。主人公の秘めた想いが相手に伝わることがあるのかどうか、
気になります。惜しかったのは、最後のオチ。別に、こういう形に
しなくても良かったんじゃないのかなぁ。いきなり作者の顔が出て来て、
ちょっと興ざめだった。
福田和代さんの『撫桜亭奇譚』は、父親の埋蔵金探しの裏に隠されていた
真実に戦慄。なんで噂にならなかったのだろうか。それを淡々と受け入れて
いる長男も不気味だった。
新津きよみさんの『骨になるまで』は、亡くなったおばあちゃんが秘めて
いた思いに切ない気持ちになりました。おばあちゃんを執刀した医師の
本当の思いを知りたかったです。
光原百合さんの『アリババと四十の死体』『まだ折れていない剣』は、
お得意のおとぎ話のスピンオフ。アリババの話は、女奴隷の残虐さと
計算高さにぞぞー。盗賊たちを退治する方法がもう。想像すると背筋が
凍りました。『まだ折れて~』の方は、特に感想もなく。もう一作櫛の話を
入れたかったから無理やり収録したような?アリババだけでも良かった
のでは。
大崎梢さんの『バースデイブーケをあなたに』は、奈美子さんに花を
贈り続けるMの正体には、なんとなく予想がついてしまいました。
作品のオチとしてはハッピーエンドっぽく締めくくっているけれど、
よく考えるとすごく寂しい真相でもありますよねぇ・・・。やっぱり、
人間死ぬ時はひとりなのかな。
松村比呂美さんの『水彩画』は、母親が娘に冷たくしていた真相を
知っても、あまり同情出来なかった。だって、自分はそれで満足かも
しれないけれど、娘には全く関係ない訳で。娘の人生を全部自分のエゴ
のせいで潰したようなものだとしか思えなかったです。
ラスト収録の篠田真由美さんの『心残り』もミステリ的に読ませる
作品ですね。従順な女中だと思っていた語り手が実は・・・という。
救いのなさも含めて、女性ならではの感性の作品って感じがしました。

 

今回のあとがきは永嶋恵美さん。
あとがきで、<アミの会(仮)>の(仮)の意味がやっとわかるかと思いきや、
結局真相は今回もわからず。わかる人が本当にいるのでしょうか(苦笑)。
第四弾も企画されてるらしいので、次はどんなテーマなのか楽しみに
していよう。