ミステリ読書録

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東野圭吾/「夢幻花」/PHP研究所刊

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東野圭吾さんの「夢幻花」。


退職し、花を愛でながら悠々自適な生活を送っていた老人・秋山周治が殺された。遺体の第一発見者
は孫娘の梨乃。梨乃は祖父の死後、庭から消えた黄色い花のことが気にかかり、花の写真をブログに
アップする。  それを見て、身分を隠して近づいてきたのが、警察庁に勤務するエリート・蒲生要介。ひょんなことから、その弟・蒼太と知り合いになった梨乃は、蒼太とともに、事件の真相と黄色い花
の謎解明に向けて動き出す。西荻窪署の刑事・早瀬らも事件の謎を追うが、そこには別の思いも
秘められていた。  張りめぐらされた伏線、緊張感みなぎる展開、驚愕の真相に、ページをくる
手が止まらない。作中、蒼太と梨乃が協力しあうなかで成長していく様子も清々しい。「プラチナ・
データ」「ガリレオ・シリーズ」の映像化で話題沸騰の著者による待望の新作長編。著者自らが、
「こんなに時間をかけ、考えた作品は他にない」と語る会心作が、10年の時を経て誕生した
(紹介文抜粋)。


東野さん最新刊。歴史雑誌に連載されていたものを全面改稿したそうです。出版社HPの作者の
コメント読んだら、連載当時とは全く違う内容になっているのだとか。この間のモリミーの作品も
そうですが、そうなってくると雑誌連載作品っていうよりはもう、書きおろしと一緒ですよねぇ
(苦笑)。そういえば、ガラスの仮面の美内先生も、単行本が出る時は作品全部を一から
描き直すらしいですからねー。作者が拘れば拘る程、連載時のストーリーとはかけ離れて行く
のは仕方がないことなのかもしれないですよね。

内容は、黄色い花を巡る長編ミステリー。リタイアした後、のんびりと花を育てながら暮らす
老人が、ある日突然殺され、その現場から老人が秘かに育てていた黄色い花の鉢植えが失くなって
いた。そのことに気付いた孫娘が、黄色い花のことを尋ねる記事をブログにアップした所、
ある一人の男が接触して来る。梨乃は偶然その男の弟と知り合いになり、二人で事件の真相を
追い始める・・・という流れ。

毎度のことながら、息もつかせぬリーダビリティで、先が気になってあっという間にページが
進んで行きました。いろんな場面で少々ご都合主義的な偶然が重なるのは気になりましたが、
バラバラに思えた出来事が、最後にしっかり一つに集約されるところはさすがですね。冒頭の
中学生二人の仄かな恋とその失恋が一体どんな形で事件と関わって来るのかなーと興味津々で
読んでたんですが、なるほどこういう展開になるわけねー!と思いました。蒼太は中ニのあの
失恋時に比べると、随分成長して大人になりましたね。蒼太が大学で学んでいるのが原子力工学
というのは、連載時にもあった設定なんでしょうかね。それとも、震災の影響で、単行本化の際に
敢えて取り入れたのか。
前者だとしたら、確かにいろいろと書きなおさなきゃ行けなくなるのも当然でしょうけど。
もちろん、エピローグ部分は間違いなく震災を受けて書いてると思うのですが。今現在も原子力
向き合って仕事をしている人たちへの強いメッセージなのでしょうね。確かに、誰もがみんな
避けていたら、もっともっと事態は酷いことになってしまいますものね・・・。理系の東野さん
だからこそ、原発に対してもいろいろと思うところもあるのでしょうね。

しかし、黄色い朝顔って存在しないんですね。青い薔薇が自然界に存在しないことは有名だけど、
黄色い朝顔がないなんて、考えたこともなかったです。っていうか、これ読んで「あれ、なかった
っけ?」って思ったくらい。朝顔なんて、いろんな色のがあるから、完全に盲点を
つかれた感じがしました。確かに、考えてみると確かに朝顔の色で思い浮かべると、黄色って
みたことない・・・。でも、江戸時代には存在したっていうのも実話らしいですね。そこから
この作品の構想を思いついたのだとか。
なくなった理由は本書に出て来たのとは違うんでしょうけどもね。これから朝顔の季節になる
から、町中で朝顔を見る度に本書のことを思い出してしまいそうです。うちでも花を育てるのが
大好きな父が種を植えるでしょうから、どんな色の花が咲くか楽しみです。







以下、ちょっぴりネタバレ。未読の方はご注意を!












結局蒼太は初恋の孝美よりも梨乃を選んだってことなんですかねぇ。あれほど孝美に拘ってる
ように思えたのにね。しかし、孝美の家の事情にもびっくり。なんか、ちょっと高田崇史さんの
小説みたい、と思っちゃいました。先祖代々黄色い朝顔の種を見守る一族・・・。ある意味
毒草の一種みたいなものだから、御名形が登場して来てもおかしくないかも(笑)。

あと、終盤で要介が蒼太をホテルに呼び出して会うシーンで、要介が豪華なホテルに面食らう
弟に、「以前このホテルがトラブルに巻き込まれ解決に関わった縁で~云々」の部分で、
『もしや、「マスカレード・ホテル」のホテルか!?』と思ったんですが、蒲生なんて
キャラ出て来てないですよね^^;

あと、残念だったのは、事件が解決した後の早瀬と息子のことが出て来なかったところ。
父親がちゃんと事件を解決に導いたことが息子に伝わっていると良いのだけれど。自分を
助けてくれた老人に恩義を感じて、その後も手紙のやり取りをしている位心の優しい子なのだから、
大丈夫だと思うけれどね。













親子の確執が入ったり、理系の要素が入ったり、ファム・ファタルのような謎の女が出て
来たりと、東野さんらしさがいっぱい入った作品じゃないでしょうか。
『夢幻花』、字面は綺麗だけど、追いかけると危険な花、なんですよね。
出来れば、表紙は普通の朝顔じゃなくて、黄色い花の方にして欲しかった気がするなぁ。
一見朝顔に見えない花なんだそうだから、表紙の絵でネタバレってことにもならないと
思うんだけどな。まぁ、蒼太が中学の時の朝顔市の時の場面なんだろうけど。これは
これで綺麗な表紙ですけどね(じゃあ、いちゃもんつけるなよ^^;)。