ミステリ読書録

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万城目学/「とっぴんぱらりの風太郎」/文藝春秋刊

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天下は豊臣から徳川へ―。重なりあった不運の末に、あえなく伊賀を追い出され、京(みやこ)で
ぼんくらな日々を送る“ニート忍者”風太郎。その人生は、1個のひょうたんとの出会いを経て、
奇妙な方向へ転がっていく。やがて迫る、ふたたびの戦乱の気配。だましだまされ、斬っては斬られ、
燃えさかる天守閣を目指す風太郎の前に現れたものとは?(紹介文抜粋)


どうもご無沙汰しております。本書、前回の記事の最後で読みきれる自信がないと気弱なことを
申しておりましたが、なんとか無事読了致しました(笑)。
いやでも、思った程苦戦せずに読みきれたんですよね、これが。ただまぁ、いかんせん分厚い。
ページは進めど、一向に終わりが見えず・・・結構時間かかりましたねぇ、やっぱり。
総ページ数746ページは伊達じゃなかった^^;読んでて腕がしびれる、しびれる。
若干の筋肉痛との戦いの毎日でありました・・・。結局、全部読み切るのに8、9日間くらいは
かかったかなぁ。それでも、思ったよりは早かったかな、と。終盤は一気に集中して読み
ましたしね。





最後に、本書のラストについて言及している箇所があります。
未読で先入観なしに読まれたい方は、以下の記事はお控え頂いた方が良いかと思います。















と、前置きはそれくらいにして。内容ですが。伊賀忍者風太郎が主人公の痛快時代劇
エンタメ・・・なのかと思って読んでたんですが、後半はかなりハードな展開。人がばった
ばったと死んで行くし、風太郎は満身創痍だし。手に汗握る展開の連続で、のめり込んで
読んでしまいました。ただ、舞台設定とか人物関係とか、ちょっと全体的にごちゃごちゃ
しすぎてて、物語を把握しづらかったんですよね。そこをもうちょっと明瞭にわかりやすく
読ませて欲しかったなぁ、と。それでなくても、時代物ってだけで頭に映像が思い浮かべ
づらいところがあるんで。
登場人物も多いのだから、せめて人物相関図か人物紹介のページは冒頭に入れて欲しかった
なぁ。
あと、終盤は意外とエグい残虐な場面も多いんで、そういうの苦手な人はちょっと注意が必要かも。
ちなみに、風太郎』『ぷうたろう』と読みます。しかも、前半は文字通り、伊賀を
追われて、プータローの忍びなんですよね(笑)。この辺りの設定の面白さは、万城目
さんならではですよね。

個人的に一番おもしろかったのは、中盤辺りの、風太郎がひょうたん育てたり、因心居士
の頼みを聞くため行動したりする部分かな。ひょうたんを甲斐甲斐しく世話する風太郎には
微笑ましくなりましたし、因心居士とのやりとりはコミカルで面白かったですし。なんだかんだで
人がいい風太郎が、嫌々ながらも因心居士の力になってあげるところが好きでしたね。まぁ、
断ったらひょうたんの中に閉じ込められちゃったりする訳だから、やらざるを得なかったところも
あるんですが^^;

お調子者だけど気のいい黒弓や、風太郎のことが気になっているのにぶっきらぼうな態度を
取ってしまう芥下、やり手で美貌の忍びである常世、美人で冷酷だけどなぜか風太郎を気に
かける百市、泥鰌髭の忍仲間蝉左衛門、ひょうひょうとしたキャラクターだけど、実は一番の大物、
ひさご様。
個々のキャラクターがしっかり作り込まれているので、それぞれに感情移入して読めました。
ただ、それだけに、ラストが、ね。もう、ほんとに、なんといっていいのか。いつも、
万城目作品は最後スカッと終わらせてくれるイメージだったんで、このラストに関しては
かなりのショックを受けました。まぁ、プリンセス・トヨトミに繋げる為にはこうする以外に
仕方がなかったのかもしれませんが・・・。もちろん、万城目さんは賛否両論あることを
想定して書いたのでしょう。これはこれで受け入れる人も多いと思いますし。ただ、やっぱり、
万城目作品は笑って読み終えたい人間としては、こういう終わり方はやっぱりすっきりは
しないなぁ、というのが正直な感想。もっと、ひょうたんの部分をフィーチャーして、全篇
ファンタジーよりにして、徹底したエンタメ作品にしちゃった方が、『らしさ』は出たんじゃ
ないのか、とか。
でも、万城目さんが書きたかったことって、そういうのじゃないんだろうなぁ。この時代に
忍びが『生きる』こと。与えられた使命を全うすること。その厳しさ。戦国の世で、人々が
どのように生きて、死んで行くのか。風太郎が、仕方なく幼い子供を殺さざるを得なかった
シーンが、胸に突き刺さりました。幼い子供さえ、呆気無く殺されて行く時代。終盤の殺伐と
した殺戮のシーンは読むのがちょっとキツかった。

風太郎が最後まで守り通した小さな命があることだけが救いですね。彼女の存在が、めぐり
めぐって『トヨトミ』に繋がるのでしょうから・・・やっぱり、万城目ワールドにとって、
この作品が書かれた意味は大きなものなんでしょう。
けど・・・けどね。やっぱり、こんなラストはイヤだったな。ここまで読んで来て、こんな
終わり方だけは、して欲しくなかった。悲しさとやるせなさと虚しさがないまぜになって、
読み終えてしばらく呆然としてしまった。
できれば、小さな命がどう生きて行くのか、一緒に見届けて欲しかったよ・・・。
芥下とも再会して欲しかった。またひょうたんを育てて欲しかった。無念です・・・。
















タイトルの『とっぴんぱらり』って何なのかなぁ、と思ってたんですけど、最後までよく
わからなかったです。作中にも出て来なかったと思うんだけど・・・読み落としたか
忘れてるだけかな??(そうだったらすみません^^;)
しゅららぼんみたいに、強烈な意味がある訳じゃないみたいだけど・・・。擬音ですかね。

今回も奇想天外な設定満載で、飽きることなく読み終えられました。
一大スペクタクル巨編なのは間違いないですね。
ラストに関して、読み終えた方と意見を交わしてみたいです。私みたいな感想の人も
多いと思うのだけれどね。