ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

坂木司/「僕と先生」/双葉社刊

イメージ 1

坂木司さんの「僕と先生」。

こわがりな大学生・二葉(でも、推理小説研究会所属!)と、ミステリ大好きな中学生・隼人が、
日常に潜む謎を鮮やかに解決した『先生と僕』から、少し「おとな」になった二葉と、ますます
頭脳が冴える隼人が帰ってきた!(紹介文抜粋)


大好きな坂木さんの最新作。『先生と僕』の続編。タイトル、ストレートですね~(笑)。
前作の事件がどんなだったかもうすっかり忘れてるんですが、今回はちょっとしたモラル違反や
軽犯罪ばかりを扱った連作集となっております。日常の謎系なのは間違いないし、ほのぼのとした
作風は相変わらずなのですが、社会問題もあったりして、二葉君と隼人君にとってはちょっぴり
苦い事件ばかりだったかな。もちろん、面白さは折り紙つき、なのだけれどね。
あと、今回特筆すべきは、二葉君にちょこっと恋の兆しが見えて来たこと!といっても、相手は
一筋縄ではいかない相手なのですが。怖がりの二葉君にとっては、得体の知れない彼女のような
女性に惹かれるというのはちょっと意外でしたねぇ。ミステリアスだからこそ、惹かれるのかな。
なんといっても、日常の謎専門とはいえ、二葉君もミステリ好きな訳ですしね(笑)。
お互いを『先生』と認識した、二葉君と隼人君の相互関係は今回も素敵でしたね。ちゃんと
お互いに相手から学ぶところがあって、お互いに成長しているところがいいですね。この関係が
成立するのも、年上の二葉君があり得ないくらい素直でお人よしの性格だからでしょうね。年上
だからって偉ぶったりすることが絶対ないから。というか、時たま、隼人君の方が年上なんじゃ
ないか?って思うこともあったりして(笑)。でも、だからって二葉君が子供っぽいとは思わない
んですよね。やっていいこと、やってはいけないことと、やるべきこと。人として、ちゃんと大事な
ことがわかっているから。それは根底に、彼の優しさがあるからかもしれません。だから隼人君は、
二葉君と一緒にいるのが心地いいんじゃないのかな。隼人君は中学生にしてはクールだし達観してる
子ではあるけれど、やっぱりまだまだ子供なんだなぁと思える面もありますからね。なんだかほんと、
先生と生徒というよりは、兄弟みたいで、微笑ましい二人なのでした。


では、各短篇の感想を。

一話『レディ・バード
バレンタインを前に、デパートのチョコレートイベントで有名ショコラティエの限定ショコラを
買いに来た二葉と隼人が巻き込まれるチョコレート盗難事件。

行列に並ぶ人たちをターゲットにした、こういう犯罪があるとは驚きました。善意を装っての
詐欺犯罪というのは、本当に胸糞悪い気持ちになりますね。二葉君が犯罪に遭わなくてほっと
しましたが、結局犯人の正体はわからないままなのでちょっともやもや。
高級チョコを一粒だけ盗んだあの犯人に関しても、犯罪なのは間違いない所であり、好意的には
とてもじゃないけどみれませんでした。盗みを楽しむ感覚って、私には理解出来ないな。
一生懸命働いたお金で一粒買えばいいじゃないかって思う。予備があるからいいって問題じゃ
ないって、私も二葉君と同じ意見でした。それにしても『怪盗ルビイ』懐かしい(多分
観たことはないけど^^;)。


二話『優しい人』
二葉の先輩のアルバイト先である喫茶店のマスターの秘密を探る話。

マスターに隠された秘密は意外なものでした。先輩も二葉君たちも、イントネーションでは
わからなかったのかなぁ??結構普通に会話してた感じなのに。
それにしても、喫茶店に連れて行ってマスターを観察させるだけで先輩に好意があるのか見抜け
というのはあまりにも無理があるのでは^^;お互い仕事中なわけなのだし。
こういう問題を抱えている店は、結構あるのではないかと思う。特に今の時代では。でも、
むやみやたらと受け入れていたら、犯罪がもっと横行しそうだし、難しい問題だと思います。
考えさせられる一作でした。


三話『差別と区別』
二葉の推研の先輩が、就職活動中に嫌がらせを受けた。企業に提出するエントリーシート
何者かに盗まれたのだという。犯人の真意とは?

こういう、ちょっとした嫉妬からくる悪意ってのは一番厄介ですよね。やられた方はたまった
ものじゃないけど、犯人の気持ちもわからなくはないです。でも、あからさまにこんなこと
しても、自分が虚しくなるだけじゃないのかな。この先会社に入ったらもっと嫉妬の対象なんか
いそうだし。商社なら尚更。学生の立場からすれば、入る前の段階で差別しないで欲しいと
思うのは当然のことだと思うけれど。
隼人父が初登場。なんとまぁ、かっこいいお父さんだこと。なんだかんだで、隼人君が父親の
前だと年相応の子供に戻るところが可愛らしかったです。


四話『ないだけじゃない』
推研が企画するバーベキューに参加することになった二葉と隼人。バーベキュー中に人数分
あった筈のステーキ肉の牛串が一本消えてしまう。その代わり、その場に増えたものが・・・。

一話で登場したあの人が再登場。今回のは、まぁショコラよりは許せるかな。ちゃんと代わりの
ものも置いて行った訳だしね。しかし、一体どんな偶然が重なったらこんな場所で再会出来るのか。
その場に『増えたもの』に関しては、やられた立場だったら絶対許せないです。そこは最低限の
モラルだと思う。でも、こういう、モラルを守れない人間が増えているのが現状なのでしょうね・・・。
隼人君か、推研の先輩とミステリ談義するくだりはにやにやしながら読んじゃいました。国内
ミステリ初心者に薦めるなら、私だったらメフィスト系よりは新本格を選ぶだろうなー。

五話『秋の肖像』
学祭のポスターを貼ってもらいにマンション一階にあるラーメン店を訪れた二葉と山田。店主は
快く承知してくれ、更に店の外にあるマンション共用の掲示板にも張っていいと言う。早速張りに
行くと、不可解な写真が張ってあり・・・。

掲示板に張られた写真の真相、なんだか回りくどいことするなぁって感じでした。掲示板が
あるのだから、もっと直截的なメッセージを残せばよかったのでは・・・。見せしめって、嫌な
ものだなって思いました。ただ、モラルを守らない人間に対する怒りの気持ちはよくわかる。
でも、やってしまった側の『面倒だ』って気持ちもわかるから、どちらの思いも理解は出来ますね。
今回も、二葉君は一番大事なことを言っていますね。『話せばわかる』。ちゃんと話し合うって
ことが大事なんですよね。そんな基本的なことが、なかなか出来ない世の中なのかもしれない
ですけれど。そして、最後に二葉が隼人君に言った言葉がずしりと胸に響きました。
『推理はいい。推測もいい。でも、決めつけて切り捨てちゃダメだ』
あんな人間は放っとけって切り捨てるんじゃなくて、その人の立場と気持ちになって理解してあげる
ことが大事なんでしょうね。二葉君ってすごいな、ほんとにいい子だなってしみじみ思いました。


最後の『指先の理由』
もう、このシチュエーション!!ドキドキしちゃうじゃないかー!きゃー。しかし、彼女は
なぜ二葉君のことに詳しいのだ!?こうなると、バーベキューに現れたのも偶然じゃないと
わかる。要所要所で彼の元に現れるってことは、やっぱり・・・そういうことだよね!?
気になる、気になるーーー続きがっ!!
がしかし、一作目二作目のこのタイトルの付け方だと、三作目があるのかどうか。ここで終わりは
本当に勘弁して欲しいけれど。彼女の真意が知りたいです。
そして、マ行の『黒蜥蜴』が気になって、ネット検索してみたところ・・・あの純文学作家
の作品ってことでいいんでしょうか。まぁ、そちらも原型は乱歩のやつらしいですが。




今回もとっても楽しめました。挿絵も可愛らしかったですねー。
それにしても、あとがきに書いてあった現在連載中の作品の登場人物ってどの人のこと
なんでしょうか。そちらが単行本にまとまった頃には、こっちの作品のこともすっかり
忘れてそうなんですが^^;気になるなぁ。