ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乾くるみ「7 セブン」/東野圭吾「虚ろな十字架」

はい、どうもみなさまこんばんは~。
またまたW杯ネタになっちゃいますが、四強が出揃いましたね~。
いやー、どっちも見応えありそうですねぇ。個人的には、オランダ☓アルゼンチンが非常に
楽しみ。ブラジルは、ネイマールがあんなことになって、相当厳しくなったのじゃないで
しょうか。ドイツはとにかく手堅い印象。必ず四強までは上がって来ますものね。
これでブラジルが負けようものなら、ネイマールに怪我させたコロンビアの選手の
身の上が本気で心配になって来ますが・・・。決勝でネイマールとメッシの対決とか
観てみたかったのになぁ・・・。でも、決勝戦はブラジル☓オランダが観たいかな~。
みなさま、どう予想されているでしょうか。


今回は二冊読了。全く違ったタイプのミステリ二冊となりました。
では、一冊づつ感想を。


乾くるみ「7 セブン」(角川春樹事務所)
最初から最後まで『7』に拘ったミステリ短篇集。それぞれに7という数字が
テーマになっているのですが、作風や設定は全く違っていて、バラエティに
富んだ短篇集になっていると思います。ただ、出来にはばらつきがありましたね。
秀逸なのは、冒頭と最後の作品かな。冒頭の『ラッキーセブン』は7人の女子高生たちが、
新たに考えたトランプゲームに死をかけて挑むゼロサムゲームもの。一戦ごとに、敗者は
首を切られて殺されて行きます。設定はとにかく不条理。雰囲気は、ちょっと
カイジ(私は映画バージョンしか知らないけど、原作は漫画ですよね)みたいな
感じかな。緊迫してるんだけど、どこか作り物めいていて滑稽な感じがして。
トランプゲームのルールが何度読んでもいまいち頭に入って来なかったんだけど(アホ)。
こういうの、得意な人はすっごい得意なんだろうなーと思いました。私は、多分
最初の対戦であっさり負けるタイプだと思います・・・^^;;心理戦とか苦手
なんだよぅ(めっちゃ顔に出るタイプ)。
『小諸―新鶴343キロの殺意』は、あまりのこじつけっぷりに唖然。犯人の頭の中に
ついては、理解不能でした。妄想に囚われた人間って一番始末に負えないやね。
『TLP49』は、SF的な設定が乾さんらしいなーと思いました。7分間をシャッフル
してリピートするってところが面白い。ただ、ラストはちょっと偶然がすぎるかな、と
思いましたが、確率で言うと、どれくらいになるんだか。
『一男去って・・・・・・』は、ショートショートみたいな短さ。あり得ないだろーと
思いつつ、最初の一人くらいならリアルにあり得そうなところが怖い。最後はさすがに
バレるだろ!とツッコミたくなりましたが(苦笑)。
『殺人テレパス七対子は、以前雑誌で既読。これは一番ミステリとしてはオーソドックス
かな。
『木曜の女』は、まぁ、こういう夫婦もいるのかな、と・・・(苦笑)。最初はこんな
浮気症の旦那は最低だ!と嫌悪感いっぱいで読んでいたのだけれど。お下劣といえば一番
お下劣な一作。
敵軍に囚えられてしまった七人の捕虜たちが、死をかけて数字ゲームに挑む、
ラストの『ユニーク・ゲーム』も方向性としては『ラッキーセブン』と似たようなタイプの作品。
これまた、ルールが小難しくって、頭こんがらがった状態でそのまま読み進めた為、
最後のオチが最初に一回では理解出来ず、何度か読み直してしまいました。
しかし、こんな状況で自分の好きな数字だけに拘るって・・・。感動的なラストに
なるかと思いきや、なんとも皮肉なラストにどよ~んとしてしまいました。まぁ、
作品としては面白かったと思うけどね。ただ、どうしても何度読んでも理解出来なかった
のが、途中でいきなり出て来る『しょこたん』発言。なんで、外国の捕虜がしょこたん
知っているんだ・・・(謎)。



東野圭吾「虚ろな十字架」(光文社)
久々に直球の社会派ミステリーを書かれたな、という印象。薬丸さん、貫井さんのような、
司法の問題を真摯に捉えた一作だと思います。
テーマは重く、死刑制度。殺人を犯した人間は、死刑にならなければ遺族は納得しないのか。
死刑になっても、反省の気持ちがなければ意味がないのではないか。死刑制度について、
とても考えさせられました。
主人公の中原は、11年前に最愛の娘を殺され、被害者遺族となっています。その後妻とも
離婚し、仕事も変えて、独り身となった現在は伯父が営んでいたペット葬儀社を引き継いで
います。そんな中原の元に、11年前に知り合った刑事から再び連絡があり、元妻が
殺されたと告げられます。中原の妻小夜子は、中原と別れた後、フリーライターとなり、
死刑制度についての本を書く為にいろいろと取材をしていたらしい。妻の原稿を読んだ中原は、
妻が新たな人生を切り開いていたことを知り、そんな妻がなぜ殺されなければならなかったのか、
その痕跡を辿り始めます。
冒頭の中学生カップルのほのぼのとした恋模様が一体事件とどう絡んで来るのか、全く
予想出来ずに読んでいたのですが・・・少しづつ明かされる過去との繋がりに、だんだんと
胸が重苦しくなって行きました。
小夜子の気持ちもわかるけれど、彼女は踏み込み過ぎたのだと思う。確かに殺人の時効制度は
現在なくなっているのかもしれないけれど、二十年以上前の犯罪をあんな風に暴くべきじゃ
なかった。心を開いて打ち明け話をした人物に対して、ああいう切り返しは裏切りに近いのでは
ないかと思ってしまった。もちろん、罪は罪だし、やったことは最低で、糾弾されるべきだとも
思うけども。でも、こういう犯罪って、明るみに出てないだけで、案外多いのじゃないだろうか。
好奇心旺盛な思春期の少年少女たちにとって、その結果がどうなるかなんて、その時は考えない
のだろうし。無責任極まりないことで、許せることではないけど。せめて、誰か頼りなる大人が
いたら、もっと違った結末だっただろうにな・・・。
死刑については、私もいろいろと考えるところがあります。ここで持論を展開するつもりは
ないけれど。小夜子のように、何でもかんでも殺人=死刑と考えることは出来ないな。でも、
それは私が身内を殺された経験がないからかもしれない。小さな子供を殺すような人間は、
死刑になるべきだと私も思うし。子供を虐待で死なせるような親のニュースを聞けば、死刑に
なればいい、とも思ってしまう。だって、そういう人間って、自分が同じ目に遭わなきゃ
その子の気持ちなんてわからないと思うから。ひとつ確かに云えることは、もし死刑制度が
なくなったら、殺人の被害者遺族は全く救われなくなるということでしょう。

事件のからくりはそれなりに複雑に絡み合っているけれど、人間関係は全く混乱せずに読め
ました。ぐいぐい物語に引き込まれて、二日であっという間に読了。事件の真相には暗澹たる
気持ちになりました。誰も救われないし、みんなが辛い思いをしただけだったんじゃないだろうか。
小夜子を殺した犯人の動機に、胸が苦しくなりました。どうしようもない人間だと思っていた
けれど、そこにあるのは愛情だったんですね・・・。殺人の動機としては、ただただ身勝手な
だけだとは思うけれど。その裏にある真意に、悲しくなりました。もっと早く、その愛情を
違う形で示していればよかったのに・・・。

表紙の樹海の写真、読み終えてから見るとまた違った印象を受けますね。この写真を眺める度に、
自分の罪と向き合っていたのだろうな、と思うと・・・。
しかし、なんで最後、骨が出て来なかったんでしょうね。何か不思議な力が働いたのかな。
この犯罪の場合は、あの結末でよかった気がします。もう十分、犯人たちは苦しんだだろう
からね・・・。
ページ数はそれほどでもないけど、とても読み応えのある力作だと思いました。