ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

芦原すなお「恐怖の緑魔帝王」/又吉直樹「火花」

どうもこんばんはー。
もうすぐGWですね。みなさま、ご旅行など行かれますでしょうか。
私は特に予定もなく、だらだらと過ごして終わりそうです・・・^^;


今回も読了本は二冊。最近はずっとこのペースが続いているなぁ。
一気に読める時間がもっと取れると良いのだけれど。
GW中にもう少しペースが上げられたた良いなぁ。でも、長期の休みでも
意外と読めなかったりするのよね^^;

では、一冊づつ感想を。


芦原すなお「恐怖の緑魔帝王」(ポプラ社
江戸川乱歩生誕120周年を記念した『みんなの少年探偵団』シリーズ第四弾。
これで打ち止めらしいです。もうちょっといろんな作家さんの読んで
みたかったなー。
前回の小路さんのがちょっと重めの作風だったのと対照的に、こちらは
かなり設定もぶっ飛んでいるし、ユーモアたっぷりの軽めの作品でした。
ここまでやっちゃって大丈夫かな~とちょっと心配になってしまった^^;
小林少年の変装のシーンとか、その場面を想像して、ぷぷっと吹き出しそうに
なってしまいました(笑)。
今回の敵は、二十面相に加えて、自らを緑魔帝王と名乗る怪しげな男。
この男、『大東京緑化計画』なる計画を打ち立て、東京を緑一色にしようと
目論みます。例えば、玉川上水の水を真緑にしたり、上野の不忍池に緑の鵜を
浮かべたり、某国立大の赤門を緑門に変えたり。
そして、この男、何やら二十面相に禍根があるようで、二十面相が狙う
富豪の湧水氏が所有する雪舟水墨画と、氏の美しい一人娘登喜子さんを
二十面相よりも早く奪おうと画策するのです。
二十面相の予告状とほぼ同時に、緑真帝王からの挑戦状までもを叩きつけ
られた出張中の明智を欠く小林少年たちと警察は、厳重な警備体制で当日を
迎えるのですが・・・というのが大筋。
まぁ、とにかく、緊迫した場面の筈なのに、ユーモアが散りばめられ過ぎてる
せいか、ちっとも緊迫感がない。こんなにのんびりした警備で大丈夫か!?
とツッコミを入れたくなること必至。そして、案の定な結末になるし(苦笑)。
でも、そこはあの名探偵のすばらしい計略のおかげで上手く収まるのですけれどね。
ちょっと全体的におちゃらけが過ぎるところがなきにしもあらずではあるけれど、
私はこれくらい軽い方が好きかも。どうせお祭り的な企画なのだし。
ツッコミ所が満載過ぎて、どこをツッコんだらいいのやらって感じでしたけど(笑)。
肩の力を抜いて楽しめる作品でした。

久しぶりに葦原さんの作品を読んだけど、やっぱり葦原さんのユーモア
溢れる作風はいいなーと思いましたね。
また、ミミズクとオリーブシリーズの続きとか書いてくれないかなぁ。


又吉直樹「火花」(文藝春秋
雑誌掲載時から世間を賑わせているお笑いコンビピースの又吉さんの処女小説。
又吉さんの本好きは業界でも有名ですし、私も非情に注目している作品でした。
芥川賞候補になるのでは、と言われるくらいですし、いかにも~って感じの
文芸作品なのかな、と思ったのですが、ストーリー性もありますし、意外にも
終盤は驚きと感動もあり、純文学と言うほどの(確かにジャンル的にはそうなのかも
しれないけれども)、そこまでの堅苦しさは感じなかったです。
文章はかなり独特。始めは主語がわかりにくかったり、会話文の意味がつかみ
にくかったりと、ちょっと戸惑いながら読んでいたのだけれど、慣れて来ると
すんなり入って行けるようになりました。特に後半は物語の吸引力の強さでぐいぐいと
読まされてしまいました。
主人公は売れないお笑い芸人の徳永。熱海の花火大会で、同じ芸人の先輩・神谷と
出会い、彼にしか出来ない独特の笑いのセンスに惚れ込み、交流を重ねる物語。
お笑い芸人の話なのに、全体的に非情に切なく感傷的な空気が流れていて、
又吉さんらしい作風だなぁと思いましたね。主人公の徳永はどうしても
又吉さんを重ねて読んでしまうのだけれど、おそらく両者は全く似て非なるもの
なんだろうな、と思います。
主人公の徳永は、売れなくてもお笑いのことを常に真剣に考えているし、
今自分に出来ることを一生懸命やっている。多分そういう所は又吉さんの
芸人としての自分が反映されているのじゃないかと思う。
そんな徳永が、盲目的に信奉する神谷。徳永にとっては、笑いの『天才』であり、
目指すべき存在。けれども、神谷も徳永と同じように売れてはいない。それでも、
徳永にとっては、神谷は雲の上の存在なのです。この、盲目の信奉にはちょっと
首を傾げるところがあったのだけれどね。徳永が神谷を天才だと感じる冒頭の
シーン、私には全く神谷の良さがわからなかったんで^^;でも、同じ芸人同士、
感じるものがあったということなんでしょうね。自分には絶対的に出来ない
表現方法で笑いを取れる神谷が、徳永には神様のように見えたということなの
でしょう。
徳永と神谷は、出会いの時から、お互いに別の相方がいても、ずっと付かず離れずの
距離で付き合って行く。お互いに、相方とは全く別の、特別な存在になるのです。
けれども、お互いに決してコンビの相方になれる存在ではないのです。コンビの
相方とは別の、一歩引いたところにいる大事な存在とでも言うのでしょうか。
徳永にとってはもちろんですが、神谷にとっても、自分を認めて慕ってくれる
年下の後輩のことは、可愛くて仕方がないのです。徳永には、みじめな自分を
見せたくないとも思っていたのでしょう。
けれども、中盤以降、二人の関係に少し変化が出て来ます。徳永が、少しづつ
テレビの仕事で人気を出し始めたのです。忙しい日々が続き、神谷ともなかなか
会えなくなっていく。一方神谷は、一緒に住んでいた女が結婚することになって
部屋を追い出され、借金がかさんで行方をくらましてしまう。
月日が経ち、久しぶりに再会した徳永と神谷でしたが、神谷の容姿が徳永そっくりに
なっていました。売れている徳永と同じ格好をしたら面白いだろう、とそれだけの
気持ちで。自分ごときのマネをしてでも笑いを取ろうと考える神谷に、徳永は哀れみ
のような、羨望のような、なんとも言えない気持ちを抱くのです。そして、
やっぱり神谷には勝てない、と思うのでした。

徳永と神谷の関係が、なんとも言えず良かったです。私から見れば、神谷は
どうしようもない男だけど、徳永にとっては唯一無二の存在なのです。
最後、徳永が売れて神谷が落ちぶれる、というオチなのかと思いましたが、
物語は意外なところに終着します。あれほどお笑いのことを考えていた徳永が、
こういう選択をするとは思いませんでした。
そして、神谷の方も、衝撃的なラスト。確かに、これを笑いの為だけにやって
しまえる神谷は、ある意味天才なのかもしれません。でも、単なるバカとも云える
でしょうけれど(苦笑)。現実ではここまでしちゃう人間がいるとは思えない
ですけどね。神谷はきっと、どこまで行ってもお笑い芸人のままなのかもしれない。
そして、徳永は、そんな神谷が羨ましくて、愛おしくてならないのでしょうね。

途中のいくつかのエピソードでも、又吉さんの作家としての感性が光っていたと
思います。特に、ベージュのコーデュロイズボンのくだりは笑ったなぁ。私も、実家に
ベージュのコーデュロイズボン一本持ってたと思うんだけど・・・(笑)。

薄いのですが、非情に読み応えのある作品に仕上がっていると思います。
お笑い芸人の内面と現実を、臆面もなく真正面から描き切っているのではないかと。
上手く感想が書けないのですが、何か作品全体で訴えかけるものがあって、
私は面白かったし、すごく好きな作品でした。
是非、第二作にも挑戦して頂きたいですね。
世間的な評価も非情に高いので、芥川賞、本当に獲ってしまうかも・・・。