ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三浦しをん/「あの家に暮らす四人の女」/中央公論新社刊

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三浦しをんさんの「あの家に暮らす四人の女」。

謎の老人の活躍としくじり。ストーカー男の闖入。いつしか重なりあう、生者と死者の声―
古びた洋館に住む女四人の日常は、今日も豊かでかしましい。谷崎潤一郎メモリアル
特別小説作品。ざんねんな女たちの、現代版『細雪』(紹介文抜粋)。


しをんさん最新作。若草物語みたいな表紙ですが、内容は全く違いました(苦笑)。
帯には「現代版『細雪』」と書かれているようですが、残念ながらワタクシ、『細雪
を読んだことがありませんので、比較が出来ません^^;
作中に出て来る四人の女の名前が、『細雪』の四姉妹の名前と同じらしいってのは
あるみたいですが。それ意外に似ているところもあるのかな?
ちなみに、谷崎潤一郎メモリアル特別小説作品だそうです。今年って、谷崎のメモリアルイヤー
だったりするのかしら?

東京杉並の、敷地150坪の古い洋館に住む牧田鶴代・佐知母娘の元に、事情あって
転がり込んで来た雪乃と多恵美。女四人が住むこの洋館で起きる悲喜こもごもを
描いたエンタメ小説です。

なんかもー、しをんさんらしさ満載の作品って感じがしました。そもそも、女の
四人暮らしって設定からして、しをんさんらしいじゃないですか。男が介在しないって
ところが。
ただ、敷地の隅には守衛小屋があって、山田一郎なるご老人が住んでいるのですが。
この山田さん、牧田家とは一切血の繋がりはないアカの他人。もともとは、山田の
父親が鶴代の祖父に作男兼執事のような形で雇われていて、戦争で山田の実家が焼けた
のをきっかけに、一家で牧田家の守衛小屋に移り住むことになり、山田の父親や
鶴代の祖父亡き後もそのまま住み続けて今に至る訳なのですが。そんなわけで、
この山田老人、牧田家に並々ならぬ忠誠心を持っており、齢八十にならんという今でも、
鶴代とその娘佐知を庭の片隅から見守り続けているのですね。
しかしまぁ、そのおかげで、母娘にとってはなかなか扱いづらい人物でもある訳
なのですがね(苦笑)。
この家の主である鶴代は、娘の佐知を産んですぐに離婚し、以来親の築いた財産で
優雅に暮らし、お嬢育ちが抜けないため、気位が高く少々浮世離れした性格。
娘の佐知は、得意の刺繍を生かして、自宅で刺繍教室を開いて細々と生計を立てて
いる。鶴代の影響か世間知らずなところはあるが、穏やかな性格。
居候の二人のうち、雪乃の方は、保険会社に勤めるOL。仕事に生きる野心家で、
男っ気もなく一本気な性格。もう一人の多恵美も同じ会社に勤める雪乃の会社の後輩で、
男に騙されやすく、ストーカーに遭っても危機感の薄いのんびりした性格。
先に雪乃が佐知と知り合いになって、交友を深めているところに、雪乃の
住んでいたアパートが水浸しになって住むことができなくなったのを機に佐知の
家に居候させてもらうことに。その後、多恵美がストーカーに悩まされ牧田家に
避難することになり、女四人暮らしが始まることになります。
性格の違う女四人の生活は、毎日とっても賑やか。鶴代と佐知のささいな親子ゲンカ
は日常茶飯事だとして、それ意外は大きな争い事もなく、のんびり過ぎて行く。
そんな中、ある日雪乃の部屋が雨漏りで部屋中が水浸しになってしまう。雪乃は、
自分に水難の相があるからだと罪の意識に苛まれ、牧田家で何十年もずっと
放置され開かずの間になっていた部屋を掃除し、そこに移り住むことを思い立つ。
しかし、掃除の最中にとんでもないものが見つかったことから、事態は急転、
大騒動へと発展していくことに――。

気位の高い老女+独身アラフォー女子二人+男運のないアラサー女子一人。
年齢も性格もバラバラな四人の暮らしは、意外とそれぞれ楽しそうで、なんだか
読んでいて羨ましくなりました。特に、アラフォー二人(佐知と雪乃。両方37歳)の
友情がいいな、と。年取って死ぬまで気の合う友だちと一緒に暮らす。私も結婚が
遅かったクチなので、もし今の相方と知り合っていなかったら、多分それが一番の
理想になっていたのじゃないかなぁって気がする。親は先に死んじゃうだろうし、
兄も姉も先に結婚しちゃって頼れないだろうし。一人残されるくらいなら、同年代の
友だちと一緒に住むのが一番楽なんじゃないだろうか、と。まぁ、そういう友だちを
見つけるのが大変だろうけど^^;でも、そういう生活も楽しいかもしれない、と
思ったことはありましたねぇ。当時、独身の友だち結構いたしね。
もちろん、そんなの現実的じゃないってこともわかってはいましたけど。

女四人の日常をつらつらと綴った物語かな、と思って読んでいたら、突然開かずの間
からアレが見つかって呆気に取られました。えっ、この本ってミステリーだったの!?
って思いましたもん。
しかし、その後の展開はなんともしをんさんらしい。川太郎・・・ぷぷぷ。川太郎の
くだりには、本当に笑わせてもらったなぁ。特に、居間に飾られるまでのやり取り。
えっ、それを居間に!?なんでみんな受け入れる!?いやいや、可怪しいだろーーー!
と、一人でツッコミ入れまくりでした(笑)。

唖然となったといえば、突然視点が変わった時も面食らわされたなぁ。もちろん
善福丸にもだけど、アノ人が出て来たのにもびっくりした。川太郎が動き出した時の
光景を思い浮かべたら、完全にホラーでしたね・・・。あれで、あの人じゃないかと
思える佐知がすごい。血が繋がっているからこそ、通じるものがあったんだろうなぁ。
そこのくだりは、なんだかちょっぴり感動してしまった。あの人が、なんとかしようと
とっても必死に頑張っているので。映像はホラーなんだけど・・・^^;;
って、読んでない人には何が何やら訳わからない感想ですみません。読んでいただければ
わかると思います・・・(おい!)。

内装業者のお兄さんと佐知の縁は、あのまま切れちゃうのかなーと残念に思っていたので、
最後の展開にはニヤリ。雪乃でかしたー!って思いました。雪乃は、佐知が結婚しても
寂しくないのかな、とは思いましたけど。私だったら、一緒に住んでいる同い年の友だちに
先に彼氏が出来たら、置いてけぼりを食ったような気になって、素直に祝福できない
かもしれないなぁ。心が狭い人間なんで・・・(小さっ)。

小さな事件大きな事件いろいろありましたけど、終始楽しく読めました。あちらこちらに
しをんさんらしさが散りばめられていたと思います。突然ファンタジーになるところ
には面食らわされたところもありましたが^^;;そういえば、『神去なあなあ~』も、
一部ファンタジックな要素は出て来たし、そういうのがお好きなのかしらね。
出て来るキャラもみんな個性的で嫌味がないのが良かったな。多恵美の元カレなんかは
イラッとさせられたけど。もっと女同士のジメジメしたいやらしさみたいなものが
あるのかな、と身構えていたのですが、そういうのはほとんど感じなかったです。
それぞれに淡々としたところがあるせいかな。しいて云えば、鶴代の性格にはちょっと
イラっとさせられたかも。自分の母親だったら、多分毎日ケンカになりそうだ^^;
せめて、娘の仕事に対してはもっと理解してあげて欲しいなぁ。あれだけの熱意を
持ってやっているのだから。
山田さんのキャラも面白かったです。佐知が終盤、少し山田さんに優しくなるところが
良かったな。あんなに親身になってくれてるのに、冷たい態度取ってしまっている
ところがちょっと嫌だったので(気持ちはわからなくもないけれど・・・)。
佐知の刺繍に対する情熱には頭が下がる思いがしましたね。佐知の作品を生で見て
みたくなりました。お嬢様育ちで世間知らずでも、仕事に対してはすごく真摯なところが
偉いな、と思いました。

思っていたのとは大分違った内容でしたが、所々にくすくす笑えて、ちょっぴり
感動出来る要素もあって、ほんのり恋愛要素も含まれていて。エンタメ要素
たっぷりで、楽しく読めました。