ミステリ読書録

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乙一 ・中田 永一 ・山白 朝子・越前 魔太郎・ 安達 寛高/「メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション」/朝日新聞出版刊

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乙一・中田 永一・山白 朝子・越前 魔太郎・安達 寛高 「メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション」。

「もうわすれたの? きみが私を殺したんじゃないか」
(「メアリー・スーを殺して」より)

合わせて全七編の夢幻の世界を、安達寛高氏が全作解説。
書下ろしを含む、すべて単行本未収録作品。
夢の異空間へと誘う、異色アンソロジー

<収録作品>
乙一 愛すべき猿の日記 / 山羊座の友人
中田永一 宗像くんと万年筆事件 / メアリー・スーを殺して
山白朝子 トランシーバー / ある印刷物の行方
越前魔太郎 エヴァ・マリー・クロス
(紹介文抜粋)


乙一さんの最新短編集。アンソロジーのような体裁を取ってますが、寄稿者の名前を見れば
一目瞭然、実際はすべてが同人物による短編集。たくさんの別名を持っている乙一さんだからこそ、
できる構成ですね。
なんとも贅沢な作品集を作ってくれたものです。解説を担当している安達さんのことは
知らなかったのですが、ネット検索していたら、乙一さんの本名なのだとか。
うーん、面白いことを考えるなぁ。さすが、天才・奇才、乙一
中田さんの『宗像くん~』表題作の『メアリー・スー』は別のアンソロジーで既読でしたが、
改めて読んでも面白かったですね。
乙一さんらしさが一番出ていたと思うのは、やっぱり乙一名義の『山羊座の友人』でしょうか。
ページ数も一番多いですし、ミステリとしての出来も良かったと思います。
山白さん、越前さんの幻想怪奇色の強い作品も素晴らしかったです。
どれを読んでも、さすが乙一、という水準のものばかりだったと思います。
久しぶりに乙一さんらしい作品が読めて嬉しかったです。今度は、乙一名義でミステリー
長編をぜひともお願いしたいです。

では、一作づつ感想を。

乙一「愛すべき猿の日記」
怠惰な日常を送る大学生の主人公が、実家の母親から送られて来た、父の形見のインク瓶を手に
したことから、少しづつ意識改革が起きて日常が変わって行くお話。
棺桶のようにそっけない部屋に住んでいた主人公が、次々と意識改革を行って、生活を
変えて行く過程が面白かったです。基本、生真面目な性格なんでしょうね。いろんなことに
興味を持って、いろんなことに気づいて、生活が色づいて行く。最終的には結婚して子どもまで
作ってしまうのだから、人生というのは、何がきっかけで変わって行くのかわからないものですね。

乙一山羊座の友人」
ベランダに様々な漂流物が流れ込んで来る主人公の家。ある日、未来の新聞が流れ着いた。
その新聞には、二ヶ月先の出来事について書かれていた。それは、同級生が起こした殺人事件の
記事だった――。
殺人犯と目された同級生を自宅に匿い、挙句の果てに一緒に逃亡するまでに至る主人公。
二人の逃亡生活の裏には、事件の意外な真相が隠されていました。
携帯電話の8のキーについていた血痕から、事件の真相を導き出すところには感心しました。
二人の少年の友情物語としても、ミステリーとしても読み応えのある一作だと思います。
真犯人が、ある人物に罪をなすりつけようとした真意だけが、ちょっと腑に落ちなかった
ですけれど。そういうことをするような性格だと思わなかったので・・・。そこだけは、
ちょっとショックだったかな。ラストもやりきれない気持ちになりました。

中田永一「宗像くんと万年筆事件」
これは以前に既読だったんですけど、改めて読んでもやっぱり良かったですね。
クラス中で嫌われている宗像くんが、主人公のためにありったけの勇気を出して、
万年筆盗難の犯人を追い詰める場面には胸が熱くなりました。
宗像くんが、その後どういう生活を送るのか、ぜひまたどこかで書いて頂きたいです。

中田永一メアリー・スーを殺して」
これも既読。メアリー・スーとは、小説を書く上で、書き手が自己を投影し、理想化された
キャラクターのことだそう。もともとは、アメリカのSFテレビドラマスター・トレック
二次創作小説に登場したオリジナルキャラクターなのだとか。漫画やアニメの同人誌を書く時に、
勝手に自分が作った、自分の願望が込められたキャラクターを登場させちゃうというもの。
大福まんじゅうのような体型で、根暗で自信のない性格だった主人公が、部活で創作小説を
書く際に、メアリー・スーが必ず作中に登場することを批判されてしまい、自己改革を
進めて行く話。乙一さんの猿のやつとちょっと展開が似ているような。大福まんじゅうから、
美しい女性へと変貌した主人公は、小説を書く熱意を失ってしまう。変貌前の鈍重な彼女は、
確かに痛い性格ではあったけれど、作品への情熱を迸らせていたあの頃の方がキラキラしている
ように私には思えました。美しくなった彼女が、再びどんな作品を書くのか、それはそれで
興味があるな、と思いました。

山白朝子「トランシーバー」
乙一に近い切ない作品。震災で妻と息子を失った主人公が、生前息子に買い与えたトランシーバー
で、亡くなった筈の息子と会話を交わすお話。ただただ、やるせない。現実逃避するために酒に
溺れ、泥酔状態で死んだ息子と交信する主人公の悲痛な思いが伝わって来て、胸が痛かったです。
原発のことも含めて、あの震災についての想いが込められた作品なのではないかと思いました。

山白朝子「ある印刷物の行方」
いつかの未来、3Dプリンターで本当にこういうことが出来てしまう世の中が来るとしたら、
本当に怖ろしいことです。これは、人間のタブーに抵触するのではないかと思う。クローンを
作るのがタブーなのと同じように。
研究所から出る廃棄物を焼却処分する仕事をすることになった主人公の女性。その廃棄物は
密閉されていて、中が絶対に見れないようになっている。以前この仕事に就いていた人間は
何人もが辞めていて、その研究所では、過去に何人もが自殺しているという噂があった。
廃棄物の中身がなんともショッキングで、ぞぞーっとしました。こんな仕事は絶対に絶対に、
やりたくないです・・・。中身を知ってしまったら最後、精神が破壊され廃人になるでしょう。

越前魔太郎エヴァ・マリー・クロス」
うだつのあがらない三流出版社の記者の俺は、亡くなった町の名士・バーンスタインについての
奇妙な話を耳にする。遺品整理をしたところ、『人体楽器』の証拠が見つかったというのだ。
『人体楽器』とは何なのか。スクープを求めて、俺はバーンスタインについて調べ始めるのだが。
人体楽器のおぞましい設定には背筋が寒くなりました。でも、この上もなく気味が悪いのに、
不思議とそのグロテスクさに惹かれるところもあり。でも、映像化されたら気持ち悪いだろうな~^^;
シュールなキワモノ好きにはたまらない作品かも。
越前さんの作品は読んだことがないのだけど、この人体楽器という設定は、氏の『魔界探偵
冥王星0』にも登場するのだとか。そちらも読んでみたくなりました。


やー、バラエティに富んだ作品集でしたが、どれもさすがの出来でしたね。
堪能させて頂きました。面白かったです。