ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

吉田修一/「橋を渡る」/文藝春秋刊

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吉田修一さんの「橋を渡る」。

ビール会社の営業課長、明良。
部下からも友人からも信頼される彼の家に、謎めいた贈り物が?
都議会議員の夫と息子を愛する篤子。
思いがけず夫や、ママ友の秘密を知ってしまう。
TV局の報道ディレクター、謙一郎。
香港の雨傘革命や生殖医療研究を取材する。結婚を控えたある日……
2014年の東京で暮らす3人の選択が、未来を変えていく(紹介文抜粋)。


吉田さんの最新作。四部構成で、一話ごとに主人公が変わる群像小説形式。『怒り』
構成は似ているかな。
三部までは、現実に起きた事件やワイドショーを賑わせた出来事なども織り交ぜた
非常にリアルな現代小説。国会のセクハラヤジ問題とか、韓国のセウォル号の沈没事故
とかマララさんの名言とか、ニュース番組で連日取り上げられた出来事が出て来るので、
自分もあの時あんなことやこんなことを思ったなーとか、思い返しながら読んでました。
各作品は微妙にリンクがあるものの、登場人物などはほとんど重複していないので、
四部を読むまでは全くバラバラのお話にしか思えません。一体どういう繋がりがあるのかなぁ
と不思議に思っていたのですが・・・四部でまさかの展開。目が点になるとはこういう
ことを言うのだな、という感じでした・・・^^;;
一話目の主人公は、ビール会社の営業課長である明良。妻子ある身にも関わらず、
真沙という若い女と不倫関係にあります。ある日、ギャラリーに勤める妻歩美の元に
朝比奈という男が絵を売り込みに来ます。才能がないと判断した歩美が断ると、直接
歩美の自宅にやって来て直談判する等、ストーカーじみた行為に走るように。その後、
なぜか自宅の玄関前に酒や米が置かれるという不可思議な出来事が。朝比奈の仕業なのか?
二話目の主人公は、都議会議員の広貴を夫に持つ専業主婦の篤子。塩村文夏都議議員への
国会のセクハラヤジ問題が、夫の仕業なのではないかと疑っている。そんな篤子の趣味は、
週刊誌の編集部に電話をかけて、どうでもいいクレームをつけること。ある日、篤子がスーパーに
買い物に行くと、会計の時に、カゴの中に入れた覚えのないカニ缶が入っていた。その後、
再びスーパーに行った時、今度は入れた覚えのない桃の缶詰が入っていた。誰かのいやがらせなのか?
三話目の主人公は、篤子がクレームをつけている週刊誌の編集者・謙一郎。もうじき、フィアンセ
の薫子との結婚式が控えている。謙一郎は、ライフサイエンス研究所の佐山教授を取材している。
佐山教授は、iPS細胞を使った再生医療を研究しており、血液から精子卵子を作って、受精させ、
子どもを作るという研究である。クローン人間とは違い、出来た子どもは、血液の持ち主とは違う
別人格を持つのだという。謙一郎の婚約者、薫子は、実は他の男性に想いを寄せている。
相手は既婚者で不倫の関係である。その事実を知った謙一郎は逆上し、薫子の首を締めて殺してしまい、
警察から追われる身に。

と、ここまでは、それぞれの主人公たちの、一見ばらばらに見える人生が、真に迫る心理描写と
共に語られ、すいすい読み進められました。
が、問題はここから。
この先は作品のネタバレになってしまうので、未読の方はご注意下さい。















まず驚いたのは、四話目が70年後の近未来だという舞台設定自体。しかも、主人公は
サインと呼ばれる、遺伝子操作で作られた人間、外村響。
いきなり話がSF的になって、面食らわされました。しかも、70年前からタイムスリップして
来た男まで出て来る始末。
設定を把握するまで、戸惑いもあって少々時間がかかりました。最後まで読むと、確かに
それぞれのお話とちゃんとリンクしていて繋がっているのがわかるのですが、それが
ミステリ小説のようにすっきり解決したかというと、そうではなかったので、最後は
もやもやした読後感でした。
非常に人間関係が複雑なので、誰と誰が血縁関係で、とか、そういう部分はとても
わかりにくかったですね。
PCのメモ機能で簡単に人物関係を書き出してみて、やっと全体を理解出来たという体たらく(アホ)。
それでも、完全に腑に落ちた訳ではありません。
結局、明良と歩美の家の前に米と酒を置いたのは誰なのか、とか、篤子の買い物カゴに
カニや桃の缶詰を入れたのは誰なのかとか、わからないまま。読書メーターで、
米と酒が四話で出て来たサイン(遺伝子操作で出来た人間)の響の化身で、桃の缶詰が同じく
サインの凛の化身なのでは、という説を唱えた方がいらっしゃるようですか、それはさすがに
無理があるのではないかと思うのですが・・・。彼らを象徴するものなのは間違いないとは
思いますけれど・・・うーむ。謎。
冒頭に『怒り』に似た構成と述べましたが、伏線が回収されないままもやもやした読後感って
ところも似ているかも^^;ミステリ狙って書いてる訳じゃないから、その辺は曖昧なままでも
いいと思っていらっしゃるのでしょうかねぇ。
ミステリ好きとしては、その辺きっちり書いて欲しいのですけれどもね。
せっかく元の世界に戻れた謙一郎を待ち受けていたのは、皮肉なだけの現在でした。
どんなに願っても、ダメなものはダメだといいたかったのでしょうか。それならば、
なぜ謙一郎は70年後の未来にタイムスリップしたのか。その辺りもよくわからなかった
ですね。逆に、響と凛は、70年前の世界に行ったことで救われたのではないかな。
彼らの肉体がどうなったのかは、よくわからないですけれど。何かいろいろ腑に落ちない
ところが多かったなぁ。




うーん、三部までは非常に面白くのめり込んで読んでいただけに、最終章が残念だったなぁ。
なんか、もっと違う風にも書けたように思うのだけれど。
これも、賛否両論分かれそうなお話だな、と思いました。