ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

榊林銘「あと十五秒で死ぬ」(東京創元社)

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ゆきあやさんの記事で興味を引かれて予約した作品。一年くらい待ったような^^;

ようやっと読めました。久しぶりにミステリ・フロンティアの作品を読んだなぁ。

初期の頃はよっぽど苦手そうな題材じゃない限りは、なるべく読むように頑張って

いたのだけれど、途中から追いきれなくなって、今は食指が動くものだけ読むって

感じになってます。東京創元社から出ているだけに、あまり外れもないとは思うの

ですけどね。

本書は、なかなかにぶっ飛んだ設定です。死ぬまでの15秒をテーマに四作の

短編が収録されています。特殊設定のミステリというのはたくさんあるけど、

こういう切り口が残っていたか~!と感心させられました。好きなのは一作目と

四作目かな。一作目で、『おおっ!』と思わされたものの、二作目、三作目は

さほど好みの作品という訳でもなかったんですよね。で、ちょっとテンション

下がりつつ読み始めた四作目。な、なんじゃ、こりゃ~~~っ。度肝を抜かれ

ました。いやもう、ツッコミ所は満載なんですよ?ありえないでしょ!と言いたくも

なるんですよ。でも、そこは受け入れて読むしかない訳です。それを受け入れた

上で読むと、これ以上ないくらい、良くできたミステリ。ほぉ~。いや、映像を

想像すると地獄なんですけどね。どういう身体のシステム!?もう、?だらけ

なんですけどね?リアリティとか度外視してますよね。でも、その特殊設定を

実に上手くトリックに落とし込んでいる。この作品読めただけでも、この一冊を

読んだ甲斐があったと思いましたね。まぁ、怒る人もいそうではありますけど^^;

スプラッタって訳でもないけど、そういう系が苦手な人は受け入れられないかも?

シュール過ぎて、かえって私は笑えましたけどね・・・(苦笑)。だって、○を

お手玉みたいにとっかえひっかえするんですもん。10秒ちょいでソレをやってる

ところを想像すると・・・もう、お笑いでしかないですよ(笑)。本人たちは

死と隣合わせで必死なんでしょうけども。これはもう、読んでみて下さいとしか

言いようがない作品ですね。ラスト、一体どうやって収拾つけるのだろうと首を

傾げていたのですが・・・なんとまぁ、すごい力技を持って来たもんだ。シュール

すぎる。でも、これをやったことで、○との数合わせも上手く行った訳で。もう、

めちゃくちゃだけど、一応の辻褄は合っているところがすごい^^;特殊設定の

詳細を記事で明かさないのは、先入観なしに読んで欲しいからです。多分、冒頭で

明かされるこの村の人の特殊な性質に面食らわされる筈です。『屍人荘の殺人』を

読んだ時の感情に近いかな。読者は、この設定を受け入れるしかない。どれだけ

不条理であろうとも。ミステリファンなら絶対唸らされる一作だと思いますね。

一作目の『十五秒』は、何者かに銃で打たれ、あと十五秒後に死ぬ女性の前に

不思議な猫が現れて、『あと15秒で死ぬ』と告げられる話。残された十五秒で、

犯人を特定し、復讐しようと画策した女性がやったこととは何なのか。

救いのないお話かと思いきや・・・予想外のオチに驚かされました。狙撃者に

とっては、ある意味救いがない結末なのかもしれませんが。

二作目の『このあと衝撃の結末が』は、犯人当てドラマを観ていたところ、

エンディング直前に席を外している間に、衝撃の展開になっていた。席を外した

十五秒の間に一体何が起きたのか。これはあんまりピンと来なかったな。クイズ

を当てたアヤちゃんは、主人公の姉とは全く関係ない?単に私の読み取り不足

かと思います(アホ)。

三作目の不眠症は、夢の中で母親と車に乗っていて、大型トラックが

迫って来る夢を何度も見る主人公。この夢が示唆するものとは?

主人公が、心に不安があると難聴の症状が出る、という設定が最後に効いて来る

ところがうまいですね。他の作品とこれだけ作風がまったく違う。ただ、こういう

作品よりは、完全に振り切った四作目みたいなシュールさ満載の作品の方が私は

好みでした。

 

同じテーマでも、これだけバラエティに富んだ作品が書けるというのはなかなかの

才能だと思います。長編も読んでみたい。

今後も注目したい作家さんですね。

ご紹介してくださったゆきあやさんに感謝です。

(四作目はタイトルでネタバレしてるんで、タイトルも伏せておきましたw)