ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

読了本三冊。

11月も終わりですね。ついに今年も残りひと月かぁ。は、はやい・・・。
相変わらず予約ラッシュ継続中ですが、12月は仕事が忙しいので読む時間が
あまり取れなそうでどうしたものかと思っております。
今月は二日に一冊ペースで読めたんだけどなぁ。


読了本は今回も頑張って三冊。なんとかこのペースで行きたいぞ。


阿部智里「烏は主を選ばない」(文藝春秋
先日読んだ一作目が面白かったので、続けて予約。一作目は女性目線でしたが、今回は
前作でなかなか登場して来なかった若宮サイドのお話なので、男性が中心。同じ時期の話
なのに、全く趣が違うのが面白いなーと思いました。あちらでは何を考えているのか
わからず、あまりいい印象のなかった若宮ですが、今回のお話を読んで、かなり印象が
変わりましたね。ただ、主人公は若宮ではなく、理由あって若宮に仕えることになり
朝廷にやって来た少年、雪哉。家族からはぼんくら少年と思われて来た彼ですが、初日から、
若宮に言いつけられたハードな仕事をほぼ完璧にこなし、若宮のお気に入りになります。
今まで、若宮の元にはたくさんの側仕え候補がやって来たものの、若宮が言いつける
仕事量があまりにも多くてこなしきれない為、彼らはすべて嫌になって辞めてしまって
いたのでした。要領よく仕事をこなす雪哉の仕事っぷりは気持ち良かったです。家族には
ぼんくらだのうつけだの散々な評価をされていた雪哉でしたが、彼の仕事の進め方は、
とても合理的で、頭の回転が早い人間のやり方だと思いました。そもそも、基本的に
真面目な性格で、人の目がなくても、サボったりしないし。彼がうつけだと言われている
背後には、何か理由がありそうだなーとは思っていたのですけど・・・最後まで読んで、
納得。こういう事情があったんですねぇ。
今回も、終盤でミステリ的な驚きがありました。このシリーズは、やっぱり基本的には
ファンタジー混じりのミステリなんですね。前作よりは驚きが少なかったけど。
若宮の協力者には驚きましたねぇ。その人物、いい人なのか悪い人なのか最後まで
よくわからなかったんですよね。登場した時は良い人かな、と思っていたのだけど、
途中であれ、やっぱり敵側?って思えてきて、終始印象が二転三転していたので・・・。
でも、やっぱり最初の印象があってたんだなーとちょっと嬉しかった。
一作目で出て来たお嬢様たちは会話の中にちらっと登場するくらいなので、そこは
ちょっと残念だった。ほぼ同時期のお話だと聞いていたので、若宮の、各姫君に対する
思いとかが出て来るのかな?と思っていたので。思った以上に、彼女たちに対してドライ
だったというのはよくわかったけれど^^;あの人物に対する想いに関してもほとんど
触れられなかったのでね。次で出て来るのかしらん。
でも、一番残念だったのは、最後の雪哉の決断。うーん、彼がつきつけた条件は、
さすがに若宮に受け入れさせるのは無理があるでしょう。彼もそれはわかった上で発言
したのかもしれませんけれど。これから、若宮の手となり足となり働いて行くのだろう
なーと思っていただけに、このラストはかなり意外でした。あっさり、こういう結末に
するところが、この作者のすごいところだと思う。もっと、べたべたした終わり方にも
出来る筈なのに。雪哉のキャラが気に入ったので、残念なところはありましたけど。
でも、読書メーター見てたら、彼はちゃんと次の作品にも登場はするみたいなので、
ちょっとほっとしているのですけれど。そして、すでに三作目も予約済で、すでに回って
来ているところだったり。予約本が山積みなんで、無事読めるかちょっと怪しいですけど。
しかし、このシリーズどういう方向に進むのかさっぱり読めないですね。次回は、若宮と
あの姫君が結ばれるのかな??続きも楽しみ。


鯨統一郎「ベルサイユの秘密 女子大生桜川東子の推理」(光文社)
ヤクドシトリオシリーズ最新刊。いつの間に、このシリーズ東子さんの名前が
タイトルに入るようになったのやら。最初の頃はなかったですよねぇ。ここ
数作は入っていたような気もしますけど・・・。
渋谷区の外れに佇むバー『森へ抜ける道』で、お馴染みのメンバーたちが
夜毎繰り広げられる推理合戦を描いた連作短編集。大学でメルヘンを専攻している
桜川さんが、今回推理に取り入れたのは、宝塚の演目。ベルばらや、風と共に去りぬや、
エリザベートなど。大化の改新をテーマにした『あかねさす紫の花』という演目の
ことは全然知りませんでした。
相変わらずミステリとしては少々強引というか、宝塚の演目になぞらえる必要性は
あまり感じなかったのだけど(^^;)、まぁ、このシリーズはヤクドシトリオと
東子さんや従業員のいるかちゃんとの会話を楽しむシリーズなので。毎度ながら、
マスターのアホさ加減と、彼の発言にいちいちツッコミを入れる工藤の独白に
何度吹き出しかけたことか。今回初登場の植田刑事と渡辺刑事も加わって、
賑やかしいことこの上もなく。このバーって、常連以外の客がほとんど入って
いないような。こんなんで経営大丈夫なんでしょうか^^;
あ、あと、今回のお酒はウィスキーが結構出て来ました。私はお酒飲めないので、
毎回ふーん、って感じなんですけど、お酒好きなら、いろいろと勉強になる
薀蓄も出て来てました。うちの相方なら食いつきそう(お酒ならなんでも
好きですが、ウィスキーもかなり好きらしい)。
ちなみに、ミステリ部分は特に特筆すべきところはありません(おい!w)。
でも、なんか読んじゃうんですよね。鯨さんの作品って。見限る人は、一作で
見限るかもしれないですけどね^^;;私はこのクダラナサが大好きです。


内山純「土曜はカフェ・チボリで」(東京創元社
特に予備知識はなかったのですが、鮎哲賞受賞された作家さんの東京創元社からの
連作短編集ってことで、これは一応読んでおかねば、と手に取った次第。
うん、なかなか面白かった。土曜日しか営業していない謎のレストラン
『カフェ・チボリ』
そのお店のお客第一号となった児童書出版社の編集者・香衣は、ひとめでそのお店の
ファンになり、常連客に。店主は、なんと現役の高校生男子。土曜しかやっていない理由は、平日は学校に行っているからだった。香衣と同じ日に常連になった石川や如月と共に、お店で美味しい料理や飲み物を前に寛いでいると、常連客の誰かが身の回りで起きた不思議な出来事を語り始める。その謎を巡って、みんなで推理合戦が始まり、最後に謎を解くのは、高校生店主のレン。彼がゆったりとマッチを擦りながらある呪文を唱えると、くつろぎの時間が始まり、その口から意外な真相が語られ始めるのだ――。
こちらも、食べ物や飲み物を前にしながら、すでに起きた事件をその場の人間たちで推理し合う安楽椅子探偵もの。イメージは、日本版の黒後家蜘蛛の会みたいな感じでしょうか。
途中で誰かがポロッと口にしたヘンリーって、あのヘンリーのことでしょう。作者も敢えて意識しているのを感じました。主人公香衣が童話の出版社に勤めていることもあり、すべてのお話の謎解きに童話がモチーフとして出て来ます。鯨さんの作品と違うのは、謎の内容が殺人ではなく、日常の謎というところでしょうか。二話目の『きれいなあひるの子』最終話の『カイと雪の女王は内容的にちょっと繋がりがありまして、日常の謎と括ってしまうには憚られるような、悪質な思惑が入った内容ではりましたけれど。特に最終話の犯人の、犯行が明らかになってからのあまりにも身勝手な言い草には、腹が立って仕方なかったです。香衣のお人好しな態度にもイラっとしました。私だったら許せない~。レンの怒りもごもっともだと思いました。
レンは最後に香衣に感謝していましたけどね。
デンマーク料理を出すカフェ・チボリの設定がいいですね。店主のレンのキャラ造形も
良かったですし。レンが作るデニッシュやお料理はどれもほんとに美味しそうだし。
ただ、一作ごとにだんだんとお料理描写が控えめになっていったところは残念だったかな。
せっかく美味しいお料理を供するカフェって設定なのだから、もうちょっとお料理描写には力を入れてもいいのかな、と思いましたね。そもそもデンマーク料理って馴染みがないし。もうちょっとそこは、強調してもいいのじゃないかと。
主人公香衣と彼女の母親との関係には、ちょっとイラっとさせられました。母親があまりにも香衣をないがしろにする態度なんで。ビデオくらい自分で録れよ!って言いたくなりましたし。
弟史上主義過ぎるのもね。家族内で孤立してしまう香衣が可哀想でした。弟の天真爛漫なキャラが救いだったかな。いい年して、母親のことを『ママ』って呼ぶのはどうかと思いましたが^^;
香衣の想い人、土方の職業にはビックリ。そう来たか。せっかくいい雰囲気になりそう
だったのに、気の毒としか^^;レンを相手役にするには、年が離れ過ぎているしねぇ。
ミステリ的には、さほど瞠目するほどの驚きはなかったのだけれど、設定やキャラは好みだったので、十分楽しく読めました。隠れ家的な行きつけのお店で、みんなでわいわいと謎解き話に興じるっていう雰囲気がすごく楽しそうでいいな、と思いました。こんなお店があったら私も通いたい~。しかし、週一回だけの営業ってのは、なかなか採算取るのは難しそうだ。坊っちゃんの道楽みたいなところからスタートしてるから、別にこれはこれでいいのでしょうが。
最終話は、最後に温かい気持ちになりました。レンと伯父さんの誤解が解けて良かったなぁ、と嬉しくなりました。
鮎川哲也賞でデビューしたそうなので、そちらのデビュー作も気になりますね。
この作品もシリーズ化できそうな感じなので、また続編が読めると嬉しいです。