ミステリ読書録

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阿部智里/「黄金の烏」/文藝春秋刊

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阿部智里さんの「黄金の烏」。

 

八咫烏の一族が支配する世界山内で、仙人蓋と呼ばれる危険な薬の被害が報告された。その行方
を追って旅に出た、日嗣の御子たる若宮と郷長のぼんくら次男雪哉が、最北の地で発見したのは、
何と村人達を襲い、喰らい尽くした大猿だった。生存者は小梅と名乗る少女がひとりだけー。
一体、この世界で何が起こっているというのだろう?(紹介文抜粋)


八咫烏シリーズ第三弾。すっかりハマってしまいました(笑)。前作のラストで
雪哉がああいう決断を下して、この後一体どうなっちゃうのかなぁと先の予測が
全くつかない状態だったのですが、今回の作品でまたこの八咫烏の世界観がぐっと
広がったような感じがしました。雪哉もばっちり再登場してくれて、嬉しかったです。
今回は、八咫烏を喰らう大猿の出現によって、山内内が大混乱するという話。人間界で
言うところの麻薬のような『千人蓋』と呼ばれる薬まで出回ってて、不穏な空気に。
なぜに大猿!?とちょっと面食らわされたところはあるのですが、猿たちがひとつの
集落を襲い全滅させるくだりは、まさに八つ墓村の世界だと思いました。なかなかに
エグい描写も入っていて、ちょっとキツかったところもありました。特に、大猿たちが
男性に施した処置のくだり。想像すると吐き気が・・・うへぇ(><)。今回の作品
読んで、やっぱりこのシリーズは本格ミステリを意識しているのは間違いないだろうな、と
思えました。今回もラストにはしっかりミステリ要素を取り入れているしね。
雪哉が地下街の隧道に入ってあるものを取って来るくだりは、ちょっとした
冒険小説のような感じで、ちょっとワクワクしました。ドラクエのダンジョン
みたいな感じ?それか、インディ・ジョーンズか。雪哉にとっては、死活問題では
あったのだけど^^;
小梅に関しては、雪哉同様、いろいろと騙されていたなぁ。雪哉視点で見ていた
せいか、全然好感持てなかったし。またしても、作者の奸計にまんまとはまって
しまった。プロローグの出来事が、ああいう風に繋がるとは。冒頭の彼女のことは、ずっと
気になっていたのだけど、作中に出て来る人物で該当する人がいなさそうで、
一体誰なんだろう、とは思っていたのだけどね。わかってみれば、なるほど、って
感じ。思わぬ伏兵が出て来て驚かされました。
雪哉が単に、女性を見る目がないってことなんでしょうねぇ。彼は酷く頭はきれる
けど、恋愛関係に関してはまだまだ子供ということですね。この作品ではまだ15歳
なのですものね。
小梅はその後どうなってしまうのでしょう。それが一番気になりました。彼女に
関しては、この作者さんだから、最悪の結末しか思い浮かばなかったのだけど、
結果としてその最悪は免れていたのだから、今後も出て来る筈だとは思うのだけど。
垂氷の郷長屋敷でそのまま雇われることになるのかな。雪哉との関係もどうなって
行くのやら。雪哉の方にわだかまりが残って、なかなか仲良くなるところまで
行かなそうな気もするけれどね。雪哉も、そこまで子供じゃないか。

 

それにしても、真の金烏っていうのは、厄介な存在ですね。八咫烏にとっては
神様のような存在ではあるのだけど・・・若宮本人にとっては、こんな風に
生まれてしまったことは、気の毒というしかない。これから、どんな大きな
災厄に見舞われるのやら。それでも、己を顧みずに使命を全うしなければならない
なんて。でも、そのことをわかってあげられる人物が側にいるというのが、
せめてもの幸いと云えるのかな。味方は限りなく少ないとはいえ、たった一人で
戦う訳ではないのだから。

 

結局、若宮と雪哉はこれからも一生の付き合いになって行きそうですよね。前作の
ラストではショックを受けましたが、今回のラストの雪哉の決断には嬉しい気持ちに
なりました。次巻は当然、雪哉があそこに行ってからの様子が描かれるのでしょうね。
若宮サイドの話は平行して描かれるのかな?
若宮にとっては、最強といえる側近を手に入れたのだから、とりあえず良かったです。
続きも楽しみです。