ミステリ読書録

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歌野晶午「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」/宮木あや子「校閲ガール トルネード」

どうもこんばんはです。年末ランキング発売されたみたいですね。
私はまだチェックしていないのですけれど、今日の新聞広告でこのミスの一位が
竹本さんの『涙香迷宮』だということだけ知りました。本ミスの方では間違いなく
上位に入ると思っていたけれど、このミスの方で評価されるとは思わなかったなー。意外。
もちろん、文句なしのランクインだとは思いますけどね。
早く本屋行きたいなぁ。


今日は二冊です。


歌野晶午「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」(角川書店
こちらもランキング本を賑わせそうな作品でしたねぇ。江戸川乱歩の有名作品を
下敷きにした短編集。どれもなかなか一筋縄ではいかない、捻りの効いた作品ばかりでしたね。
特に、表題作は白眉の出来じゃないでしょうかね。オチの黒さも含めて。最後の
どんでん返しも効いてますし。しかし、個人的にこの容赦のないラストは好きとは
言えないですけど・・・。まぁ、この徹底した救いのなさが歌野さんらしいのかも
しれませんけどね。

 

では、とりあえず一作づつ軽く感想を。

 

[椅子?人間!]
もちろん、原典は人間椅子ですね。私、原作読んだんだか、いまいち覚えて
ないんですけど。ストーリーは知っているから、読んだ気になっているだけかも。
乱歩はD坂とか二銭銅貨とか有名所しか抑えてないからなぁ。
これ、オチは多分こうだろうなーと思った展開そのままでした。ストーカー男の言動が
気持ち悪かったなぁ。5年の月日をかけて復讐の方法を考えるという粘着質なところも
気味悪いし。でも、女の方にも原因はあるし、この二人に関しては、どっちもどっちなのかも。

 

[スマホと旅する男]
原典は押絵と旅する男だそうです。知らない^^;
これは、オチに驚かされた。そっちだったのか―!という感じ。全く目に留めていなかった
人物が突然登場して唖然。確かに、最初の方から出て来てはいたのだけども。スマホ
最新テクノロジーが出て来るけれども、ミステリとしては古典的な騙しの手法。この
バランスがさすがだと思いました。

 

[Dの殺人事件、まことに恐ろしきは]
原典はもちろん、乱歩の超有名作『D坂の殺人事件』。そちらはさすがに既読です。
あれの坂は団子坂じゃなかったでしたっけ。こちらは渋谷の道玄坂。確かにこっちもD坂(笑)。
先述した通り、ラストはとことん救いがない。主人公の冴えないオッサンと、渋谷に住む
理由ありそうな少年が事件を通して仲良くなり、心を通わせて行く話かと思いきや・・・
ラストはどどーん、と落とされます。末恐ろしい少年だなぁ。末は博士か犯罪者か・・・。
最後にタイトルのDの殺人の意味がわかって、なるほど、と思いました。そういう意味か。

 

[「お勢登場」を読んだ男]
原典はタイトルにある『お勢登場』だそうです。不倫してる妻が、長持の中に隠れたまま
出られなくなった夫に対して、ある画策をする、というようなストーリーらしい。悪女小説
の白眉だとか。この作品も、年の離れた妻を持つ夫が、妻の父親の介護に疲れて、義父を
茶箱に閉じ込めて亡き者にしようと画策する。しかし、間違って自分が閉じ込められてしまい、
スマホで海外出張中の妻に助けを求めるが、妻は・・・という話。妻の真意がわかるラストに
ぞぞーっとさせられます。遠くにいても、こういう方法でアレを使えなくする方法があるん
ですね。基本操作すら怪しい自分には、知識があっても到底使いこなせそうにないです^^;;

 

[赤い部屋はいかにリフォームされたか?]
原典は『赤い部屋』。乱歩の『赤い部屋』を劇団員だちが演じているという設定で物語が
進んで行きますが、劇の途中でハプニングが起きて・・・という話。
どこからどこまでが演劇で、どこからが現実なのか、だんだんわからなくなりました。
しきりに用事があると帰りたがっていた男の用事って一体何だったのかなぁ。結局
ああいうことしたら、帰れなくなるじゃんね(呆)。

 

[陰獣幻戯]
原典は『陰獣』。性的に異常なことを自覚している教師が、北欧商品を扱う店で働く
女性を気に入り、店に通いつめる。彼女を妄想対象にする為だ。するとある日、彼女から
深刻な悩みを打ち明けられて――という話。
主人公の性癖が最後のオチに効いてましたね。こういう人間に教師とかやってもらいたく
ないけどなぁ・・・。

 

[人でなしの恋からはじまる物語]
原典は『人でなしの恋』。出来心で夫を殺してしまった女が、刑期を終えて名前を変え、
70歳の老人と再婚して第二の人生をスタートさせる。再婚した夫は穏やかな性格
だったが、愛も情もない結婚には嫌気がさしていた。そんな時、妻が服役していた時に
同房の先輩に教えてもらった奇妙な言葉が羅列されたおまじないを唱えているのを
耳にした夫は、その言葉が何かの暗号なのではないかと考え、暗号解読を試み始める――。
こんな回りくどい暗号に気付く人間がいるのかなぁ。刑務所だからこその暗号なのかも
しれないですが・・・。暗号を解くことで、愛のない夫婦の中にも仄かに何らかの情が
芽生えるところが良かったです。いや、この時だけかもしれないですけど^^;
ぐーたら主婦が夫を殺す話から、終盤こういう展開になるとは思わなかったです。


本書を読むと、乱歩の原作も併せて読みたくなりますね。やっぱり、乱歩は偉大だな、
としみじみ思わせてくれる作品集でした。



宮木あや子校閲ガール トルネード」(角川書店
ドラマも最終回を迎え、タイミング良く回って来たなぁ、という感じ。ドラマと
原作では大分いろんな設定が変えられてはいるのですけどね。是永是之がアフロ
なんて設定、完全に忘れてました^^;ドラマも、その設定は残して欲しかったなぁ。
前作で、是永君と両想いらしきことがわかった悦子ですが、今回更にその恋に進展が
あります。進展もあるけど、その先もある、という・・・。是永君は、ドラマと原作
では全く逆の道を選ぶんですね。悦子とはいいカップルだと思ったのだけどなぁ。
でも、なんとなく、悦子には是永君よりも貝塚さんの方がウマが合うような気がするな。
ドラマの貝塚さん役の役者さん(名前ど忘れ^^;優香の旦那さんよね)もいい味
出していたものねぇ。
今回悦子は、念願叶って、憧れのファッション誌『Lassy』への異動を言い渡されます。
といっても、結婚情報に特化した『Lassy noces』という季刊誌ですが。そこでの仕事は、
とにかくハードの一言。好きな仕事の筈なのに、仕事が忙しすぎてパニックになる悦子。
校閲部の生ぬるい環境に慣れてしまっていた為、いっぱいいっぱいになってしまう。
好きなことを仕事に出来るって一番羨ましいけど、毎日残業で休日も仕事しなきゃいけない
環境って、やっぱりしんどいですよ。私なら無理だなぁ・・・。好きなことなのに、
逃げたいと思ってしまい、落ち込む悦子。ちゃらんぽらんに見えて、実はものすごい
真面目な子なんだよね。
ラストはやっぱり、こうこなくちゃ、という終わり方。これで最終巻なのかな?とも
思ったりもしたのだけど。でも、このラストなら、続けようと思えばまだまだ続け
られますよね。
校閲の仕事の奥深さも感じられるこのシリーズ、私は大好きです。
章の頭に出て来る、悦子の研修メモのコーナーも業界用語満載で勉強になるし、楽しい。
また続き読みたいなー。