ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介「サーモン・キャッチャー the Novel」/米澤穂信「いまさら翼といわれても」

みなさま、あけましておめでとうございます。
お正月はいかがお過ごしでしょうか。
私はあまり例年と変わらずです。昨日は午前中は地元の神社にお参りに、夕方からは
実家に挨拶に行き、今日は初売りに参戦。毎年恒例の福袋は、まぁ、まずまずの収穫
だったかな。一点だけ着れそうもないものがありましたけど(年齢的にね・・・^^;)。
ちなみに、おみくじは末吉でした。凶のひとつ上・・・しーん。
読書はやっぱりいまいち捗りませんね。なんだかんだで、お正月休みって忙しくて。
貸出期間が長くて良かったよ^^;


というわけで、今回紹介の二冊は、昨年中に読み終えたもの。なんか、すでに若干
記憶が・・・(おい)。


道尾秀介「サーモン・キャッチャー the Novel」(光文社)
ケラリーノ・サンドロヴィッチさんという、劇作家?脚本家?映画監督?俳優さん?という
マルチな活動をされている方とのコラボ企画で出された小説らしいです。どうりで、
作風がいつもとちょっと違うな、という感じがしたんですよねぇ。ケラリーノさんは、
映画を担当するらしいです。
読書メーターの感想でも多かった意見ですが、私も、ちょっと伊坂さんっぽい作風だなーと
思いながら読んでたんですよね。いくつもの視点から語られる群像劇ですし。
ちょっとユーモアを交えつつ進んで行くところも、いつもの道尾作品とは少し
違った印象を受けました。
カープ・キャッチャーという釣り堀が舞台になっています。お客は、池の鯉を釣る度に、
それぞれの鯉につけられたポイントをゲットし、貯まると景品と交換出来るという、
パチンコのようなシステム。
そこに客として来る青年や中年女性や神と呼ばれる釣り名人、アルバイトの女の子や店長
といった登場人物たちが様々な事情を抱えて絡み合って行きます。次々といろんな人物が
登場してくるので、最初は何が何やら、なかなか入って行けなかったです。それぞれの
事情や人間関係がわかってくると、作品を楽しめる余裕も出て来ましたが。ただ、若干
人物の書き分けがわかりにくかったかなぁ。特に、内山の妹・智と、カープキャッチャーの
アルバイトの明は、キャラがなんだか被っていて、たまに混同してしまった。年齢は智の
方が下なんだろうけど(智は女子高生のはず)。
全く関係ないと思っていた人物や出来事が、最後には一つに繋がって行くところは、
さすがだな、と思いましたけども。終盤、みんなで一匹の鯉を見つける為に結束する
うちに、それぞれの胸の裡に仲間意識が芽生えて行くところは良かったですね。まぁ、
その顛末には若干拍子抜けしたところもありますけども。
あと、賢史と明の関係が最後になっていきなり進展するところは、ちょっと唐突に
感じてしまいました。せっかくこういう展開にするなら、その前にもう少し伏線めいた
ものを張っておくべきだったのでは・・・。明が突然ああいう行動に出たから、かなり
面食らってしまいました。相手賢史だし・・・。え、なんで?みたいな^^;
ヒキダスに諦めてもらう為に仕方なくしただけとは思えなかったのですが・・・。
最後にそのくだりのフォローがあるのかと思ったら、何もなくてちょっとガッカリ。
でも、ラスト、ヨネトモの部屋でサンキャッチャーがキラキラ光るくだりは、道尾さん
らしい小道具って感じで、感動的でした。
ヒツギム語の会話がたくさん出て来ると、ちょっと読みにくかった。造語なんでしょう
けども。映像だと、とぼけた感じになって面白いのかも?竹中直人とかが話しそう(笑)。
まぁ、確かに小説よりは映像(どちらかというと、映画より舞台向きな感じがしましたけど)
に向いている話かなーって感じはしました。とにかく登場人物が入れ替わり立ち替わり
するので、細切れに読むと何が何だかわからないかも。できれば、一気に読まれることを
お勧め致します。


米澤穂信「いまさら翼といわれても」(角川書店
久しぶりの古典部シリーズ。いつ以来なんだろうか。すっかり前の作品のことを忘れて
いて、今までの自分の記事を全部軽く読み返してみたのですが・・・まぁ、これが
見事なまでに、感想がブレている^^;そもそも、読んだ順番もめちゃくちゃなんですよ、
このシリーズ。三作目から読み始めて、一作目、二作目・・・と読み進んだという。
んで、三作目はさほど悪い印象はないものの、一作目二作目は結構酷いことを書いている。
奉太郎のキャラが、達観しすぎてて、高校生に思えないのが不満だとか、ミステリ的に
いまいちとか、言いたい放題でした^^;
でも、その割に奉太郎のキャラは気に入っているんですよねぇ。まぁ、とにかく、
最初は苦手なシリーズだったのは間違いないのです。でも、前作辺りから、奉太郎と
千反田さんの関係に変化が出て来て、俄然楽しみなシリーズになったんですよね。
奉太郎にも、高校生らしい感情があるのだとわかったのでね(当たり前なんだけど^^;)。
それを踏まえての今作。今回は短編集で、奉太郎視点三作と、摩耶花視点二作の計5作が
収録されています。
やっぱり、奉太郎視点のお話が面白かったなー。特に、奉太郎の省エネ精神が生まれる
きっかけが描かれる『長い休日』が読めたのは嬉しかったです。なるほど、こういう
過程があったから、今の達観した彼がいるんだなぁと感慨深いものが。高校生らしくない
とか言ってごめんよ、と思いました(笑)。
あとはラストの表題作(『いまさら翼といわれても』)では、千反田さんの思わぬ
一面を見ることが出来ました。彼女は彼女で、たくさんのことと日々戦っているのだなぁ
・・・。普段、のほほんとしてるから、こんな風に迷って小さな子供のような言動を
する人だとは思いませんでした。奉太郎も、千反田さんも、ちゃんといろんなことを
抱えた一介の高校生だったのだということがわかって、このシリーズに対しても、
今まで以上に親近感を覚えることが出来ました。氷菓を読んだ時は、彼らの
人物造形に違和感ばかりを覚えていたのだけれどね。
摩耶花の漫研の話も興味深かったです。ただ、私のイメージする漫画研究会って、
もっとオタク人間の集まりで、好きなことだけやって幸せってタイプの人ばかりって
感じがするから、こんな風に攻撃的に自己主張するっていうのがちょっと違和感ありました。
それに、漫研に入るってことは、=漫画を描くって考えて入る人の方が多いんじゃないの
かなぁ。ただ読むのが好きな人が入る部活なんだろうか、とそこはちょっと首を
傾げてしまった。一人くらいいてもいいかもしれないけど、部が分裂する程
読むだけ派が多いっていうのはね。なんか、違うような。
もちろん、そういう学校もあるのかもしれないけどもさ。
小学校の卒業制作で、奉太郎が周りの顰蹙を買う出来事の真相を描いた『鏡には映らない』
も面白かったです。奉太郎が、一人だけ鏡の飾り枠のレリーフをわざと単純な図柄に
した理由には驚かされました。なんてさらっと粋なことをする子なんだ。でも、しっかり
相手に意趣返しするところは、意外と底意地が悪いとも云える。でも、人に悪意を向け
たら、それ以上のものが返ってくるとわからせる為には、奉太郎のやり方が一番効果的
だったのじゃないだろうか。それにしても、小学生でこんな嫌がらせを考えつくとは、
なんともやり方が陰湿だ(奉太郎のことではなく、相手の方のことね)。
みんなから冷たい目で見られても、言い訳ひとつせずにレリーフの図柄を変更した
奉太郎のやり方に、ぐっと来てしまいました。

 

今後、千反田さんはどういう選択をして行くのでしょうね。そして、奉太郎との
関係はどうなって行くのでしょう。きっと、奉太郎は千反田さんがどんな道に進んでも、
背中を押してあげるのだろうけども。なんだかんだで、見守ってしまう性格だと思うから。
千反田さんと出会ったことで、彼の長い休日は終わった訳ですからね。省エネ精神が、
どう変わって行くのか、今後の展開がとても楽しみ。
ところで、千反田さんは、結局歌を歌ったのかなぁ。舞台に穴を開けるような人では
ないと思うけれど・・・。彼女が行かなければ、横手さんの顔をつぶすことにもなって
しまうのだし。いくら歌詞が歌詞だからって、歌は歌だと割り切ればいい、と思えれば
楽なのだろうけどね・・・。人間心理は複雑だなぁ、と思いました(私だったら、
やらなきゃいけないこと、と割り切って歌うだろうな。ビビリなんで、サボった後の周りの
迷惑のことを考えたら、とてもじゃないけどすっぽかすなんて無理^^;)。