ミステリ読書録

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京極夏彦/「書楼弔堂 炎昼」/集英社刊

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京極夏彦さんの「書楼弔堂 炎昼」。

 

明治三十年代初頭。古今東西の書物が集う書舗に導かれる、一人の若き女性。語は呪文。
文は呪符。書物は呪具。足りぬ部分を埋めるのは、貴方様でございます―。彼らは手に
取った本の中に、何を見出すのか?(紹介文抜粋)


新年一発目に読み終えた本です。書楼弔堂のシリーズ第二作目。一年の始まりに読むには
ピッタリの1冊だったと思います。一作目の記事を読み返してみたのだけど、
その時もやっぱり年の始めに読んでいた(笑)。一作目が大好きな作品だったので、
続編が出たと知って、とても嬉しかったです。
明治の世、膨大な数の書物に囲まれた書舗弔堂にやって来る、様々な理由あり客を
巡る連作短編集です。
今回は元薩摩藩士の祖父から厳しく躾けられて育った、塔子さんが語り手を勤めます。
祖父から禁止されていた為、塔子さんは一度も本を読んだことがありません。そんな
彼女が、ひょんなことから新体詩人の松岡國男と、尾崎紅葉の弟子だという田山花袋
出会い、二人と共に書舗弔堂を訪れたことから、物語はスタートします。古今東西あらゆる
書物が揃う弔堂では、人生には1冊の本があればいいという考えを掲げる元僧侶の店主が、
訪れた客に相応しい1冊の書物を選び提示してくれる。
塔子さんが、弔堂の主人から初めて買った本は、小公子。これを読んで、本の魅力の
虜になった塔子さんは、その後幾度か弔堂を訪れることになる。そして、彼女が家での
鬱屈に挫け、迷いが生じて弔堂に向かおうとすると、なぜか必ずその道中で憂いを抱えた
人物と出会い、共に弔堂を目指すことになるのです。
各作品では、弔堂の場所を知る塔子に導かれてやって来た客たちが、それぞれに相応しい
書物を主人から提示され、その本が彼らの人生の転機になるまでが描かれています。やって来る
客たちは、後の世にその名を知られた人物たちばかり。田山花袋平塚らいてう乃木希典・・・
恥ずかしながら、よくわからない人物もいましたけれど。
塔子と共に、全作に登場する松岡の後の名前は、わかる人にはすぐにピンと来ると
思います。が、私は最後まで気づかなかった・・・恥。元は詩人だったなんて知らなかった
のだもの(言い訳^^;)。
最初に出て来た、彼の想い人のことが作中ずっと気になっていたのだけど、最後で
あんなことになるとは・・・切なかったです。最後、松岡が婿養子になると言った時、
もしかして、相手は塔子さんだったり?と一瞬思ったのですが、全然違いました(苦笑)。
さすがに、そんな偶然ないか。

 

塔子さん自身、男尊女卑を掲げる祖父の考え方と、自分の進みたい道との乖離に悩む女学生。
弔堂にやって来る客と弔堂主人との会話を横で聞くことで、少しづつ彼女自身も自分の問題と
向き合って行く。最終的に、彼女がどんな道に進むのかは、描かれないままでしたけれど。
最後でそれまで引っ張って来た彼女の名字が明らかになる訳ですが、わかったところで
?が残っただけでした。彼女もまた、史実に名を残すような何かをした女性だったの
でしょうか?名字聞いても、全然ピンと来なかったのだけれど・・・^^;;
最後に弔堂主人が塔子さんの為に選んだ1冊にずっこけました。え、何でソレ?^^;
イカラに生きろと言いたいのかしらん。女性が○○○に乗る時代じゃないのかな?
名前といえば、謎が多い弔堂主人の僧侶時代の名前が明らかになりました。だから何だ、
って訳じゃないんですけど^^;本名は相変わらずわからないままだし・・・やっぱり
謎な人だ。
しほる君も、相変わらず謎のままだったなー。彼は一体、どんな出自の子供なんだろうか。
弔堂との関係もわからないし。気になります。

 

それぞれの作品で、ひとつづつモチーフとなる花が登場し、その花のイラストが挟まれて
いるところが素敵でした。京極さんの本は、やっぱり装丁が凝っていて素敵だなぁ。
やっぱり、このシリーズは良いな。人生でたった1冊の自分に相応しい本が探せる書舗。
私も主人に探してもらいたい。でも、人生でその1冊だけしか読めないのは嫌だけどね(笑)。
今回もとても面白かったです。