ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

読了本三冊。

こんばんは。今日は雨の一日でした。せっかく桜が満開になったのに、
あっという間に散ってしまうなぁ。今年はお花見もできずに終わりそうだ(T_T)。

 

読了本はまた三冊。予約本ラッシュもゴールが見えてきました・・・と思ったらまた
新たなラッシュがやって来そうな気配ですが・・・エンドレス・・・。



夏川草介「本を守ろうとする猫の話」(小学館
神様のカルテの夏川さんの新作。あちらのシリーズとは打って変わって、
ファンタジックな青春小説。古書店を営む祖父と二人暮らしをしていた高校生の
青年夏木林太郎が主人公。しかし、突然祖父が亡くなってしまい、葬式の後
祖父の古書店の中でひとり店番をしていると、目の前に人語を話す猫が現れる。
猫は、林太郎に本を助け出す手伝いをしろと言う。戸惑いながらも林太郎は、猫に
導かれるままに冒険へと一歩を踏み出すのだが――。
本を愛する少年と一匹の猫(途中から+一人の少女)が、本に訪れた危機を救う
旅に出て、成長して行く物語。なんか、海外のファンタジー映画とかにありそうな
内容でしたね。彼らが直面するのは、読んだ本を片っ端から書棚に閉じ込めたり、
読書の効率化をはかって本をさわりの部分だけ切り抜いたり、大量の本を出版しては
売りさばいたりする男たちとの対決。林太郎の本に対する想いが、彼らの頑なな気持ちを
軟化して行くところは、本好きとしてはやっぱり心を打たれるものがありましたね。
ただ、ファンタジーとしてはちょっと中途半端というか、設定の浅さを感じて
物足りなさもありましたが。相手との対決も、もうちょっと説得力が欲しかった気が
するし。
ただ、今の出版業界に対する夏川さんの思いも詰まっているのかなーとは思いました。
次から次へと新しい本が出版されて、古い本は淘汰されていく世の中に。そのスピードに
ついて行く為には、早くたくさん読めばいい。再読なんてしなくていい。さわりだけ
わかればいい・・・。林太郎たちが対面するのは、本の本当の楽しみをわかっていない
人ばかり。ただ、こうした主張に、私自身も耳が痛いところが多かったです。私も、
新刊中心で次々新しい本に追われる毎日で(しかも期限があるのでとにかく早く読みたい
と焦って読んでるきらいもあり)、過去に読んだ本の内容はどんどん忘れて行ってしまって
いる現状なので・・・。何か、1冊の本をじっくり時間をかけて読むなんていう行為は
長らくしていないなぁ、と省みさせられました。
猫との冒険を経験することで、林太郎自身も成長し、本に対する想いも再確認出来て行く
ところが良かったですね。引きこもり気味の林太郎にとって、祖父と共に本がどれほど
彼の支えになっていたか。孤独な人間にとって、本って、そういう存在なんですよね。
同級生の沙夜や先輩の秋葉のキャラクターも良かったですね。林太郎のことをわかって
あげられる人間がいてくれて良かったです。叔母さんのキャラも素敵だったし。
なんだかんだで、林太郎は意外と恵まれた環境にいるのではないかな、と思いました。
また彼が夏木書店でトラネコと再会出来る日が来るといいな、と思います。


水生大海「ランチ探偵」(実業之日本社文庫)
すでに2も出ているみたいなんですが、タイトルから面白そうなので借りてみました。
うん、なかなか楽しめました。ドラマ化されそうだなぁ、コレ。住宅メーカーの
美人OL二人が、ランチ合コンを通して謎解きをして行く連作短編集。合コンを
セッティングするのは男にフラれたばかりの阿久津麗子。そこに持ち込まれる不思議な
謎を解くのは、小柄で可愛らしい容姿だが男性よりも謎解きが好きな天野ゆいか。
個性の違う二人のコンビに好感が持てました。
誰もいない筈の夜中のビルで、エレベーターが屋上に移動している謎、
毎週金曜日にお弁当を二十個以上買って行く美女の謎、
銀行でストーカー男が有名俳優に取り押さえられた出来事の真相、
付き合っている女性が失踪前に残した『帝王は地球に優しい』という言葉の意味は何か、
窓辺に毎日日替わりで違う動物のぬいぐるみが登場する謎、
元妻が部屋に来た後で婚約指輪がなくなっていた謎・・・。
どれも、最初読んだ時には全く考えなかった真相がゆいかによって導き出されました。
意外ときちんとしたミステリーになっているところに感心しましたね。肝心の麗子の
婚活の方は全く毎回進まないのが何とも痛々しかったですが(苦笑)。
冒頭のエレベーターの話は、オチの苦さも含め、良く出来た一作だと思いました。
日替わりの動物の話も意外な着地点でしたね。後味の悪い話ではありましたが、
実際こういう事件はたくさん起きているだけに、リアリティがありました。
二人が合コンする度に出て来るお料理も多国籍でバラエティに富んでいて、どれも
美味しそうでした。
見事な安楽椅子探偵っぷりを発揮するゆいかのキャラがいいですね。謎が解けた時の
決め台詞『すべての構図が、見えました』もいいですね。ほんと、ドラマかアニメに
なりそう(金田一少年の『謎はすべて解けた』みたいな感じね)。
すでに2が出ているようなので、頃合いを見て予約しなくては。


芦沢央「雨利終活写真館」(小学館
最近ランキング本を賑わしている作家さんに初チャレンジ。昨年のランキング本に
入った作品ではなく、図書館の新刊情報に載っていた作品の方なのですが^^;
結構作品出されているみたいですね、この方。全然ノーチェックだったなぁ。
今回の作品は、遺影専門の写真館を舞台にしたもの。そういう写真館が実際
あるのかはよくわからないですが、今の世の中のニーズには合っていそうだなー
と思いましたね。遺影の写真って、確かにちゃんと撮ってなくて妥協して選んだ
ものを使う人が多そうです。
主人公の黒子ハナは、表参道の有名な美容院でスタイリストをしていたけれど、
結婚を控えて退職したばかり。しかし、退職を申し出た後に相手の男が既婚者であると
判明、結婚は白紙に。そんな時、祖母が突然亡くなり、弁護士が持っていた手書きの
遺言状には、ハナの母の名だけが遺産の配分から漏れていた。母親から自分だけ除け者に
されてしまったとショックを受ける母を見て、生前祖母の遺影を撮影していた写真館なら何か
知っていることがあるのではないかと考え、雨利終活写真館を訪れる。すると思わぬ事実が
明らかになり――というのが大筋。
一話目のハナの祖母の遺言の真相はなかなかおもしろかったけど、二話目の12年前の
事故の真相は、ほとんどの読者が先が読めてしまうのではないかと思いました。ハナが
そこに思いが至らないのが不思議なくらいでした。ミステリでは非情によく使い古された
真相ですし。今更これ持ってくるのかーとちょっとガッカリ。そこにもうひと工夫あったら
また違った感想だったと思うんですが・・・予想通りの展開過ぎて。
ただ、三話目、四話目はまずまず。特に三話目は思わぬ真相に唸らされましたね。
雨利が探偵役なのかと思っていたのに、作中ほとんどしゃべらず存在感がないので
この人必要?と思ったくらいだったのだけど(酷)、最後の一作でやっと活躍してくれて
溜飲が下がりました。まぁ、最終話でも謎解きにはあまり関わっていなかった気がしますが。
もうちょっと写真以外でも自己主張して欲しかったような。でも、最後一作でちょっと
ハナとの距離が縮まったのかなーとも思えましたし、続編があるならば、次はもうちょっと
活躍してくれそうなキャラではありますね。寡黙だけど、実は優しい人みたいですしね。
二話目にもうちょっと捻りがあったらもう少し高評価だったかもしれないですねぇ。
ハナの元彼にムカムカしていたので、最後にハナがしっかり関係を絶とうとしたところに
ほっとしました。しかし、最終話で連絡して来た時はまじで腸が煮えくり返るかと思い
ましたよ。今更何なの!?みたいな。こういう、不倫する男って、ほんとやり方が
汚いというか、むかつきます。こんな男と縁が切れて良かったですよ。ほんとにね。
花形の職場を失ったのは痛かったですけど、新しい職場で前向きに頑張って欲しいです。