ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

今村昌弘「屍人荘の殺人」/長岡弘樹「教場0 刑事指導官風間公親」

こんばんは。ここ数日の寒さは堪えますね~(><)。布団から出るのが辛いです。
先月の電気代はさすがに高かった・・・。日中天気が良いと日当たりが良いので
暖房いらずなんですが、陽が差さないとさすがに寒い。今年はなんだかやっぱり
去年に比べて寒い気がしますね。

 

今回も二冊ご紹介。

 

今村昌弘「屍人荘の殺人」(東京創元社
昨年度のこのミス(本ミスもかな?)一位作品。いやー、実は、このミスチェック
した時、すぐに図書館チェックしたら、予約がすでにすごかったんですよ。こりゃ、
もうほとぼり冷めるまで待つしかないや、と諦めてたんですよね。が、しかーし!
新刊情報で入荷した時、特に予備知識もないまま、タイトルと内容読んで、予約
ポチしてたみたいで。年末にあっさり回って来たメールが入ってびっくり。予約
したこと自体、ぜんっぜん忘れてました。自分の本格センサーに引っかかってくれて
よかったよ、ほんとに(笑)。最近結構こういうの多くって。
なんとなくタイトルとか内容紹介で予約するんだけど、回って来る頃には、なんで
自分がその本読みたかったか忘れちゃってるパターン。ま、今回は東京創元社
鮎哲賞で読みたいって思ったのは間違いないと思いますけどもね。
おっと、前フリ長すぎました。すみません^^;んでもって、本書。率直な感想は、
面白かった!
ですね。なんというか、古き良き時代の本格ミステリを踏襲しつつ、新たな要素を
取り入れて来たって感じでしょうか。これねぇ、途中からすごい展開になるんです
けれど、何書いてもネタバレになっちゃうんで、感想が非情に難しいです。でも、
その部分は絶対に先入観なしに読んだ方が面白いと思いますし。トリック部分も、
その要素なしに語れないんですよね。
最初は、割りとオーソドックスなタイプのクローズドサークルものかな、と思った
んですよね。
大学のミステリ愛好会(ミス研も存在するのだけど、事情あってそことは袂を分かつ
別サークル)の先輩と後輩が、映画研究部の夏合宿で、曰く付きのペンション
『紫湛荘』に滞在することになり、とんでもない事件に巻き込まれることになるお話。雰囲気は、有栖川さんの学生アリスシリーズっぽいかな、と読み始めは思いました。
ミステリフリークの先輩、明智恭介(すごい名前)自体は、全然江神さんとはキャラ
被ってないですけど(笑)。明智さんと主人公の葉村譲との関係がなかなか良くて、
会話を読んでいるのも楽しかった。それだけに、早い段階でのあの明智さんの退場
にはショックが大きかった。もしかしたら、何か理由があってどこかにいて、最後に
颯爽と登場するのでは、と最後の最後まで勘繰っていたのだけれど、ね・・・。
ツッコミ所は満載なんですよ、とにかく。そもそもアレ(○○○)が出て来た時点で、『はぁ?』と思いましたし。そんなバカな、とも思いましたし。でも、それぞれの
殺人のトリックが、見事に○○○がなければ成立しない。これはすごいと思いました。ちゃんと、その存在の必然性があるってところが。○○○が出て来た時点で、
リアリティとかは一度切り離して、まずその存在がいるって前提で読んでしまえば、
非情に良く出来たトリックです。整合性もあるし、細かい伏線がすべて回収されて
いる。お見事としか言い様がなかったですね。第四章と第五章の冒頭の独白による
仕掛けも非情に巧い。犯人がわかった上で読み返すと、ああ、そういうことだった
のかー!とすとんと腑に落ちました。あれ、おかしいな、とは感じてんたんです
けどねぇ。
緻密に計算されたミステリで、大学生ならではの青春感みたいなものもあって、
とても良かったのですけれど、ちょっと残念だったのは、肝心の○○○の後処理が
杜撰だった点。たった二週間程度で、あの惨劇が収まる筈はなく、どうやって収縮
させたのかも書かれていない。普通に考えたら、アレの性質を考えると、日本中に
恐怖が広がっていてもおかしくないと思うのですが。ラストの、マスコミも騒がなく
なり、元の日常が戻って来た、みたいな描写にはちょっと違和感ありましたね。
あとは、ヒロインの名前。時代設定が少し昔ならばともかく、現代なのに、比留子
って。もうちょっといい名前なかったのかなぁ・・・。
あと、紫湛荘で最初は繋がっていた携帯が繋がらなくなったのはなぜだったん
ですかね。特に、その理由も書かれていなかったような(読み落としただけ?)。○○○と電波障害の間に因果関係でもあるんだろうか。犯人が意図してやったとは
書いてなかったと思うのですが。
重要な小道具である例の手帳も、もう少し作品に活かして欲しかったかな。
タイトルがネタバレなのもちょっと勿体ないような。
でも、選評で加納(朋子)さんもおっしゃっていたように、登場人物が多くて頭が
混乱してくるところに、明智さんによる人物紹介と名前の覚え方が出て来るところ
はとても親切でありがたいな、と思いました。まぁ、巻頭に人物紹介ページも
入ってますけどね。
いくつか不満な点は述べましたが、総じてとても楽しめました。文章も読みやすくて、あっという間にページが進んで行きましたし。こういう本格ミステリがこのミスの
1位を獲ってくれたことがとにかく嬉しい。今後の活躍がとても楽しみです。

 

長岡弘樹「教場0 刑事指導官風間公親」(小学館
教場シリーズの前日譚。警察学校の教官になる前の風間が、刑事時代に新人警官の
指導官だった時のお話。風間の指導が厳しく、でも的確であるのはこの頃から変わっていません。
指導される側の新人刑事は、風間のちょっとした言動から犯人逮捕に至るノウハウを
学び、風間の元を巣立って行く。
風間は、犯人や犯行方法、動機など、すべてをほぼ初期の段階でわかっている上で、
パートナーである新人にそれを推理させ、逮捕に導く。推理のヒントは、本当に
ちょっとした言葉のみ。でも、そこから逮捕に至る筋道を考えられるかどうかで、
優秀な刑事になれるか、交番勤務に戻るか道が別れる。
風間は推理に行き詰まる新人に、何度も交番勤務に戻るかと脅しをかけたりする。
なかなか人が悪い。でも、それは相手が見込みのある人間だからこそ、なんですよね。現に、本書に出て来た新人たちは、みんな風間の厳しい指導をクリアしている。
風間道場に来させる人間は、多分風間が選んでいるんじゃないのかな?風間は人を
観る目がありそうですからねぇ。
どのお話も犯人は比較的最初にわかっていて、新人刑事が風間のヒントから犯人が
どうやって犯行を行ったのかを推理し、それを相手に理詰めで認めさせて行く形
なので、倒叙ミステリーと云って差し支えないでしょうね。

 

では、軽く一作づつ感想を。

 

第一話『仮面の軌跡』
タクシーでこういうメッセージが出来るって思いつくところがすごいですね。まぁ、
回りくどいとは思いますけど^^;シートベルトを連れに強要したことが、
犯人特定の手がかりになるところが巧いなーと思いました。

 

第二話『三枚の画廊の絵』
犯人が、刑事が依頼した絵を依頼よりも大きく描いた理由には切ない気持ちになり
ました。息子がそのメッセージを読み取ってくれたのが救いでした。

 

第三話『ブロンズの墓穴』
犯人が用いた凶器には目が点になりました。こういう犯行方法は初めて読んだかも。
犯人の職業を考えると納得出来ますね。ただ、トランク内で見つかった動かぬ証拠
に関してはちょっと、腑に落ちないような気持ちもするけれど。死因は何になるん」だろう?

 

第四話『第四の終章』
犯人も被害者も劇団員ってことで、こういう犯行が成り立つのでしょうね。目撃者が
いる中での犯行なので、なんとも大胆な方法ですが。女って怖い^^;

 

第五話『指輪のレクイエム』
これは一番切なかったなぁ・・・。妻が毎週水曜日に鰆のホイル焼きを作っていた
理由に胸が痛くなりました。電話の赤いボタンを押した理由にも。夫婦ふたりきりの
世帯だと、行く末はこういう悲劇が起きるのかなぁ・・・。
しかし、フッ素加工のフライパンで空焚きするのがそんなに危険なことだとは
知らなかったです。気をつけようっと。

 

第六話『毒のある骸』
被害者が犯人に毒を盛られた後で坂を登った理由には、なるほど、と思いました。
一矢報いたい気持ちからだったんでしょうね・・・。しかし、司法解剖で胃から
毒ガスが出て来る場合があるとは。解剖するのも命がけってことなんですかね。
解剖医って大変だ。
それにしても、最後の展開には息が止まりました。風間って隻眼だったんでしたっけ?
すっかりそんな設定忘れてました・・・^^;;あんなことがあっても平然としている
風間はやっぱりトンデモナイ人だと思いました。