ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

伊岡瞬「本性」/こざわたまこ「仕事は2番」

どうもこんばんはー。相変わらず夏休み中のワタクシですが、特に夏休みらしい
ことはしておりません。暇なので、新たに増えたメダカベビ用水槽に入れる
ヤマトヌマエビを、車で何十分もかかるお魚ショップに買いに行きました(2匹で
200円也。おそらく、ガソリン代の方が高いw)。
水合わせもバッチリで、元気に泳ぎ回っております。エビってめっちゃ泳ぐんですよ、
知ってました?
夜行性らしいので、暗いところとか狭いところが好きなんですけど、新しく
買ったエビたちは昼間もめっちゃ元気で、エサを探しにあちこち歩いたり
泳いだり水草に張り付いたり、忙しいです。観てて飽きないですねぇ。


本の方は今回も二冊。ちょこちょこ読んでます。


伊岡瞬「本性」(角川書店
ちょっと前に読んだ『代償』が面白かったので、タイトルが似た系統だったんで、
手にとってみました。いやー、今回もめっちゃ黒い。そして、イヤーな気分に
なるわ、なるわ。みんな歪んだ人物ばかりで、まともな人間がほとんど出て来ない。
前半は一話ごとに主人公を変える群像形式で、年齢も性別もばらばら。一見、全く
無関係に思える彼らですが、ある一人の女の存在によって、次第に彼らの間の
ミッシングリンクが浮き彫りになって行く。後半は事件を追う二人の刑事が交互に
語り手を担い、事件の真相に迫って行く、という形になっています。
魔性の女、サトウミサキによって、一人づつターゲットにされた人物たちが籠絡
されて行く前半は、毎回イヤな気分になりつつ、ゾクゾクするようなスリリングさがあり、
読む手が止められなかったです。彼女の目的は一体何なのか。まぁ、真相は想像の
範囲内だったので、特に意外性とかはなかったですね。というより、思ったとおり
だったと言った方が正解かも。ターゲットにされた人物たちがミサキと出会い、
騙されて行く過程では、彼らが気の毒にも思えたのだけど、彼らの過去を知った後
では、自業自得としか思えなかったです。むしろ、ミサキの方に肩入れしたくなった
くらい。ただ、ミサキ自身にも、好感とか共感は全く覚えなかったけれど。前半部分に
関しては嫌悪しか覚えてなかったし。ここまで時間と手間をかけて手が込んだ復讐を
した割に、動機が意外とあっさりしていたところに違和感も覚えました。結局、ミサキ
の本性はよくわからないままだった。彼女のターゲットたちの本性は、全員が最悪だった
ことはよくわかりましたけどね。彼らが過去にある人物にした、あのおぞましい言動の
数々は、読むのが本当に苦痛でした。同じ人間とは思えない。ましてや、あの年齢で。
そういう人間が、のうのうと大人になって、普通に社会人として生活出来ることが
信じられないし、やった事実を忘れかけているところも許しがたかった。やった方は
覚えていなくても、やられた方は一生忘れられないのに。
ラスト一章の結末は、賛否両論あるんじゃないのかなぁ。私はちょっと、肩透かし
だった。ミサキと安井の攻防は今後も続くのか。安井さんのその後が気になりますね。
もう、時間はほとんど残されていないように感じたけど・・・。え、ここで終わり?
って思いました。ちょっと、中途半端なところすぎないか?^^;先が気になる
じゃないか。まぁ、安井さんが捕まえられなくても、どっちみちミサキが捕まるのは
時間の問題のようにも思うけど。顔もたくさんの人に知られているし。それとも、
整形とかして逃げて続けるのかな。海外逃亡とか?お金はありそうでしたしね(
梅田親子からせしめた金もあるしね)。
個人的に一番驚かされたのは、第三章の青木繁子の部分。ラストで明らかになる
青木繁子の正体にあっと言わされました。ミサキがお風呂で繁子を介助するシーンに
違和感は覚えていたのだけれど、全然気が付かなかったなぁ。やられました。
ミサキの悪女っぷりが全開の前半部分は非常に緊迫感があって面白かっただけに、
終盤の駆け足がちょっと残念だったかな。でも、ぐいぐい読まされるリーダビリティ
は素晴らしかったです。本性最悪な人物ばっかりだったから、ちょっと食傷気味に
なりましたけどね^^;


こざわたまこ「仕事は2番」(双葉社
新聞広告で見て気になったので予約してみました。はじめましての作家さん。
吉丸事務機という事務機器販売会社で働く様々な人々を主人公に据えた連作集。
一作ごとに主人公が変わり、それぞれに仕事や家庭や人間関係に悩む姿が描かれます。
働く人々にエールを贈るお仕事小説。
いろんな立場の人が出て来るんですが、それぞれに共感出来るところも出来ないところも
ありました。他の人からの視点では好感持てなかった人物でも、その人物からの視点で
読むと、全然違った内面が伺い知れて、好感が持てる場合もありました(一話目で
優紀を退職に追い込んだかおりとか)。
私もいろんなタイプの人と仕事をした経験があるので、うんうん、そうそう、
あるある!とか、それぞれの立場で共感出来るところが多かったです。3話目の
主人公沙也の、ママさん社員に対する不満とか。自分の時とはちょっとシチュエーション
が違いますけど。子どもがいることを免罪符にして権利を主張する人って、どこの
職場にもいるんですよね。子どもが熱出したから、子どものお迎えがあるから、
子どもの学校行事が・・・云々。そりゃ、仕方がないとは思うけど、真面目に
出勤している側にしてみれば、なんであの人だけそれが許される訳?みたいに
思ってしまうのは仕方がないと思う。その分の仕事のしわ寄せが自分に来る訳だし。
で、大抵そういう不満に対する相手とか周囲の反応は、「お互い様だから」。でも、
お互い様だと思えたことなんて一度もない訳ですよ。そもそも、子どもがいない
んだから、対等になれる筈がない。でも、そこを慮って、お互い譲歩しなくては
子どもがいる女性が働ける環境なんて作れる訳もない。難しいところです。
権利は権利だし。沙也のモヤモヤする気持ちはすごく共感出来たな。でも、不満
だからといって、いじめみたいに相手を避けたりするのはやっぱり違うと思う。
沙也が、そういう職場いじめみたいなものに参加しなかったことにほっとしました。
ただ、職場でうまくいかないからって彼氏に当たるのはどうなんだと思いましたが。
どの主人公も、いいところも悪いところも持っている。人間なら当たり前です。
そういう部分が上手く描かれていて、どの人物にもリアリティがありました。
ラストの、清掃員の立科さんのお話も好きだったな。真摯に清掃に取り組むところも、
問題あり新人に丁寧に指導するところも、とても好感が持てました。こういう人が
職場の清掃を担当してくれたら、きっと毎日気持ち良く仕事が出来るだろうな、と
思いました。会社側の都合で退職せざるを得なくなってしまったのは、本当に
残念。栄太は、いい人に指導してもらえてよかったと思う。立科さんじゃなかったら、
とっくに叱責されて人格否定されて、最初の方でリタイアしてたんじゃないかな。
これを機に、少しは仕事に対する意識が変わってくれるといいな、と思いました。
個人的に、私自身は仕事は2番どころか、100番目くらいと言っても過言じゃない。
生きて行くにはお金が必要だから仕方なく続けてるって感じ。家族とかプライベートの
方が圧倒的に優先順位は上。仕事が生きがいってタイプの人が、羨ましいと思う
こともあります。それだけ、誇りに思える仕事と出会えたってことだから。
でも、そういう人はそういう人でいいと思うし、私は私で仕事は二の次って
生き方でいいと思う。仕事の捉え方は人それぞれですね。
働いた経験がある人なら、必ず心に刺さる場面があるんじゃないかな。
面白かったです。