バー<スリーバレー>シリーズというのでしょうか。衝撃の歴史新説ミステリ
『邪馬台国はどこですか?』のシリーズと云った方がわかりやすいかな。
このシリーズは大好きで、いつもトンデモ着眼点からトンデモ歴史新説を
繰り出して来る手腕に感心させられます。ただ、やっぱり一作ごとにクオリティ
は下がっているような気がしなくもないのですが(一作目が良すぎたとも
云えるけれど)。
今回のテーマは文学。誰もが知っている文人の有名作に、またしてもトンデモ
解釈を加えてしまう宮田さん。対抗するのは日本文学会の重鎮である曽根原
教授。夏目漱石の『こころ』に関するシンポジウムの帰り、一杯飲みたい
気分になった曽根原は、<スリーバレー>というバーに立ち寄る。そこで
美人のバーテンダーが供する美味しいお酒を飲みつつ、今日の討論会の議題
となった夏目漱石の『こころ』について彼女と意見を交わし合っていると、
とある男がやってきた。宮田と名乗るその男は、『こころ』についてとんでも
ない説を唱え始めた――(『第一話 夏目漱石~こころもよう~』)。
一話目の『こころ』に関して、宮田が唱え始めたのは、『こころ』は百合小説
だというもの。私自身、『こころ』を読んだのは確か高校生くらいの頃で、
ほとんど内容を覚えていないので、この説がどれほど信憑性があるのか判断
出来ないのですが、宮田の説明を読むと、なるほど、と思わされてしまいました。
その時点で宮田の勝利なのかな~^^;文学界の重鎮ですら絶句させてしまった
のだから(呆れて、という面もあるかもしれませんが・・・)。最後に宮田が
告げた、中心人物の一人である、『静』に関するある事実を知って、納得させ
られてしまった。確かに、登場人物の中でこの人物だけ○○が出て来る・・・!
美人バーテンダーのミサキが唱えた「『こころ』はミステリ小説である」説も
面白かったですけどね。いろんな読み方が出来るものだなぁと思いました。
第二話は、太宰治の『走れメロス』を取り上げています。この作品がある人物の
○だった、とは・・・。これはちょっと強引すぎるかなぁ。これを唱えられたら、
どんな小説もこうやって解釈できちゃうような。ジブリ作品でも結構こういう
説を唱える作品多いですしねぇ。まぁ、確かに、整合性があまりない小説って
感じはありますけどね。
第三話は、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』。これは未読なので、なんとも感想が
言い難いですが。いろんな作品で取り上げられている有名作なので(この間の
杏ちゃんのドラマでも出て来たし)、一度読んでおきたいなぁとは思っているの
ですが。賢治と父親の確執のことは知りませんでした。でも、宮田さんの説は
ちょっとこじつけっぽい感じもしたなぁ。どちらかというと、実際に出ている
説みたいですが、曽根原氏の○○の世界って説の方がなるほど、と思いましたね。
第四話は芥川龍之介の『藪の中』。よく文学作品に出て来る『真相は藪の中』は
この作品から来た言葉だったのですね(前に聞いたことがあった気もしますが)。
こちらも未読なので、宮田や曽根原たちの文学論議の信憑性なんかはよくわから
なかったのですが、かなり興味深い論議でした。確かに、ストーリーを読むと、
ミステリー小説と云っても差し支えない内容ですね。犯人がわからないリドル
ストーリーのようなので、様々な議論が交わされて来た作品なのでしょうね。
読む人それぞれの解釈が生まれそうな作品。こちらも、原典を読んでみたく
なりました。
どの作品も信憑性はともかく、原典に当たって自分なりに読み取ってみたく
なり、とても興味深かったです。解釈次第で、いろんな受け取り方が出来る
というのは、その作品の深みにも繋がりますね。文豪の作品は、やっぱり
深く考えられて書かれたものなんだなぁと思わされました。
ところで、本来の<スリーバレー>のバーテン松永はどうしてしまったんだろう。
一話目でミサキは『本日はお休み』と言っていたけど、その後三作、ずっと
お休みのまま。たまたま曽根原が行く日だけ休みなのか、理由があるのか・・・
気になります。
あと、文章でひとつ気になったのは、『言う』というのを『ゆう』と表記する
ところ。地の文でも会話文でもやたらと『ゆう』『ゆった』みたいなひらがな
表記が出て来るのがすごく気になりました。作家が一番やっちゃいけない表記
のような気がするんですが・・・。なんか、子供の文を読まされてる気持ちに
なりました。以前はそんな書き方してなかったと思うんだけどなぁ・・・。