ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鯨統一郎「文豪たちの怪しい宴」(創元推理文庫)

f:id:belarbre820:20200227093751j:plain

バー<スリーバレー>シリーズというのでしょうか。衝撃の歴史新説ミステリ

邪馬台国はどこですか?のシリーズと云った方がわかりやすいかな。

このシリーズは大好きで、いつもトンデモ着眼点からトンデモ歴史新説を

繰り出して来る手腕に感心させられます。ただ、やっぱり一作ごとにクオリティ

は下がっているような気がしなくもないのですが(一作目が良すぎたとも

云えるけれど)。

今回のテーマは文学。誰もが知っている文人の有名作に、またしてもトンデモ

解釈を加えてしまう宮田さん。対抗するのは日本文学会の重鎮である曽根原

教授。夏目漱石『こころ』に関するシンポジウムの帰り、一杯飲みたい

気分になった曽根原は、<スリーバレー>というバーに立ち寄る。そこで

美人のバーテンダーが供する美味しいお酒を飲みつつ、今日の討論会の議題

となった夏目漱石の『こころ』について彼女と意見を交わし合っていると、

とある男がやってきた。宮田と名乗るその男は、『こころ』についてとんでも

ない説を唱え始めた――(『第一話 夏目漱石~こころもよう~』)。

一話目の『こころ』に関して、宮田が唱え始めたのは、『こころ』は百合小説

だというもの。私自身、『こころ』を読んだのは確か高校生くらいの頃で、

ほとんど内容を覚えていないので、この説がどれほど信憑性があるのか判断

出来ないのですが、宮田の説明を読むと、なるほど、と思わされてしまいました。

その時点で宮田の勝利なのかな~^^;文学界の重鎮ですら絶句させてしまった

のだから(呆れて、という面もあるかもしれませんが・・・)。最後に宮田が

告げた、中心人物の一人である、『静』に関するある事実を知って、納得させ

られてしまった。確かに、登場人物の中でこの人物だけ○○が出て来る・・・!

美人バーテンダーのミサキが唱えた「『こころ』はミステリ小説である」説も

面白かったですけどね。いろんな読み方が出来るものだなぁと思いました。

第二話は、太宰治走れメロスを取り上げています。この作品がある人物の

○だった、とは・・・。これはちょっと強引すぎるかなぁ。これを唱えられたら、

どんな小説もこうやって解釈できちゃうような。ジブリ作品でも結構こういう

説を唱える作品多いですしねぇ。まぁ、確かに、整合性があまりない小説って

感じはありますけどね。

第三話は、宮沢賢治銀河鉄道の夜。これは未読なので、なんとも感想が

言い難いですが。いろんな作品で取り上げられている有名作なので(この間の

杏ちゃんのドラマでも出て来たし)、一度読んでおきたいなぁとは思っているの

ですが。賢治と父親の確執のことは知りませんでした。でも、宮田さんの説は

ちょっとこじつけっぽい感じもしたなぁ。どちらかというと、実際に出ている

説みたいですが、曽根原氏の○○の世界って説の方がなるほど、と思いましたね。

第四話は芥川龍之介『藪の中』。よく文学作品に出て来る『真相は藪の中』は

この作品から来た言葉だったのですね(前に聞いたことがあった気もしますが)。

こちらも未読なので、宮田や曽根原たちの文学論議の信憑性なんかはよくわから

なかったのですが、かなり興味深い論議でした。確かに、ストーリーを読むと、

ミステリー小説と云っても差し支えない内容ですね。犯人がわからないリドル

ストーリーのようなので、様々な議論が交わされて来た作品なのでしょうね。

読む人それぞれの解釈が生まれそうな作品。こちらも、原典を読んでみたく

なりました。

どの作品も信憑性はともかく、原典に当たって自分なりに読み取ってみたく

なり、とても興味深かったです。解釈次第で、いろんな受け取り方が出来る

というのは、その作品の深みにも繋がりますね。文豪の作品は、やっぱり

深く考えられて書かれたものなんだなぁと思わされました。

ところで、本来の<スリーバレー>のバーテン松永はどうしてしまったんだろう。

一話目でミサキは『本日はお休み』と言っていたけど、その後三作、ずっと

お休みのまま。たまたま曽根原が行く日だけ休みなのか、理由があるのか・・・

気になります。

あと、文章でひとつ気になったのは、『言う』というのを『ゆう』と表記する

ところ。地の文でも会話文でもやたらと『ゆう』『ゆった』みたいなひらがな

表記が出て来るのがすごく気になりました。作家が一番やっちゃいけない表記

のような気がするんですが・・・。なんか、子供の文を読まされてる気持ちに

なりました。以前はそんな書き方してなかったと思うんだけどなぁ・・・。