ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三浦しをん「愛なき世界」/市川哲也「屋上の名探偵」

こんばんは。日に日に寒くなって行きますね。今年も、相方とのこたつをいつ出す
論争が始まりました(笑)。私はもうすぐにでも出していいと思ってるんですけど、
相手はまだ早いと聞き入れてもらえません。もう朝晩寒いのに!手足が冷えるのに!!
男と女だと体感温度が全然違うんですよねぇ。早くこたつにもぐりたいよー(←え?)。


今回も二冊ご紹介ー。


三浦しをん「愛なき世界」(中央公論新社
しをんさんの最新長編。でも、実は読売新聞に連載されていた時、ほぼ毎日
読んでいたので、内容は全部知っていたのですけど。新聞の連載小説をちゃんと
通して読んだのは初めてでした。伊坂さんの『SOSの猿』の連載の時も、ちょこちょこ
は読んでいたのだけど、細切れに読むと何が何やらでわけがわからなくなり、
結局途中から全く読まなくなってしまいました。でも、この作品はストーリーの
面白さと、主人公のひとりである藤丸くんのキャラが大好きで、毎日読むのが
楽しみでした。終わっちゃった時はすごく寂しかったなー。
という訳で、改めて通して読めて嬉しかったし、やっぱり面白かった。
ストーリーは、円服亭という老舗の洋食屋の見習い料理人の藤丸陽太が、
店にやってきたT大理学部の植物学研究室の本村に恋をするが、相手は植物研究に
しか興味がなく、必死にアプローチするも、惨敗する。けれども、真剣に植物研究に
取り組む彼女や、同じ研究室の風変わりな教授や院生たちと触れ合ううちに、藤丸自身も
植物のことが大好きになって行く――。愛を感じることのない植物の世界に身も心も
捧げた女性に恋をしてしまった藤丸の恋の結末やいかに・・・というのが大筋。
とにかく、主役の藤丸くんと本村さんはもちろん、T大理学部の研究室のメンバーたち
を始めとする登場人物がみんな個性的でキャラが立ってるのがいい。彼らの会話を読んでいる
だけでも楽しくて、ニヤニヤしちゃいました。藤丸くんが修行する洋食屋円服亭の店主
円谷や、円谷の彼女のはなちゃんも明るくて粋なキャラだし。
何より、藤丸くんがほんとに素直で純情でお人好しでいいキャラなんですよー。
彼のことが大好きだったので、新聞連載の時も、ずっと彼の恋を応援してました。
でも、いかんせん相手が悪かった。いえ、本村さんもとても良い子なんですよ。
植物の細胞とか松茸柄のTシャツを着るという、ファッションセンスはどうなのかと
思うところもあるけれど(笑)。
でも、彼女が愛するのは、植物、特に専門に研究しているシロイヌナズナだけ。
藤丸くんの愛はどうやっても彼女の心には届かないのです。そのすれ違いがじれったくて
もどかしかったです。こんなに藤丸くんは素敵な青年なのに、何でわからないんだー!
みたいな(おせっかいおばさんw)。
連載時よりも、研究の内容の説明は大分詳しく加筆されているように感じました。
新聞の限られた紙面の中だと、その辺をだらだらと載せても退屈しちゃうから
端折っていたのかも。正直、本村さんのシロイヌナズナ研究の細かい説明部分は、
ほぼ理解不能だったんですけど・・・^^;
四重変異株の葉っぱが大きい子をデカパイとか、AHO遺伝子をアホ、AHHO遺伝子を
アッホーだとか自分流に言い換える、藤丸くん独特のネーミングセンスが可笑しかった。
全体的にほのぼのしててコミカルなお話なのですが、植物学研究室の教授である
松田先生の院生時代の友人にまつわるエピソードの部分だけは切なく、やりきれない
気持ちになりました。でも、友人の母親が松田先生にかけた言葉にじーんとしました。
好きなエピソードがたくさんあって、書ききれないくらい。おイモの先生こと諸岡
先生とのイモ掘りエピソードとか。円服亭総出で奮闘する学会用のお弁当作りの
エピソードとか。藤丸くんと本村さんの、ラッパ型のイチョウの葉っぱとスイート
ポテトのエピソードとか。もう、どれも印象的で、心に残っています。ラッパ型の
イチョウの葉っぱを、妖精が吹くラッパみたいだと藤丸くんが表現した時、本村さんと
藤丸くんの心が繋がったように感じたのになぁ。
ラストは藤丸くんにとってはちょっと切ない終わり方でした。でも、相手は愛なき世界に
生きるひとだから、仕方がないのかな、とも。こういう生き方しかできない人も
たくさんいるのだろうと思うし。研究という特殊な世界に身を捧げている人なら、尚更
たくさんいるのではないかな。
タイトルは『愛なき世界』ですが、内容は、植物を始め、いろんなものへの愛が
たくさん詰まった素敵なお話でした。改めて読んでも、やっぱり面白かった。
装丁もとても素敵。新聞連載時のイラストもとても素敵だったので、カットされちゃった
のはとても残念(まぁ、当たり前なんだけど)。


市川哲也「屋上の名探偵」(創元推理文庫
特に予備知識はなかったのですが、内容紹介読んで面白そうだったのと、創元推理
からの出版だったので気になって手にとってみました。もともと鮎川哲也賞を受賞
された方なんですね。この作品は、その受賞作の前日譚に当たるようです。
学園を舞台にした連作青春ミステリー。探偵役でヒロインの蜜柑花子は、東京から
来た転校生。転校前の学校では『名探偵』と呼ばれていたという彼女に、同窓生の
中葉悠介は姉にまつわる、ある謎を解いて欲しいと願い出る。しかし、人前ではもう
二度と推理をしないと渋る蜜柑だったが、悠介の必死の願いに負け、協力することに――。
うん、雰囲気は嫌いじゃないです。推理の組み立て自体はちょっと苦しいかな、と思う
ところもちょこちょこありましたが、少ない手がかりをもとに、快刀乱麻のごとく
鮮やかな推理を開帳する蜜柑の探偵としての手腕には感心しました。
文章は読みやすく、キャラや設定がラノベっぽくて、軽く読めるのは良かったです。
ただ、キャラ設定がねぇ。学園ものとしては致命的というか。探偵役の蜜柑の
キャラがいまいちよくわからない子で、好感持っていいやらよくわからなかった。
基本は良い子なのだと思うのだけど。根暗で口下手なのかと思いきや、先輩や先生に対して
いきなりタメ語で話し始めるし。悠介の言動に対して、突然赤くなったり失神したり
するし。最後までいまいち掴みどころがなかったなーという印象でした。
しかし、主人公の悠介のキャラはもっと駄目だった。シスコンっぷりが行き過ぎてて、
正直、ドン引き。なんで、ここまで姉のことが好きなのかもよくわからないし。
なんでこんな設定にしたのか謎でしかなかった。その設定さえなければ、好感
持てそうな少年なので、残念だった。
蜜柑が悠介の言動に対して赤くなったり挙動不審になったりする理由も、結局
最後までわからないまま。好意を持っているからなのか、単に男性に免疫がないから
そうなるのか、その辺りくらいははっきりさせてほしかった。姉の、蜜柑に対する
ハイテンションな愛情っぷりもちょっとよくわからなかったし。そこまで溺愛
されるなら、蜜柑に関する容姿についても、もう少し描写するべきだったのでは。
見た目は黒縁メガネでお下げ髪の冴えない女子高生って描写なんだもの。メガネ
取ったら美少女、とか、そういう描写を入れてほしかったよ。
デビュー作は、高校を卒業した蜜柑のその後のお話のようなんで、そっちも読んで
みるべきなのかな。二冊出てるようですね。そちらの方が本格推理なんでしょうか。
刑事になった悠介とかも出て来るのかなぁ。相変わらずシスコンだったら笑えるかも(苦笑)。