ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

塩田武士/「歪んだ波紋」/講談社刊

塩田武士さんの「歪んだ波紋」。

 

誤報」にまつわる5つの物語。新聞、テレビ、週刊誌、ネットメディア―昭和が終わり、
平成も終わる。気づけば私たちは、リアルもフェイクも混じった膨大な情報に囲まれていた。
その混沌につけ込み、真実を歪ませて「革命」を企む“わるいやつら”が、この国で蠢いている。
松本清張は「戦争」を背負って昭和を描いた。塩田武士は「情報」を背負い、平成と未来を描く。
全日本人必読。背筋も凍る世界が見えてくる(あらすじ抜粋)。


新聞、テレビ、週刊誌、ネットニュース・・・いろんなメディアでの『誤報』を
テーマにした五作からなる連作短編集。
海外だとフェイクニュースが話題になったりしますが、日本でもこうやって
裏で様々な情報操作が行われているのかなぁと恐ろしくなりました。
新聞や週刊誌だと部数を伸ばす為、テレビだと視聴者を増やす為、ネットだと
PVを伸ばす為に、偽のニュースを流したり、やらせをしたり、捏造したりと、
やりたい放題。そこに、ジャーナリストとしての矜持があるのでしょうか。
そんな人ばかりではないと思いますが、今の世の中そういう人もたくさん
いるのが現実なのでしょう。テレビやネットで情報が溢れている現代ならではの
とてもリアルな現実を描いた作品だと思いました。


では、一作づつ感想を。

 

『黒い依頼』
ひき逃げ事件で板前が即死する事件が起きた。その後、ひき逃げした車が
遺族宅にあり、妊娠中の妻がひき逃げ犯であるかのような記事が出た。しかし、
その記事は捏造だった。捏造に気づいた近畿新報の沢村が事件を追う――。
妻の美咲のラストの態度が不気味でした。こんな酷い捏造の記事を書かれたら、
メディアに携わるすべての人を憎んでも仕方ないと思いますけどね。

 

『共犯者』
ゲルマンと呼ばれていた元大日新聞の記者、相賀が主人公。引退して
好きなクラシック音楽を聴く悠々自適の日々を過ごしていた相賀のもとに、
かつての同期垣内が自殺したと伝えられる。離婚した妻の元を訪れると、
相賀は垣内の部屋の遺品整理を頼まれる。その後、娘から垣内が借金していた
ことを聞く。垣内は、昔担当していた闇金業者の記事によって、一人の女性の
人生が狂わせていた。そして、最近になってその女と接触し、女に貢いでいた
ようなのだ――。赤西峰子の強かさにぞっとしました。彼女もまた、メディア
によって人生を狂わされたひとりではありましたけど。

 

『ゼロの影』
主人公は主婦の野村美沙。夫は大日新聞の記者で、美沙自身ももかつて
大日新聞に勤めていた。しかし、女性というだけで不当な仕打ちを受け、
結婚を機に退職した美沙は、韓国語が堪能な為、現在は友人の韓国語学校で講師を
している。
ある日、美沙は学校の中で、盗撮容疑で男が捕まったのを目撃する。すると後日、
同じ男を娘の保育園で見かける。盗撮男は、娘と同じ保育園に通う男児の父親だった。
しかし、盗撮事件は、男の父親が有力な弁護士だったことから、もみ消された。
納得がいかない美沙は、事件を調べ始めるが――。
ラスト、意外な人物がもみ消しに一役買っていたことがわかり、驚きました。
でも、それを知った美沙も、結局は正義よりも平穏を選びました。今の
生活を守りたかったのでしょうね。

 

『Dの微笑』
主人公は近畿新報の記者、吾妻裕樹。裕樹は、俳優の谷垣徹が、構成作家
香山を刺したというニュースを聞くが――。
捏造されたやらせの実態に心底辟易しました。テレビは実際やらせが多いもの
なのかもしれませんが・・・ここ数日も、某日テレの人気番組のやらせニュース
で毎日Yahoo!ニュースをにぎわせてますものね。テレビは虚構の世界だと
割り切ればいいのでしょうけど、やりすぎたやらせは、やっぱりどうかと思いますね。

 

『歪んだ波紋』
主人公は、事実を取材してネット上で記事にする『ファクト・ジャーナル』の
編集長、三反園。一話目で捏造記事を書いた桐野から、安大成のインタビュー記事を
配信してほしいと頼まれ二つ返事で引き受ける。しかし、これには裏があった――。
ゲルマン相賀から三反園に伝えられた、桐野たち『メイク・ニュース』側の意図
しているものを知り、空恐ろしい気持ちになりました。最後の一編で、今までの作品が
ひとつに繋がって行くところはお見事でした。

 

メディアに出る情報が正しいのか、そうでないのか、私達一般人に判断するのは
とても難しいけれど、メディアの報道を鵜呑みにするのは危険だと改めて感じ
させられる作品でした。