ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

松尾由美「ニャン氏の童心」/彩瀬まる「珠玉」

こんばんはー。なんだか温かい日が続いてますね。明日は東京でも19℃くらいまで
上がるかもしれないとか。寒がりの私にとっては朗報ですけど、さすがに1月の気温
としては異常じゃないでしょうか・・・アメリカでは寒波だしオーストラリアでは
熱波だっていうし。なんか世界中で異常気象現象がおきてますね。
地球は大丈夫なんだろうか・・・。


今日も二冊ご紹介っと。


松尾由美「ニャン氏の童心」(創元推理文庫
実業家ニャン氏にして童話作家のミーミ・ニャン吉先生、その正体は猫の名探偵、
というトンデモ設定の猫ミステリ、まさかの第二弾が出ました。前作では大学休学中の
モラトリアム青年が一作通した主人公でしたが、今回は童話作家としてのミーミ先生を
担当する、中堅出版社の女性編集者、田宮宴が主人公を務めます。宴の行く先々で不可解な
事件が起き、なぜかその場にミーミ先生とその秘書・丸山が居合わせ、謎を解く、という構成。
猫が謎を解くという形式ではあるんですが、ミーミ吉先生が人間語をしゃべる訳では
ありません。先生がにゃーにゃーと猫語を話しているのを、秘書の丸山が通訳する、という
体裁。よく考えると、一番すごいのは猫語をまるごと理解してしまえる丸山さんのような。
彼がなぜ猫語を解することが出来るのかは謎。ある意味、特殊技能ですよねぇ・・・。
今回の主人公・宴は、中堅出版社に勤める若き編集者ですが、仕事の少ない児童書担当で、
暇を見込まれて他の社員からお使いごとを頼まれることも多く、編集者としてこれで
いいのか自問する毎日を送っています。ミーミ先生と仕事や事件を共にする中で、
次第に自分の仕事に自信が持てなくなって行く宴。そして、最後にはそんな彼女に転職話が
持ち込まれることに。確か、前作の最後でもミーミ先生が主人公の青年に自分たちのところに
来ないか誘っていた覚えがあるのですが。宴の選択は思った通りでしたけれどね。ニャン吉
先生にとっても、そちらの方が良いのではないかなぁ。
ちなみに、第二話の『偽りのアプローチ』だけは、探偵役がニャン氏ではなく、メイド服姿
の大学生、来栖さん。すっかり忘れていたけど、この子は前作のどっかに登場した女の子
だそうな。そういえば、名前に覚えがあるような(いい加減)。ただ、推理したといっても、
本人曰く、以前に会った名探偵(もちろんニャン氏のこと)に憑依されていたからだったよう
ですが。そんな芸当までできちゃうのか、ニャン氏は^^;
あと、4話目の『金栗庵の悲劇』に出て来る、宴の運転手を勤める雑誌部門の同僚の
いとこ、岡崎も、前作に登場したキャラクターだそうで。全然覚えてなかったけど・・・(おい)。
まぁ、多分そうじゃないかな、と思って読んではいたのですけどね(ニャン氏の正体の
こと知ってたし)。このお話のラストに出て来た、離れの名前にちなんだ有名な悲劇って
何なんでしょうか。英文学の悲劇っていったらシェイクスピアだとは思いますけど・・・。
三姉妹がヒントみたいなので検索してみたら、該当しそうなのは『リア王』みたいですけど。
きんぐりあん→キング・リア→リア王ってこと??
一話ごとの謎解きは、いまいちピンとこないものが多かったような。まぁ、軽く読める
猫ミステリって感じです。設定に多々ツッコミ所はありますが、深く考えずに楽しむべき
作品でしょうね。


彩瀬まる「珠玉」(双葉社
新刊が出るとつい追いかけてしまう綾瀬さんの最新作。今回はまたちょっと変わった
作品でしたね。国民的な美人歌手だった祖母の血を引きながら平凡な容姿に生まれ卑屈に
生きて来た女性、歩が主人公。自ら立ち上げたファッションブランドのデザイナーに
突然三行半を突きつけられ、売上も低迷し、打開策を見いだせないでいたところ、
あるパーティで美しいモデルの男と出会う。その男、ジョージは、なぜか歩に懐き、
歩のブランドの再生に力を貸すように。しかし、ジョージは歩の知らないところで
歩の事務所を物色し、金目の物を探すような男だった。ジョージは歩が祖母から譲り受けた
大事な南洋の黒真珠を目に使ったテディ・ベアが高額だと見なして、鑑定士の元へ持って
行くのだが――。
正直、途中までは作者が何を書きたいのかよくわからず、登場人物に共感も出来ず、
いまいち入っていけないままページを進めていた感じでした。圧倒的な存在感を持って
いた祖母に対してコンプレックスばかり感じる歩のどこまでも卑屈な内面描写にも
辟易していたし。その上、容姿は美しいけれど内面は何を考えているのかわからない
ジョージの言動には、嫌悪しか覚えなかったし。特に、歩が大事にしている黒真珠を
使ったテディ・ベアを金に変えようと鑑定士のところに持って行った時は、本当に
腹が立って仕方なかったです。しかも二度も!しかし、二度も持って行かれたのに、
歩自身が彼のそういう邪な部分に最後まで全く気が付かないままってところが、
どうにも釈然としなかったです。彼の本性に気づける機会はいくらでもあった筈なのに。
どこまで鈍感なんだか・・・。あんな怪しげな男をまるっと信じてしまえる歩の
無防備さがとても歯がゆかったです。
面白いのは、そのテディ・ベアの目に使われている黒真珠と、もう片方の
樹脂パール、それぞれに自我が芽生えていて、真珠が語り手になるパートが入って
いるところ。名前もあって、黒真珠がキシ、樹脂パールがカリン。それぞれの名前の
由来もちゃんと説明があるので、なるほど、と思えました。キシとカリンの会話は
なんだか微笑ましかったな。プライドの高いキシと、天真爛漫なカリン、それぞれの
キャラは好きでした。ただ、終盤までは、正直真珠視点のパートの必要性をあまり
感じていなかった。ふたつの真珠の会話自体は微笑ましいとは思うけれども、その分
物語の進みが遅くなるだけで、中だるみの印象は否めなかったので。でも、最後に
歩を助ける為にキシがしたことと、ラストを読んで、彼らに意志を持たせたことに
納得が行きました。最後はとても切ない気持ちになりました。キシの存在はどうなって
しまうのかな。意識の部分だけがなくなってしまうということなのかな。リズの元へ
行ける方がキシにとっては幸せなのかもしれないけれど。
リズに対するコンプレックスで前に進めなかった歩が、最後はきちんと前を向いて
歩き出せたところは嬉しかったです。悔しいけど、それはジョージの存在が大きい。
ジョージに関しては、前述の通り途中までは印象最悪だったのですが、終盤歩に対する
態度が変わってからは、少し印象が変わりました。さすがにこれからは改心して、
歩の(仕事上の)パートナーとして頑張って行くのではないかな。
新しい一歩を踏み出した歩を見て、かつてのパートナー、詩音がどんな態度を取るのか、
そこがちょっと気になりました。いつかまた、一緒に仕事が出来る日が来るのかも
しれないですね。まぁ、詩音のことはあまり好きになれなかったから、そのまま
絶縁の方がスカッとするかもしれない。歩が新しいブランドで売れたからって、また
近づいて来たりしたらちょっと嫌だな。歩の性格なら拒めないだろうからね。