ミステリ読書録

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夏川草介/「新章 神様のカルテ」/小学館刊

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夏川草介さんの「新章 神様のカルテ」。

 

信州にある「24時間365日対応」の本庄病院に勤務していた内科医の栗原一止は、より良い医師と
なるため信濃大学医学部に入局する。消化器内科医として勤務する傍ら、大学院生としての研究も
進めなければならない日々も、早二年が過ぎた。矛盾だらけの大学病院という組織にもそれなりに
順応しているつもりであったが、29歳の膵癌患者の治療方法をめぐり、局内の実権を掌握している
准教授と激しく衝突してしまう。
 舞台は、地域医療支援病院から大学病院へ。
 ベストセラーシリーズ4年ぶりの最新作にして、10周年を飾る最高傑作! 内科医・栗原一止を
待ち受ける新たな試練!(紹介文抜粋)


久しぶりのシリーズ最新作。とりあえず前作までがシリーズ第一章という形で、今回から新章が
スタートするようです(すっかり忘れていた)。
我らがイチさんは、勤務先が本庄病院から信濃大学の消化器内科に移っています。院生という
立場なので、忙しい割に給料は激安で、病棟で医者として働きつつ勉強もしなければならない
という、今まで同等かそれ以上にハードな毎日を送っています。そして、大学病院に移っても、
『引きの栗原』は健在で、イチさんがいれば決まって救急患者が引きも切らずに運び込まれる。
そんなイチさんには、プライベートでも大きな変化が。愛妻ハルさんとの間に天使のような
一人娘が生まれたのです。この小春ちゃんがまぁ、可愛いこと、可愛いこと。当然ながら、
イチさんも予想以上にデレデレ。でも、二人の天使は、生まれたばかりの時から難病に
冒されて、普通に歩くこともままならない日々を送っていたようです。ようやく二歳に
なって快癒に向かい、少しぎこちないながらも普通に歩けるようになって来たところ。
相変わらず定期的に病院には通わなければならないようですが。小さな娘が病気に苦しむ
姿を見ているのは、さぞかし辛かっただろうな。イチさんは、自分が医者なだけに、歯がゆい
思いも多かったと思う。現在は随分良くなって、元気いっぱいな姿を見せているから、小春
ちゃんが生まれてからそんな大変な状態だったと知った時は驚きました。ハルさんは、
写真家の仕事をセーブして小春ちゃんの育児を優先させています。それでも、変わらず
優しく明るい素敵な女性で、イチさんはハルさんのこういう所に救われているんだろうなぁ
と思わされました。本書でイチさんが、大学病院での問題行動によって職を追われるかもしれない
状況に陥っても、ハルさんは全く動揺せず、泰然としているところが凄かったです。家族が
一緒にいられれば、どこに行っても大丈夫。そんな風に言ってもらえる家族がいるって、
とても心強いことだと思う。イチさんは本当にいい奥さんをもらいましたよねぇ。
今回は、29歳の膵臓がんの女性、二木さんの治療を巡る物語がメイン。愛する夫と子供がいて、
29歳の若さでステージⅣの膵癌になってしまうなんて・・・読んでいてとても辛かったです。
自分だっていつどんな病気になるかわからないけれど。大学病院の思惑と、患者の思惑と、
若き研修医の思惑とで板挟みになって、様々なジレンマに陥るイチさんの立場が気の毒だった。
あちらを立てればこちらが立たず・・・みたいな。それでも、一番に患者さんのことを考えて
行動するイチさんはやっぱりすごくかっこよかったです。例え自分の立場が悪くなろうとも、
正しいことを一番にしようとする。医者として、一番大事なことなんじゃないかと思う。
権力にのまれて、正しいことを正しいと云えないお医者さんもいっぱいいるんだろうな。
お医者さんだって生活していかなきゃいけないんだから、それが一概に全部悪いとも
言い切れないとは思うけれど。今回は、大学病院の裏側も少し覗けたように思います。
一般の病院と大学病院は全然違うというのもよくわかりました。
同期の次郎さんやタツさんとも相変わらず仲良しで微笑ましかったです。次郎さんの
結婚には驚きましたけど。しかもデキ婚!?(まぁ、結婚は前々から決まっていたそうなので、
厳密には違うと思うけどw)幸せそうで良かった。タツさんの家庭も、ようやく元サヤに
戻りそうですし。奥さんも、夏菜ちゃんを悲しませることだけはしないで欲しいなぁ。
しかし、ラストの次郎さんの結婚式、夏菜ちゃんの白いドレスはOKなんでしょうか。
子供なら気にしなくていいのかな?自分が花嫁(かその身内)の立場だったら、いくら
子供でも気にしちゃうかも・・・^^;
まぁ、本人たちが幸せなら別にいいのかな。次作では次郎さんもお父さんになっていそう
ですね。女の子だったらイチさん以上にデレデレになりそうだ(笑)。
今回も、とても温かい読後感でした。二木さんのことは悲しかったけれど。二木さんの旦那さん
とりさちゃんからの葉書を読んで、ようやく流したイチさんの涙に胸を締め付けられました。
医者だったら、こういう経験をこれからももっともっとしていくのでしょうね・・・それはとても辛い
ことだけれど。それ以上に、笑顔で退院していく人もいるだろうから、イチさんは医者を
続けていけるのだろうな。何より、イチさんは患者さんを笑顔に出来るお医者さんだと思う。
私も将来病気になったら、イチさんみたいなお医者さんと出会いたいな。
次回作も楽しみです。