ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

奥田英朗「コメンテーター」(文藝春秋)

17年ぶりに復活したトンデモ精神科医・伊良部シリーズ最新刊。めちゃくちゃ

楽しみにしていました。いやー、17年のブランクなんて何のその、めっちゃ

面白かったです。伊良部のトンデモぶりは全く変わっておらず、マユミちゃん

のぶっ飛びクールビューティっぷりも相変わらず。時代も進んでいて、舞台は

コロナ禍の現代になっていますが、伊良部もマユミちゃんも全く年を取って

いなさそうなのが謎です・・・サザエさん化現象!?伊良部はともかく、

マユミちゃんの年齢不詳っぷりがすごい。そのまま年取ってるとしたらあの頃

20歳でも今はアラフォーに近い年齢になっている筈ですが・・・。全然変わって

ないし、むしろぶっ飛びぶりはパワーアップしている。伊良部とずっと一緒に

仕事してる影響なんでしょうか(苦笑)。

今回も、悩める患者が続々と二人の元へと訪れます。ワイドショーのコメンテーター

の依頼に訪れたテレビスタッフ、モラル違反者を怒れず、アンガーマネージメントが

出来ないメーカー勤務の中年男、引きこもりから株に手を出して、うっかり億万長者

になってしまった青年、閉ざされた空間にいるとパニックを起こすピアニスト女性、

山形から上京して、人と会話が出来なくなってしまった大学生。みんなそれぞれに

不安や精神障害を抱えて伊良部の元へとやって来る。どの人にも共通しているのは、

基本的に真面目ってところなんですよね。結局、精神的に病んでしまう人っていう

のは、真面目で自分ひとりで抱え込んでしまって、結局負のエネルギーが発散

出来ずに内に溜め込んでしまうからなんだと思う。適当とか、いい加減に出来ない

というか。あと、他人のせいに出来ない人。時間にルーズな人はあんまり精神

病んだりもしないんだろうなぁ。私自身は、今回出て来た主人公たちの言動に

共感出来るところも多かったので、一歩間違えば伊良部の患者になりかねないかも、

とも思ってしまった。モラル違反する人間に腹が立っても実際怒れないし、約束

の時間より絶対早く着くようにするし(これはまぁ、当たり前のことだけど)、

洋服の試着は苦手だし(店員さんが近づいてくると逃げたくなる^^;)。基本

陰キャなんで、言いたいことが言えなくて、思いっきり内に溜め込むタイプ。ま、

今は相方に発散出来るからいいけどさ。悩みとか、恥ずかしくって人に打ち明け

られないもの。上手く説明出来ないってのもあるし、言ってもどうせわかって

もらえないって思っちゃうし。だから、伊良部の元にやってくる患者たちの心境は

共感出来る部分も多かった。そういう真剣に悩み、病める患者たちに対する伊良部

医師のまぁ、脱力感満載の治療に呆れるやら、笑えるやら。でも、一見いい加減で

トンチンカンそうに思えて、なんだかんだでその人を治しちゃうところが、

伊良部のすごいところ。滅茶苦茶なのに、なぜか心が軽くなって、最後には

悩んでる自分がどうでもよくなってしまうという。

荒療治といえば、荒療治なんだろうけど、効果はてきめん。ちょっとその人の症状

聞いただけで、症例名もすぐ判断できちゃうし、実は名医師なんですよね。迷医師

でもあるけど(苦笑)。コロナ禍になって、精神的に病む人が増えたことで、

精神科を受診する人も増えたでしょうね。まぁ、心を病んで病院に行って、伊良部

みたいな治療されたら怒って訴える人もいそうだけど^^;;

テレビ番組のコメンテーターを任された伊良部の言動には笑うしかない。実際

こんな奴がテレビに出て来たら不謹慎だと思うかもしれないけど、意外と言ってる

ことは的を射てたりするから、あなどれない。でも、背景のマユミちゃんにはウケ

たな~。

個人的には、二話目の『ラジオ体操第2』が、最高に笑えました。これは傑作。

モラル違反を怒れない男の話ですが、その反撃の手段がラジオ体操第2って。

よく思いついたなぁ。でも、マナー違反の撮り鉄野郎たちをやり込めたところに

スカッとしました。何より、渋谷で迷惑行為をする若者に対する伊良部の行動が。

◯がるって!!伊良部がそれやってる姿を想像しただけでもう、可笑しくって。

お腹痛くなりました(笑)。あおり運転に対する対応にもぶっ飛んだけどね。

首痛めてるじゃん!しかも二人(患者と伊良部両方)とも!これはさすがに

危ないよ!って読みながらツッコミましたけどね・・・。

はー、面白かった。伊良部とマユミちゃんのコンビはやっぱり最高。もっと定期的に

出してほしいです。伊良部が毎回患者の注射シーンを興奮して眺める姿も健在で

嬉しかったですw(実際いたら、こんな医者やだけどね!)。