ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

舞城王太郎/「されど私の可愛い檸檬」/講談社刊

イメージ 1

舞城王太郎さんの「されど私の可愛い檸檬」。

 

2ヵ月連続作品集刊行、2冊目家族篇。舞城王太郎が描く「家族」の愛、不思議、不条理。
姉の棚子は完全無欠。その正しさは伝染するようで、周りもみんないい人ばかり。でもそれって
怖くない? 幸福の陰に潜む狂気を描く。「トロフィーワイフ」 妻からの突然の告白に僕は右往左往。
幼い娘、無神経な義母、存在感の薄い義父。小さな家族の形が揺らぎだす。「ドナドナ不要論」
「やりたい」仕事ははっきりしてる。だけど何故かうまく「できない」。だって選ぶのって
苦しいじゃないか?「されど私の可愛い檸檬
問答無用で「大切」な家族との、厄介で愛おしいつながりを、引き受け生きる僕らの小説集
(紹介文抜粋)。


少し前に読んだ『私はあなたの瞳の林檎』と対になるように刊行された作品。あちらは
『恋愛』がテーマだったのに対して、こちらは『家族』がテーマになっているようです。
といっても、三作収録されていますが、ラスト一編(それも表題作^^;)は家族の
物語とはあまり関係なかったような。一作目二作目は間違いなく家族がテーマでした
けれどね。
さらっとさくっと読めちゃうライト舞城作品。独特の文章リズムが心地良い。家族が
テーマでも、ほのぼのって感じじゃない。どちらかというと、そこはかとなく、怖い。
ダイレクトに『家族はこうあるべき』みたいに訴えかけるものがある訳じゃないけど、
なんとなく伝わって来るものがあるから不思議。そこが舞城さんのすごいところなのかも
しれないです。

 

では、各作品の感想を。

 

『トロフィーワイフ』
姉の棚子が突然離婚すると言って自宅を出て行き、友人の晴ちゃんこと軍曹の家で居候
させてもらっているらしい。母から棚子と連絡を取ってほしいと頼まれた扉子は、
嫌々ながらも軍曹の家に赴く。そこで扉子が見たものは、晴ちゃんの家を乗っ取ろうと
するかの如く、その家の主導権を握る棚子の姿だった――。
出て来る登場人物、それぞれに非常識なところがあって、ちょっと読んでいて
げんなりしてしまいました。他人の家で主のように君臨する棚子も、居候の
代わりに義父母の介護を丸投げする軍曹にも、姉が迷惑かけているのに
軍曹の非常識を糾弾する扉子にも、棚子とちゃんと向き合おうとしない
夫の友樹にも、それぞれの言動に嫌悪感を覚えました。一番可哀想だったのは、
棚子の無言の圧力に萎縮する軍曹の三歳の息子・俊君と、要介護で気が弱い
義父母ですよ。いきなり他人が家に入り込んで来て、いろんなことを支配
し始めるんですから。義父母は口ではありがたいと言っているけれど・・・
絶対怖がっていたと思う。何か歪な家族の形を見せつけられた感じで、おぞまし
かった。扉子がそれに気づかせてあげて、家族があるべき姿に戻ってほっと
しました。やっぱり、家族の問題は家族が解決するべきなのだと思う。多少の
手助けをしてあげるのが悪いとは言わないけれど。棚子は、あきらかに
やりすぎた。俊君がトラウマになっていないと良いのだけれど・・・。

 

『ドナドナ不要論』
『ドナドナ』が嫌いな僕は、マンションで妻の椋子と娘の穂のかと三人暮らし。
ある日、同じマンションで椋子のママ友だった矢沢さんの子供が行方不明に
なってしまう。連絡を受けた時点で椋子と矢沢さんとの関係は微妙だったが、
子供の行方不明となればそんなの関係ない。僕等は矢沢さんの子供を探しに
多摩川の河川敷に行く。結果、子供は無事見つかったのだけれど、その連絡を
椋子は矢沢さんからもらえなかった。僕たち二人は、とてつもなくかなしかった。
そのまま年が明けて、最悪の一年が始まる。ありえない不幸が僕らを襲ったのだ――。
マンションのママ友の嫌がらせには辟易しました。よくありそうな話ではありますが、
いなくなった子供を探す手伝いをしてくれた人たちに対してやることじゃないでしょう。
人間としてどうなのかと思いました。
でも、後半の椋子の豹変っぷりも凄まじかった。病気が人を変えるというのは
よく聞く話だけど、あそこまでっていうのは・・・。娘がただただ可哀想だった。
生死の境を彷徨ったのだから、あんな風になってしまっても仕方がないのかな・・・。
孫の穂のかを手に入れようと必至な義母も怖かったな。あと四年経って、椋子が
検査をパス出来たら、また家族の形は変わるんだろうか。かなしさがこの家族から
少しでもなくなればいいな、と思う。

 

『されど私の可愛い檸檬
俺は傍から見ると女の子に対して不誠実な態度を取っているらしい。それで
俺のそういう態度を本気で叱ってくれたのが同じバイト先の四方田さんで、夏、
花火大会を見に行った多摩川の堤防で、その四方田さんと会う。浴衣を着た
四方田さんはきれいで、バイト先の時とは別人みたいだった。流れでなんとなく
四方田さんと付き合うことになった。でも、デザイナーになりたい俺は、自分の
進む道に関しても優柔不断で、行く先が決められない俺に四方田さんはイライラ
するらしい。結局四方田さんとは三ヶ月で別れた。俺の進む道はどこにあるんだろう。
俺は自分のやりたいこと、やらねばならないことを選ばなければならないのだ――。
主人公の磯村みたいな性格の人間と付き合うのは疲れるだろうなぁと思いました。
発達障害っぽいのかな。他人を思いやる気持ちに欠けているというか。やらなきゃ
ならないことを先延ばしにして、まだ先でいいや、みたいなだらだらした感じ、
一番ムカつきます。四方田さんの指摘はいつも真っ当だったと思う。でも、こういう人間
には意外とラッキーが舞い込んで来たりするのよね。それがまたムカつくというか(苦笑)。
自分で何かを決めず、周りに流されるように生きて行く磯村みたいな人間、今の世の中には
多いのかもしれないですね。しかし、タイトルの檸檬はどこから来ているのかな?
最後に出て来た磯村と付き合う女の子のことなのかしらん(謎)。