ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

名取佐和子「ペンギン鉄道なくしもの係」/住野よる「麦本三歩の好きなもの」

こんばんは。今日はやっと春らしい温かな一日でした。最近ずっと寒かった
ですからね~^^;でも、この寒さのおかげで桜が長持ちしているのは嬉しい。
相方と今週末にお花見に行こうと話していたので。明日から本格的に気温が上がる
みたいなんで、週末まで持つかちょっと不安ですけれど。なんとか頑張ってくれ~。


今回は二冊ご紹介~。


名取佐和子「ペンギン鉄道なくしもの係」(幻冬舎文庫
続編から読んでしまった為、順番が逆になりましたが、せっかくなので一作目も
読んでみたいと思い、借りてみました。
狭間駅のなくしもの係、守保がなぜ藤崎夫妻のペンギンを預かることに
なったのか、その理由がわかってすっきりしました。そして、なぜ藤崎老人が
ペンギンを飼おうと思ったのかも。そこには、とても切ない理由があって、
心を打たれました。まぁ、そこで『ペンギン飼おう』と思って、実際
飼えちゃうのは、藤崎老人の身分だからこそではあるんですけど(普通の人は
無理でしょう^^;)。本当は、ペンギンを飼うよりも、もっとしなきゃ
いけないことがあったんでしょうけど・・・。プライドの高さが仇になった
んでしょうね。親子がわかり合えないままだったのは残念です。でも、孫が
良い子で良かった。今後はわだかまりもなくなって、良い関係が築けそうなのも
ほっとしました。
ラスト一編で、前に出て来た登場人物が再登場するのも嬉しかったです。一話目の
主人公響子や、三話目の主人公千繪のこと自体はあまり好きになれなかったけど。
響子は同じ日に骨壷を失くした岩見に対する自意識過剰気味の反応に引いたし、
千繪は、平気で人に嘘をつくところ自体も嫌だったし、その上新婚の夫に一番
ついてはいけない嘘をついたところが許せなかった。まぁ、結果として、この夫
に対しては、一番ついてはいけない嘘でもなかった訳ですけど。普通の夫婦
だったら許されないと思うな。二人とも、守保とペンギンのおかげで最後に少し
成長出来たところは良かったですけどね。
二話目の主人公の弦も半引きこもりの高校生で、問題あり人間ではありました。
でもネットのチャットで知り合った相手との約束を守って、都心まで出かけて
最後まで目的を果たしたところは偉いな、と思いました。彼のような立場の
人間が、ああいう場所に出かけること自体かなり勇気の要ることだと思うので。
その勇気によって、仲間と呼べる人もできてよかったんじゃないかな。ラスト
一編で、その繋がりが切れていないことがわかって嬉しかったです。
この一作だけでは守保自身の問題がほとんど描かれていないので、続編も
読んで良かったと思います。ただ、続編から読んじゃったせいで、ラスト一編
のミステリ的な面白さは半減しちゃってましたけど(藤崎老人と守保の関係を
知っていたので)。ペンギンが早く藤崎老人の元に戻れるといいなと思いつつ、
守保とペンギンの関係も好きなので、もう少しこのままでいてほしいな、とも
思いました。


住野よる「麦本三歩の好きなもの」(幻冬舎
住野さんの最新作。今までとは随分作風を変えて来たな~って感じがしました。
ドジで天然な図書館職員の麦本三歩の日常と好きなものを綴っただけの物語。
正直、前半は三歩のだらっとしたキャラとか考え方とかが全然好きになれなくて、
だらだらと書き綴られる日常の文章も頭に入って来なくて、挫折するかと思いました。
三歩のキャラがどうにも好きになれなくって。仕事も同じことを何度も間違えたり、
やたらに言葉を噛んだり吃ったりするところにもイラっとしました。なんか、
作者がいかにも天然で他人から可愛がられるキャラを作りましたってあざとさが
見えてしまって。職場の先輩たちからも、なんだかんだ言われながらも可愛がって
もらってるし。私がこの子の先輩だったら、きちんと注意されたことを直そうとも
せずに同じ失敗を繰り返すような子を可愛いとは思えないと思ったので。悪気が
ないからいいじゃん、私なりに一生懸命やってるんだし!って感じが透けて見える
ところが嫌だった。これが私だから、みたいな?
でも、途中から、この子はこの子なりにいろいろ考えてることがあって、
日常を生きることに必死なんだなっていうのがわかって来て、少し見方が
変わりました。特に、後半の、三歩が仕事をサボったお話と、そのお話のあとの
おかしな先輩とのやり取りを読んで、三歩が天然だと言われることに対して
自分なりの考えを持っていることがわかって、彼女に対する見方が更に変わった
ように思います。彼女も、好きで天然って言われてる訳じゃないし、天然って
言われること自体好きじゃないとも思っている。意外とちゃんと自分のことを
把握してる子なんだなーと思いました。それでも、ああいう言動をしちゃう
ところは、やっぱり天然なんでしょうけどね。一度だけのサボりであれだけ
自分に罪悪感を覚えてしまうところも、基本的には真面目な子なんだってことも
わかりますし。大好きな友達に対する態度なんかにも好感持てましたし、
大学で仲の良かった男友達の本音を聞いた時の真剣な受け答えも、心に
刺さりました。ちゃらんぽらんな子なのかと思ったけど、実はどんな時でも
誰に対しても真剣に向き合う子なんですよね。まぁ、だからといって、彼女
自身の普段の言動にはやっぱりイラっとさせられると思うんですけどね・・・。
文章はやっぱり、ところどころ引っかかる表現があったりして、この人の
文章表現がいまいち好きになりきれないところはあります。狙ってこういう表現
してるんだろうけど、どうもリズムが悪くて読んでて気持ち悪いなぁ、みたいな
感じ。こういうのが好きな人もいるとは思うけど。私は崩しすぎてて好きじゃ
ないな。三人いる先輩を、優しい先輩、怖い先輩、おかしな先輩と表現する
辺りも、普通に名前で良くない?って思うし。まぁそこが三歩らしいとも
云えるんでしょうけど・・・。この名前の引っかかりは、『キミスイ』の時も
思ったんですけどね。個人的には、作者のひとりよがりっぽく思えて好きじゃ
ないんですよね。
読書メーターの他の方の感想読んでたら、のきなみ高評価でちょっと驚きました。
ここまで好意的に受け入れられる作品なのかー、と。私がひねくれてるんでしょうね・・・。
まぁ、なんてことはない日常のお話ですが、ほのぼのと明るい気分になれる
作品ではあるので、今の季節に読むにはぴったりなのかな、と思いました。