ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

古内一絵「きまぐれな夜食カフェ マカン・マランみたび」/「さよならの夜食カフェ マカン・マランおしまい」

どうもこんばんは。
先日、我が家の水槽に新たなメダカさんたちを迎え入れました。紅帝という種類で、
全身緋色のとてもきれいなメダカさんです。ブリーダーから買うととてもお高い品種
なのですが、お魚ショップで驚くほどの安価で売っていたので、ついつい3匹セットで
買ってしまいました。
・・・が、翌日1匹が★になり、それから数日後のもう1匹も★になり、最後に
残った最後の子も昨日ついに弱って★になってしまいました・・・(涙)。
やっぱり、安価で売っているのには、それなりの理由があったからなんでしょうか。
多分、もともと病気を持っていたのかな、と(結構あることらしいです)。
水合わせがうまくいかなかった可能性もありますが、最後の1匹は何日間かは
元気に泳いでいたので・・・。
繁殖させて増やそうと雌雄取り混ぜて買ったのにな。悲しい。


本は二冊ご紹介。


古内一絵「きまぐれな夜食カフェ マカン・マランみたび」(中央公論新社
マカン・マランシリーズ第三弾。今回も、心に鬱屈を抱えた迷える人々が
マカン・マランにやってきて、シャールさんの言葉とお料理に癒やされて行く
お話。
第一話の主人公ははオペレーターのアルバイトをしている26歳の綾。そこそこ長く続けて
いるが、何のスキルも上がらずコミュニケーション能力もない為、会社からの信頼も
得られず、リストラにあってしまう。そうした仕事でのイライラを、ツイッターで何か
ディスることで憂さ晴らしするのに夢中になっている。
綾の言動には嫌悪感しか覚えなかったです。何かの悪口を言うことで自分の鬱屈を
発散させるなんて、本当に唾棄すべきことでしかないと思う。まぁ、今のSNS時代には
こういう人間がたくさんいるのだろうけど。自分が本当に思ったことならば別に
悪くはないと思うけど、悪口を言うこと自体に快楽を覚えるようなのはダメだと思う。
まぁ、黒べる子をたまに出しちゃう私が言うのもアレですけども・・^^;;
人に言えない恨みつらみを瓶詰めの何かを作って閉じ込める、というのは面白いし
いいアイデアかも、と思いました。私も、鬱屈を抱えた時はジャムでも作ろうかな。
第二話の主人公は、世界的に有名なレストランで修行した経験を持つ料理人の省吾。
身体を壊して、味覚障害を患ってしまい、今は休職中。かつて同じレストランで修行した
先輩が独立して新しいレストランを開くというのでパーティに赴くと、フリーランス
ライター、さくらと出会い、マカン・マランに誘われる。
省吾の最初の修行先で、女将さんから帰省の際に白いシャツを持たせられるという
エピソードが印象的でした。白いシャツにそういう意味があるとは思いませんでした。
省吾はとても、大事にされていたんですね。それに気づけてよかったと思いました。
第三話の主人公は、シャールさんがかつて勤めていた証券会社の後輩、燿子。
タワーマンションに住み、何不自由ないセレブ暮らしをしていた燿子だったが、
夫の不倫で離婚することになり、離婚式を行うことに。そのドレスを作って
欲しいとシャールの元にやって来る。
いやー、離婚式に颯爽と現れた男性にすべてを持って行かれましたね。なんて
ドラマチック!燿子の失恋の相手はやっぱりあの人だったんですね・・・。
とにかく、二人でダンスを優雅に踊るシーンが素敵でした。タワマンのセレブ
奥様たちと、アホな元旦那に一矢報いたシーンにスカッとしました。
第四話の主人公は、マカン・マランの常連で齢七十半ばを過ぎた比佐子さん。
自分の年齢とシャールさんのお店の今後のことを考えて、終活をし始めることに。
昼のお店も夜のお店も大好きな自分の居場所だからこそ、今後のことを考え
始める比佐子さんの気持ちは痛いほど伝わって来ました。それでも、比佐子さんの
気持ちを汲んだ上で、先のことを考えるよりも、今を上機嫌に過ごす方が大事という
シャールさんの言葉に胸を打たれました。自分の病気のことも考えて、そういう
発言になったのだろうなぁ・・・。シャールさんがそこにいてくれるだけで、
常連はみんな幸せになれるんですよね。願わくば、その時が出来るだけ長く
続きますように。


古内一絵「さよならの夜食カフェ マカン・マランおしまい」(中央公論新社
シリーズ最新作にして、最終作。もともと四部作の予定だったそうです。
タイトルがタイトルなので、最後を読むのがとても嫌だった。シャールさんの
身体のことを考えると、最悪の事態もあるんじゃないかと勘ぐってしまうから。
実は、同時に予約したのだけど、こっちの四作目が先に回って来ちゃったんですよね。
でも、引き取り期限ぎりぎりまで待ったら、無事三作目も回って来たので、
順番通りに読むことが出来ました。ほっ。
第一話の主人公は、中高一貫のお嬢様学校に高校から編入して、うまく行って
いると思っていた友達関係がだんだんとうまく行かなくなって来ている女子高生、
希実。グループトークアプリやインスタでのやり取りなんかは、今どきの女子高生
ならではのものなんでしょうね。私が同じ年の頃は携帯すらなかった時代
だもんな。今のいじめの方がそういう意味では陰湿なんだろうな。ひとりの子
を外すのとか簡単にできちゃうだろうし。希実自身にも多分に悪いところは
あったと思うけど、些細なことでいじめが始まってしまうというのはやっぱり
嫌な気分になる。マカン・マランで居場所が見つかって、本当に良かったと思う。
基本はとてもいい子なのだからね。
第二話の主人公は、三巻に出て来た省吾が、世界一のレストランで修行していた時の
先輩、庸介。自らプロディースしたレストランは順調で、容姿が端麗なことも
あり、メディアにも多数出演して、顧客を増やしていた。しかし、ツイッター上で
一人のアカウントからの攻撃的なツイートに怒って反論したことがきっかけで、
炎上し、世間からの信頼を失ってしまう。失意の庸介は、なぜかかつての後輩
省吾が修行しているという和食の料理屋を訪れる。
庸介の、シャールさんに対する暴言には腹が立って仕方なかったです。確かに
プロの料理人からすれば、シャールさんの料理は素人なのかもしれないですが
・・・。マカン・マランの料理の代金のことは私も気になっていたので、
ちょっとすっきりしました。品数から考えると、やっぱり破格の値段って
ことになるでしょうねぇ。
第三話の主人公は、三巻の三話に出て来た燿子のタワマン仲間である更紗。
二十歳年上でバツ二の夫は、最近帰りが遅く、不倫をしているようだ。
そんな中、更紗の妊娠が判明してしまう。避妊していた筈なのに。夫に告げると、
前妻たちとの間に4人の子供がいるせいか、『これ以上子供はいらない』と
冷たく言い放たれてしまう。シングルマザーだった母親から冷たい仕打ちを
うけていた更紗は、自分がどうしていいのかわからなくなってしまう。
更紗の夫は本当にクソでしたね。妊娠したと告げた時の言動にはぶん殴って
やりたくなりました。シャールさんの優しい言葉とお料理で、心がほぐれて
良かったです。母親は、ずっと更紗からの連絡を待っていたんじゃないのかな。
シリーズ最後を飾る主人公は、シャールさん自身。先に述べたように、この
お話を読むのがとても怖かった。タイトルがタイトルだし、マカン・マランが
なくなってしまうのかと思って。
シャールさん自身も、いろんな悩みや葛藤を抱えて、何度も辛い思いを
していたんですね・・・。でも、いろんな人と出会って、彼女(彼?^^;)自身も
救われて、今のシャールさんがある。だからこそ、シャールさんは他人の
痛みがわかるし、他人に優しく出来るんですね。シャールさんの言葉は
いつだって、その人への思いやりに溢れていて、温かい。もちろん、彼女が
作るお料理も。自分と他人を労ることを知っているから。だから彼女の
お料理は美味しいんだというのがよくわかりました。もっともっと、心に
悩みを抱えた人を救って欲しいし、常連さんたちの胃袋も癒やしてあげて
欲しい。病気が再発しないことをただただ、願うのみです。

 

このシリーズの良いところは、一度マカン・マランを訪れた人がみんな
シャールさんとそのお料理の虜になって、常連になって、常連同士が知り合い
になって、人の輪がどんどん繋がって行くところ。まぁ、中には庸介のような
ひねくれた人間もいますけれど。でも、彼だってシャールさんに救われた一人
でもあるから、心の中にはマカン・マランでの一日がずっと大切にしまわれている筈。
私もそんなお店の常連になりたいなぁとしみじみ思わされるのでした。
あとがきに、続きが書かれる可能性も示唆されているので、とても嬉しい。
今年、このシリーズに出会えて本当に良かったと思う。
早く再会出来るといいな。