ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

朱野帰子「わたし、定時で帰ります ハイパー」/北村薫「中野のお父さんは謎を解くか」

どうもこんばんは。いよいよ平成もあと残り一日ですね。なんか変な感じだなぁ。
平成最後の1日、みなさまはどう過ごされるのでしょうか。
私は、1時過ぎまで仕事して、あとはのんびり家で過ごします。
明日のテレビは平成振り返り系ばっかりなんだろうなぁ。


読了本は二冊ですー。


朱野帰子「わたし、定時で帰ります ハイパー」(新潮社)
先週からドラマも始まって、ますます人気が出そうなこのシリーズ、続編が刊行され
ました。ドラマ化に合わせたのでしょうね。ドラマは原作の良さを残しつつ、少し
脚色もしてあって、なかなかいい感じに仕上がっているのではないかと思いました。
ドラマの1回目観てから読んだので、ついつい結衣は吉高さん、晃太郎は向井君の
ビジュアルで読んでしまいました。結衣は、作者の朱野さんも書いている時吉高さんを
イメージしていたのだそうなので、ぴったりな感じはしますね。晃太郎はちょっと
かっこよすぎなような^^;
今回も、前回に負けず劣らずモンスター社員が出て来ます。新人の甘露寺、桜宮、野沢、
加藤・・・どの人物も、一筋縄ではいかない問題を起して、結衣の頭を悩ませます。
でも、結衣はそれぞれの新人がどれだけ問題を起こそうが、絶対に見捨てない。なんとか
それぞれがきちんと仕事に向き合えるよう訴えかける。偉いなぁと思いました。普通、
甘露寺や加藤みたいに毎日遅刻してくる新人とか、さっさと見切りをつけられてしまうような
気がするんですが。甘露寺に限っては、上司(結衣)が毎日モーニングコールかけてあげるとか、
絶対やりすぎだと思うんですけど。そこまで面倒みてくれる上司なんかいないですよ・・・。
まぁ、私は普通の企業に勤めたことがないので、その辺のリアリティの度合いは想像するしか
ないんだけども。
仕事が出来なくても、女は男に媚を売っていればいい、という態度の桜宮も、一度飲み会に
参加しただけで母親が会社に抗議に来る野沢も、毎日遅刻してくる加藤も、それぞれに
社会人になったという自覚が足りなすぎるな、と呆れました。そこそこ大手な筈の結衣の
会社の人事は、一体どこを見てこういう新人を入れたのやら。まぁ、甘露寺に至っては、
結衣がスカウトしたのだから、彼女が面倒見るのも当然といえば当然ではあるんですけど。
ただ、それぞれの新人には、それぞれの裏事情がありました。そういう部分を知った後では、
かなり見方が変わる子もいました。一番大きく印象が変わったのは、やっぱり桜宮ですね。
終盤の、彼女の本当の心情を知る前は、彼女の言動には嫌悪しか覚えなかったので。
結衣がきちんと彼女の事情をわかった上で、戦ってあげて良かったです。結衣自身も、
とても辛い思いをしたけれど、それを乗り越えられたのは、やっぱり彼女が強いから
だし、仕事に対しても、同じ会社の仲間に対しても、常に真摯に向き合っているから
だと思う。結衣を辱めたフォースの押田の言動には、吐き気を催す程強い怒りを
覚えました。どんな場所でもコンプライアンスが叫ばれる今の世の中で、こんな
セクハラがまかり通る会社があるなんて。フォースの社風はとにかく気持ち悪かった。
私だったら、こんな会社の商品は買いたくないなぁ。押田にへりくだる晃太郎の
姿も見たくなかった。でも、対抗野球のシーンはかっこよかったです。
結衣と晃太郎のラストにはニヤニヤ。まぁ、どう考えてもお互い未練たらたら
なのは丸わかりでしたからねぇ。さっさと素直になればいいのに、と思って
いたので、当然の結末とも云えるかな。前作で、巧とああなって良かったの
かもしれません。巧とあのままゴールインしても、どこかで綻びが出て来て
いたのでは。
それにしても、結衣の行きつけの中華料理屋(上海飯店)の店主、王丹の正体に
びっくり。一体なんで日本で中華料理屋なんかやってるのやら。いろいろ謎な人です。
今回も、降りかかる様々な困難に立ち向かう結衣を応援しながら読みました。
ここまでして働かなきゃいけないの?と思ってしまうような出来事もありますが、
それに負けない結衣の強さが頼もしかったです。
ドラマも好評みたいだし、更なる続編が期待出来そうですね。


北村薫「中野のお父さんは謎を解くか」(文藝春秋
文芸誌『小説文宝』の編集者、田川美希に持ち込まれる様々な不可思議な出来事を、
実家の中野にいる国語教師の父親が鮮やかに解き明かす、シリーズ最新作。
ほっこり出来るこのシリーズが大好きです。新作が読めて嬉しい。今回も、
中野のお父さんと美希のやり取りが微笑ましくて、楽しく読めました。
このシリーズは、文芸よりのテーマより、日常的な主題のものの方が
わかりやすくて好きです。文芸関係のものだと、ちょっとおバカな私には
わかりづらくって^^;例えば、松本清張の短編に端を発した『水源地はどこか』
とか、徳田秋声泉鏡花の、師・尾崎紅葉に対する思惑の違いを扱った
『火鉢は飛び越えられたのか』とか。
好きだったのは、車のバンパーを凹ませた犯人は誰かという謎を描いた『縦か横か』
作家先生が買ったブルーレイディスクに特典映像がなかったのはなぜかを描いた
『バスは通ったのか』、病気入院中の夫が妻をキュウリに喩えたのはなぜかという
謎を描いた『キュウリは冷静だったのか』辺りかな。お父さんの謎解きを読んで、
なるほどーときれいに腑に落ちるものがありました。ブルーレイディスクのやつは、
やられた方はたまったものじゃないですが。確信犯だとしたら、腹が立ちますね。
『キュウリ~』は、今はあまり見かけなくなりましたが、小さい頃、すぐ近所の
お家が必ずやっていたので、懐かしく思い出しました。大まかな意味は知って
いたのだけれど、キュウリとアレにそれぞれそういう意味があったことは
知らなかったです(無知)。
『「100万回生きた猫」は絶望の書か』は、多分どこかのアンソロジーで既読
だったんですが、改めて読んでも、美希の父親が倒れたシーンは息が止まり
ました。私の父も数年前倒れて入院したことがあったので、その時のことを
思い出して、美希の動揺が自分のことのように伝わって来ました。これで、
美希は年老いた父親のことが、ますます大事に思えるようになったでしょうね。
ところで、「100万回生きた猫」を絶望の書だと言った彼とは、今後恋愛関係に
発展していくのかな。その後の作品にも登場するし、今度は文芸に異動するそう
だし、美希との今後の関係にも注目して行きたいですね。
ラストの場面で、大事に大事に育てた枝豆を嬉しそうに娘と食べるお父さんの姿に
ほっこり温かい気持ちになりました。まだまだお元気で、謎解きに精を出して
いただきたいです。