ミステリ読書録

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京極夏彦「今昔百鬼拾遺 鬼」/柚木麻子「マジカルグランマ」

こんばんはー。延期されていた他ブログへの移行ツール、ようやく準備が
整ったようですね。いよいよ終了も現実のものとなって行くのかなぁ。
未だに実感が湧いてないのだけれど。みんな結構移行しちゃった方が多いのかな。


今回も二冊ご紹介~。


京極夏彦「今昔百鬼拾遺 鬼」(講談社タイガ
本当に本当に久しぶりの百鬼夜行シリーズ。どれだけ待っていたことか・・・!!
まぁ、本編ではありませんけれど、主人公はあの京極堂の妹君、敦子嬢。
あっちゃんの口から兄の話が出る度に、ニヤニヤ。本人出て来ないのかなー
と思ったけど、そこはやっぱり本人登場はなかったですね。本人や友人の
小説家やら探偵やらは、栃木の事件でそちらに向かっているとのこと。
栃木の事件って何だろう?何せ、本編のシリーズ読んだのがあまりにも昔
過ぎて、全然覚えてないよ^^;
本書の事件は、『絡新婦の理』の直後の出来事だそう(読書メーターの他の方
の感想で知った。ありがたいです)。そして、メインに出て来た女子高生の
呉美由紀ちゃんもその時の事件の関係者のようです(私は全然覚えてなかった
けど^^;)。
発端は、美由紀の友人、ハル子が、最近世間を賑わせている『昭和の辻斬り事件』
の七人目の被害者となってしまったことから始まります。友人が犠牲者となってしまった
美由紀は、自分の学校で起きた連続殺人事件を解決に導いた敦子の兄の元を訪れるが、
当の古本屋は別の事件に関わっており不在なため、敦子が代わりに話を聞くことに。
事件前にハル子は、『迚も怖い』と美由紀に漏らしていたのだという。ハル子の
家――片倉家の女は、代々斬り殺される運命にあるのだというのだ。そして、ハル子
もその運命に抗えなかった。犯人は、ハル子の実家の刀剣屋で働いていた宇野という
男だった。ハル子は宇野と交際していたらしい。ハル子が斬り殺された当時、現場には
ハル子の母親もいた。ハル子が斬り殺された後、宇野は逮捕され、今までの辻斬り事件の
犯行も認めたという。しかし、美由紀は生前のハル子の言葉が気になっていた。また、
美由紀には、宇野とハル子が付き合っていたようには思えなかったという。美由紀から
相談を受けた敦子は、事件の真相を調べ始めるのだが――。
先に読まれたゆきあやさんから伺ってはいたのですが、京極さんの本としては異例の
薄さじゃないでしょうか。もちろん、~談シリーズなんかは大抵薄いのだけれど。
百鬼夜行シリーズでこの薄さは今までになかったパターンですよねぇ。
でも、薄いけれども、事件のからくりはさすがの完成度ですし、シリーズならでは
ケレン味もたっぷり。京極堂みたいな薀蓄がない分、初心者にもわかりやすい
内容になってるし(笑)。何より、あっちゃんと美由紀のキャラクターがいいですね。
もともとあっちゃんは大好きなキャラクターだったのだけれど、彼女視点のお話は
初めて読んだので、実はこういう性格だったんだなぁとちょっと意外な印象も
ありました。サバサバしてて明るい性格って感じに思っていたけれど、女性同士の
ベタベタした付き合いが苦手だからそう見えていただけだったのかな、とか。
でも、美由紀とはウマが合いそうなので、今後のシリーズにも登場してくるのかな。
辻斬り事件の真相は、なるほど~!って感じでした。なかなかに、因縁深いというか。
根が深いというか。宇野とハル子の母親の関係にもびっくりだったけど。
そして、ラストの美由紀の啖呵にスカッとしました。ぐちゃぐちゃうだうだしてた
場が、一気に解決に向かったのがすごい。美由紀って面白い子だなーと思いました。
そして、驚いたのはまさかの『ヒトごろし』とのリンク。おりょうさんの名前を
こんなところで目にするとは!あの作品が書かれた意味が、ここに来てやっと理解
できた気がしました。長くて長くて読むのが本当に苦痛な話だったのだけれど、
初めて読んで良かった、報われた!と思えました(笑)。あそこから繋がって
いたのか(驚愕)。
京極さん、この作品を想定してアレを書いていたんだろうなぁ。やっぱり、
トンデモない作家だな。
京極堂がいなくても、やっぱり兄妹だなぁ、と思いましたね。あっちゃんの慧眼に
脱帽。あっちゃんだけでも、十分探偵の素質あるんじゃないかな?美由紀を助手に、
これからも探偵めいたことをしていくのだろうか。三部作らしいので、あと二作も
めっちゃ楽しみ(なぜか三作とも版元が違うのも面白い。三社協力作品?)。
次の河童は予約中。二番目だけど、多分蔵書一冊だからもうちょっと待たされそうかな。
ああ、早く読みたいなぁっ。


柚木麻子「マジカルグランマ」(朝日新聞出版)
柚木さん最新作。今回は、なんと74歳のおばあちゃんが主人公。表紙やタイトル
から、魔法使いのような可愛らしいおばあちゃんが活躍するほのぼのエンタメ
かと期待したのですが――・・・ぜんっぜん違いました。主人公の正子は、
若い頃はそこそこ有名な女優だったが、映画監督・脚本家の夫浜田壮太郎との
結婚を機に引退、専業主婦として暮らして来た。世間的にはおしどり夫婦と
見做されて来たが、実は数年前から夫とは冷え切っていて、敷地内別居状態。
もう4年も口を聞いていない。最低限のやり取りはLINEのみ。正子の今の望みは、
一刻も早く自活できるお金を貯めて、一人暮らしをすることだった。そんな訳で、
正子は齢70を過ぎての再就職活動を始める。知り合いのつてを頼って、
女優として事務所に所属することなった。その機に、老女らしい役柄をもらえるよう、
髪も真っ白に染めた。その甲斐あって、日本一の携帯会社のCMに大抜擢。若手
俳優とのからみが受けて、一躍人気者に躍り出た。しかし、敷地内別居していた
夫が、離れの部屋で死体となって発見された。死亡してから数日経っていた。
そして、夫の葬儀でマスコミの取材を受けた正子は、バカ正直に現在の心境を
語り、世間のバッシングを受ける羽目に。そして、葬儀が終わって自宅に戻った
正子を訪ねて、一人の若い女がやって来る。杏奈と名乗ったその女は、生前の
壮太郎に世話になったといい、困ったらいつでも自宅を訪ねて来なさいと
言われていたという。なし崩し的に、杏奈との奇妙な同居生活が始まった――。
なんかもう、めちゃくちゃな話だった^^;途中まで、正子の性格も杏奈の
性格も嫌で嫌で、読むのが苦痛で仕方なかった。二人の関係が少し良くなって
行った辺りからは、少し楽しくなって行ったけれど。とにかく、正子の思考回路が
理解できないことが多くて、イライラしてばかりだった。良い面がない訳
ではないのだけど、せっかく物事がいい方向に進んでいる時に、それを
台無しにするような言動ばかりするから、腹が立って仕方なかった。特に、
自宅のおばけ屋敷がやっと軌道に乗って来た時に、認知症の親友を連れて来て
全部をめちゃめちゃにした時には呆れ果ててしまった。その後で全部を杏奈
たちに任せて渡米した時もそうだったけど。年齢に反したその行動力には感心する
ところもあるけれど。それにしても、自分勝手過ぎて。全然好きになれないヒロイン
だった。ただ、好きにはなれないけど、なぜか憎めないところもあるんですよね。
息子の恋愛事情に対する大らかな態度なんかも、普通の母親とは全然違う反応
でびっくりさせられたし。普通反対するよね。母親としてはいい親なのかも。
いい面とはた迷惑な面どちらも持っていて、ヒロインのキャラクターとして、
そのさじ加減は絶妙だったかもしれない(私としてはイラつく面が多かったけど^^;)。
自信満々で乗り込んだアメリカでのその後の展開は、彼女ならそうなるろうなー
って納得できるものでした。なんか、正子らしいもの。陽子がああなるってのは
予想できなかったけど^^;ちょっと無理があるような気もするけど。
杏奈は登場が最悪だったので、最初は全然好きになれなかったのだけど、
基本はいい子だとわかって、正子の面倒を見れるのは彼女しかいないだろうなー
と最後は思えて来ました。東京ホラーハウスでの仕事っぷりは彼女の有能さを
証明しましたしね(最初は全く才能ないと思ってましたが^^;)。
お金がなくてもめげずにいろんなことにチャレンジする、正子のポジティブな
行動力には感心しました。いい意味でも、悪い意味でも、今までにないタイプの
主人公だったのは間違いない。逆境にとんでもなく強いっていうのも。
好き嫌いが分かれそうなエキセントリックなヒロインでした。