ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

薬丸岳「蒼色の大地」/アミノ会(仮)「アンソロジー 嘘と約束」

こんばんはー。六月も半ばを過ぎて、上半期もあと僅かですね。早い~~。
今度の日曜でうちもなんと結婚7周年。みなさんに祝福して頂いた結婚式記事をアップ
してからもうそんなに経つんだなぁと感慨深いものが。
当日は相方が夜勤なので、翌日の月曜の夜にお祝いする予定(地元の歩いて行ける
超こじんまりしたフレンチレストラン)。
仕事終わりだけど、美味しいもののために頑張ろうっと。


今回も二冊ご紹介。


薬丸岳「蒼色の大地」(中央公論新社
薬丸さん最新作。この間読んだ伊坂さんの『シーソーモンスター』同様、
小説BOCが立ち上げた、海族と山族の対立を描く螺旋プロジェクトの一環作品。
時代は明治。青い目を持つ海族の青年灯(あかし)と、尖った大きな耳を持つ山族の
新太郎と鈴の兄妹をメインに据えた物語。
蒼い目を持つがゆえに幼い頃から迫害されてきた灯だが、唯一村の中で優しく
接してくれた鈴のことは大人になっても忘れられずにいた。一方の鈴も、
幼い頃に沼で溺れかけた自分を救ってくれた蒼い目の灯のことが忘れられなかった。
しかし、灯は彼を育ててくれた爺の死の後、7年前に村を出て行ったきり消息が
わからなくなっていた。鈴は、もう一度灯に会いたいと願い、学校卒業を機に、蒼い目の
人間がたくさんいると言われる鬼仙島に行き、灯を捜すことを決意する。一方、灯は
迫害から逃れ鬼仙島に辿り着き、蒼い目の人間を崇めるこの島で差別のない暮らしを
手に入れたものの、島で繰り返される海賊による略奪行為に胸を痛めていた。
もう一方で、海軍の軍人になった鈴の兄新太郎は、英国からやってくる軍用艦が海賊に
よって狙われている報を受け、仲間と共に海賊討伐に向け動き出すことに――。


以下、ネタバレあります。未読の方はご注意下さい。



読書メーターの感想見てたら、どなたかが灯と鈴をロミオとジュリエットになぞらえて
ましたが、まさにそんな感じ。海族と山族として対立する立場にある二人の恋愛が
どうなるのか、どきどきしながら読みました。お互いに想い合う立場にいるのに、
なかなか会えずにすれ違う二人がとてももどかしかった。結局、二人が会えた
シーンって、ほんとにわずかしかないし。二人のラストは切ないとしか言いようが
ない。最悪の事態も想定していましたが、少なくとも片方は生き残れた訳で、
そこはまだ良かったのかな。できれば二人が一緒になって、子供を授かって、
海族と山族の対立という負の連鎖を断ち切って欲しかったけれど。やっぱり、
壮大な歴史の中で繰り返される海族と山族の対立は、そう簡単になくなるもの
ではないんでしょうね。
ちょっと気になったのは、同じ山族なのに、なぜ灯にとって新太郎は嫌悪対象に
なって、鈴はそうではないのかってところ。恋愛感情があれば嫌悪感が打ち消される
のか。山族が近くにいるだけで強烈な嫌悪感や吐き気が催される程なのに、鈴だけが
例外だという理由が謎でした。

 

それにしても、プロジェクトの一環としての作品だとはいえ、いつもの薬丸さん
らしさは全く皆無。作家名伏せて読んだら、絶対薬丸さんの作品だとはわからない
でしょうね。こんな話も書ける方なんだなーと新鮮な気持ちで読みました。
これはこれで面白く読みました。
ただ、やっぱり薬丸さんに期待するのは、重厚な司法の問題を取り上げた社会派
ミステリーなんですけどね。次はそういうのをお願いしたいなぁ。



アミの会(仮)「アンソロジー 嘘と約束」(光文社)
女性作家のみで構成された「アミの会(仮)」によるアンソロジー企画、
第六弾。今回のテーマはタイトル通り、『嘘と約束』
企画により、最近は男性作家をゲストに呼ぶことも増えて来ているようですが、
今回は純粋にアミの会(仮)の女性会員だけで構成されたアンソロジー
結局、アミノ会(仮)の(仮)は今に至るまで取れないままですね。きっと、
このまま行くんだろうなぁ。もう(仮)取ればいいのにね(笑)。
相変わらず、一作ごとにクオリティが高い。実力のある作家さんが揃っている
証拠だと思います。みなさん、短編がお好きだそうですし。短編ながら、程よく
まとまっている作品が多く、読み応えありました。
では、各作品の感想を。

 

松村比呂美『自転車坂』
松村さんは、このアミの会のアンソロジーで初めて読んだ作家さんですが、
なかなか読ませる作品を書かれる方だなぁという印象。
今回の作品は、会社へ急ぐ会社員と自転車に乗った高校生が坂の途中で
接触事故を起こしたことから始まるミステリー。なかなかに凝った構成に
なっていて、後半は思わぬ展開に発展して驚かされました。高校生が
当て逃げ詐欺を働く嫌な話なのかと思いきや・・・後半は心温まる良い
お話で終わったのでほっこりしました。職人からちっちゃい提灯をもらった
エピソードが心に染みたな。

 

松尾由美『パスタ君』
小学四年の時、パスタが好きだという変わった少年が転校してきた。彼の
話は嘘ばかりだと思ったが、たまたま帰る方向が同じせいで一緒に帰る
羽目に。彼の家の前まで来た時、彼の母親と会ったことから、僕は彼の家の
おかしな点に気づいてしまい――。
パスタ好きの蓮田君の家の事情は、なるほど、と思いました。一定数同じような
環境の家庭はあると思う。でも、少なくとも蓮田君は母親から愛情を受けて
いると思えたところは救いだったかな。それより、主人公の家庭の結末の方が
意外だったかも。蓮田君と主人公の約束が守られなかったのは残念だった。

 

近藤史恵『ホテル・カイザリン』
明治時代の洋館を改装して作られたホテル・カイザリン。年の離れた夫が
月に一度海外出張している間、このホテルに一泊することがわたしの唯一の
息抜きだ。そんなわたしがこのホテルで出会った女性、愁子。わたしは、
彼女に会う度、彼女に夢中になっていった。そして、ついにわたしはホテルに
火を放つことに――。
こういうホテル、素敵だなぁ。各部屋にシェイクスピアの戯曲の名前が
ついていて、内装も全部違っているというのが面白い。
結末の救いのなさが近藤さんらしい。でも、二人の女性はいつかお互いを
求めて再会できるような気がしました。

 

矢崎在美『青は赤、金は緑』
少女が出した、タイトルのなぞなぞの答えは、なんとなくすぐに気がついて
しまいました。まぁ、大抵の人がわかる気もしますが。ただ、少女がこの
なぞなぞを主人公に出した理由まではよくわからなかったですけど。少女
なりに、新しい母親になるかもしれない人と仲良くしたかったんでしょうね。
友人の深理が、大事な飼い猫を主人公に預けた理由も、予想は出来ました。
某女性作家の某作品を思い出しましたが。切ないけれど、最後は救いのある
終わり方でほっとしました。

 

福田和代『効き目の遅い薬』
洒落たイタリアンレストランで、女性と食事をしていた若い男性が急に
倒れ、救急車で運ばれる最中息を引き取った。警察が調べると、男性の
ポケットから赤と青、二種類の液体が入ったウィスキーのミニボトルを
発見した。どちらにも毒物が入っていた。男性はコーヒーを飲んだ直後
に体調を急変させたそうなのだが、一緒に食事をしていた女性に聞くと、
そのコーヒーは本来女性が飲むはずのもので、直前に女性が自分のものと
相手のものを入れ替えておいたのだという。一体男性は何がしたかったのか
――。
なんとも皮肉な結末のお話。上手く出来ていますね。冒頭のシーンは
完全にミスリードさせられていました。主人公がもっと素直になれて
いれば、こんな結末にはならなかったんでしょうね・・・。

 

大崎梢『いつかのみらい』
編集プロダクションで働く晴美のもとに、調査会社の女性がやってきた。
行方不明の七十代の女性の家を親族の依頼で調べていたところ、晴美が
子供の頃に描いた絵が出て来たのだという。晴美はまったく身に覚えが
なかったのだが、話を聞いているうちに、かつて近所に住んでいた
おばさんに絵を渡したかもしれないことを思い出した。そのおばさんが
行方不明の女性なのだろうか――。
おばさんのやったことは犯罪なのかもしれないですが、その人の為を
思ってしたことなのは間違いない訳で、彼女がいい人なのか悪い人
なのかよくわからなくなりました。でも多分、悪い人じゃないですよね。
主人公の絵をずっと大切にしまっておいたのだから。二人の約束が
果たされる日が来るといいな、と思いました。