ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

一木けい「1ミリの後悔もない、はずがない」/加納朋子「いつかの岸辺に跳ねていく」

どもども。こんばんは。ようやく梅雨明けしそうですね。今年の梅雨は本当に
長かったなぁ。日差し不足で庭の薔薇さんたちが病気や虫にやられてしまって、今年は
全然きれいに咲いてくれなかったなぁ・・・。薔薇もめだかも難しいよ、ほんとに・・・。



読了本は二冊ご紹介。


一木けい「1ミリの後悔もない、はずがない」(新潮社)
ずいぶん前に、当時話題になっているようなので予約していた作品。予約していた
こと自体ほぼ忘れかけてた頃にようやく回って来ました(苦笑)。
冒頭の『西国疾走少女』『女による女のためのR-18文学賞を受賞されて、
本書がデビュー一作目になるようです。ネットで検索したところ、椎名林檎
さんが絶賛して話題になったらしい。なるほど、お好きそうな内容かもって
思いました。
巷の絶賛も頷ける文章力と構成力だと思います。『女による~』出身の
作家さんは実力派が多いですね。女性ならではの感性がとてもリアルに
作品に生かされていると思う。賞を受賞した『西国~』なんかも、夕飯に
出すイカを捌くシーンから始まるんですけど、内蔵を引っ張り出したら
魚が入っていたっていう、結構シュールなシーンから始まるんです。主人公も
初めての経験で、そうした初めての経験から、中学二年の初体験を回想する。
で、一通り回想が終わったら、またイカに戻るっていう。イカから初体験に
発想を飛ばすのはなかなか面白いな、と思いましたね。また、その回想の
中二の時の体験がなんとも青臭いというか、青春そのものって感じで、
甘酸っぱくてむずむずしました。このむず痒い感じがとてもリアルというか。
まぁ、私の中二時代にこんな経験は一切なかったですけど・・・。
その冒頭の作品を含めて5作の短編が収録されています。それぞれに
主人公は変わりますが、人間関係はリンクしています。どの作品も、
きちんときれいに物語が閉じているわけではありません。それが微妙に
消化不良でもあり、リアルでもあり。人生ってそういうものかな、とも
思えるし。幸せの中にも不幸があって、どこか満たされない。いい時もあるし、
悪い時もある。そういう日常が上手く描かれているなぁと思いました。
誰だって後悔がない人なんかいない。あの時ああしていれば、と思える
瞬間って、誰にだってあると思う。そういう意味で、冒頭の『西国~』の
主人公、由井の後悔は一番胸に痛かった。最後の一作は由井の娘が語り手
なのだけれど、そこで明かされるある事実を知った由伊は、更に後悔に
打ちのめされることになる。なぜこの年になって知ってしまったのか。
今の由井の状況だったら、知らない方が幸せだったのに。運命の残酷さを
感じました。ただ、この皮肉なラストがあるからこそ、タイトルの意味も深く心に
響いて来るので、上手いなぁと思いました。
由井の想い人だった桐原視点がなかったのは残念。彼は一体彼女のことを
どう思っていたのか。一応その答えが最終話のあの手紙ということなの
だろうけれど。もっと深く彼の内面を掘り下げて欲しかった気もします。
ただ、彼視点がないからこそ、最終話のラストが効いて来るとも云えるので、
それが作者の狙いなんでしょうけどね。
全体的なトーンは暗いですし、読んでいて爽快って話でもないですが、
文章力があるのでぐいぐい読まされました。ひりひりした胸の痛みが心に
迫って来ました。今後の活躍に期待したい作家さんですね。


加納朋子「いつかの岸辺に跳ねていく」(幻冬舎
加納さん最新作。二作の中編から構成されています。前半の『フラット』は、
森野護視点。後半のレリーフは平石徹子視点。二人は幼稚園の頃からの
幼馴染です。護視点では、子供時代からの徹子との様々な体験を綴り、爽やかな
青春物語風。護がとにかく終始いいヤツで、数々のエピソードを読むにつけ、
徹子と上手く行けばいいのになぁと思ってばかりでした。どう考えても護は
徹子のことを好きだとしか思えなかったから。表面上では恋愛感情はないとか
言っているのだけれどね。それだけに、あのラストにはどーん、と落とされて
ショックが大きかった。きっと後半でドンデン返しはある筈だ、とは思ったけれど。
ちょこちょこ徹子の言動に違和感は覚えていたので、後半はそれが明らかになる内容に
なっているんだろうなーと予測はしていましたが、まさかああいう展開だとは。後半は
一気にサスペンス調というか、ある意味ホラーのような作風になって、面食らわされました。
前半と後半では全く別の作品を読んでいるような気分でしたね。
徹子の言動がおかしいのは、何かSF的な要素があるんだろうな、と思ってたんですが、
ああいう能力のせいでしたか。ちょっとそこは予想ハズレ。でも、その能力のせいで、
あそこまで彼女が苦しんでいたとは思わなかったです。あんなに小さな頃から
あんなに重い枷を背負って来たなんて。とにかく、徹子視点の物語は生粋のサイコパス
を相手にしてしまった彼女が心配だったし、相手の言動が怖くて仕方なかったです。
一番大事な友人がなぜ、あんな人間に籠絡されてしまったのか。頭のいい筈の彼女が
なぜ。徹子同様、私も理解出来なかったです。それが恋だと言われてしまえば
それまでなんですが。カタリの言動は異星人のようでした。宮部さんの杉村シリーズ
のモンスターみたい。サイコパスっぷりは、いい勝負じゃないでしょうか。
加納さんから、こういうキャラクターが生み出されるとは意外でした。徹子の
○○相手は、後半の途中から嫌な予感しかしてなかったんですが、その予感が
当たってしまい、ショックでした。いくら親友のためとはいえ、とんでもない
決断をしたものです。彼女が、自らの幸せを放棄するのが悲しかった。終盤ページ数が
少なくなっても流れが変わらなかったから、一体どうやって収拾つけるんだろうと
はらはらしてたんですが、まさかの展開に目が点状態。でも、やっぱり最後は
加納さんらしい終わり方でほっとしました。まさかあの人物がああいう風に活躍
するとは。そして、やっぱり護はいいヤツ!成人式の時に、産まれたばかりの
赤ちゃんを連れてきたヤンキー夫婦を見て、『いいもの見せてもらった』と思える
感性がすごく好きだなと思いましたね。私だったら、若くして子供作るなんて、
子供が子供作るみたいなものだよなぁ、くらいの感想しか抱かないと思う。
責任感のない子供が子供作っちゃった、みたいな?マイナスよりの感情。そこで
プラスの感情が持てる護が羨ましいし、素敵だな、と思いました。ほんと、
真っ直ぐでバカ正直で温かい人だよね。護には幸せになってほしい、と思って
いたから、あのラストは嬉しかった。
最後の最後まで、徹子が幸せだったとわかってほっとしました。人のために
一生懸命尽くして来た女性だから、絶対幸せになる権利があると思っていたので。
プロローグとのつながりも素敵でしたね。
カタリが出て来たシーンだけは最悪の気分で読みましたけど、最後は
優しい気持ちで読み終えられてよかったです。やっぱり加納さんの作品が
大好きだなぁ。もっともっと読みたいよ。