引きこもり探偵3部作でブレイクした坂木司さんの「切れない糸」。
急逝した父親の代わりにクリーニング屋を継いだ新井和也。嫌々ながらも、昔から
勤めてくれている従業員たちと一緒に日々の仕事をこなしていた。そんな中、
お得意さんから 不可解な洗濯物を預かるのだが・・・。商店街で起こるささいな
事件を和也とその友人・沢田が解決する連作短編集。
坂木さんお得意の死体の出て来ない日常の謎系ミステリ。舞台は昔ながらの商店街。
なんとなく古き良き時代の空気を感じる作品です。ぶっそうな世の中で、他人と
係わり合いになりたくないなぁと感じる昨今、このような人と人との繋がりを
大切にするような作品に出会うとちょっとほっとします。クリーニング店が舞台な
だけに、クリーニングに関する薀蓄も満載。文句言いながらも、ちゃんと勉強して
必死に父親の仕事を全うしようとする主人公に好感が持てるのです。坂木さんの
作品には全て言えるのだけれど、登場人物を使い捨てにしない姿勢がすごく好きです。
脇役でも、一度関わりを持った人物は次にもちゃんと出て来て、物語が繋がって行く。
まさしく、表題の「切れない糸」のように、決して太くはないけれど、途切れる
ことなく少しづつ人間関係が紡がれて行く。1冊読み終える頃には、クリーニング店
を中心に、人の輪が出来上がっているという構図です。
読んだ後ほんわかした気持ちになれる、心温まる一冊。連続猟奇殺人事件もの
なんかを読んだ後にはいいかもしれません。