ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介/「向日葵の咲かない夏」/新潮社刊

ホラーサスペンス大賞特別賞でデビューした道尾秀介さんの「向日葵の咲かない夏」。

小学4年生の夏。終業式の日、ミチオが担任に頼まれて学校を休んだS君の家にプリント類を届けに
行くと、S君が首を吊って死んでいた。学校に戻り、担任や警察を呼んで再びS君の家に行くと、
S君の死体は何故か消えていた。混乱したミチオが家に帰り部屋に入ると、死んだS君が姿を
変えて目の前にいた。
ミチオはS君から「僕の死体を見つけて」と頼まれるのだが・・・。


途中いくつか気になる描写があって、「これでいいのかな?」と思いながら読んでいたのですが、
ラストまで読んでほぼ全てがすっきりしました(一部気になる部分がない訳ではないですが)。
とてもよく出来ている作品だと思います。小学生が主人公なので、雰囲気はちょっと長めの
ミステリランドを読んでいる感じでした。「背の眼」での冗長さは多少軽減されてはいる
ようですが、それでも内容からするとやっぱりちょっと長いかな、という印象は受けました。

ただし、それを払拭するかのような全体的に漂うそこはかとない狂気、ぞくぞくするような
ホラーテイストの描写はとても魅力的でした。デビュー作で、あの綾辻さんが絶賛したというのも
納得できます。ところどころに仕掛けられた伏線も見事。一部を切り取ってみると
ファンタジー的要素も強いのですが、やはり一言で言うとホラーに分類されるのでしょうね。
それぞれの登場人物から漂う狂気が、物語自体の不気味な雰囲気を決定づけていて、
なんとも言えない怖さを感じました。

それだけに、ラストだけはちょっと物足りない。あの3ページは、なくても良かったのでは・・・。
ホラーだったら、ラストまでホラーテイストで余韻を残すような作品の方が良かった。
それまでモノクロ画面のような暗さだったのが、最後だけいきなりフルカラーになって、
興ざめしちゃうような感じ。
別にそんなにホラーが好きな訳ではないのですけど。この作品に関して言えば、せっかくの
雰囲気を壊しているような気がしたので。

それでも、道尾さんのホラー作家としてのセンスが光る1作だと思います。今後の活躍に期待します。