ミステリ読書録

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北村薫/「冬のオペラ」/中央公論社刊

北村薫さんの「冬のオペラ」。

姫宮あゆみは、叔父さんの経営する姫宮不動産で事務職をしている。ある日、同じ姫宮ビルの一つ上の
階に‘名探偵’が開業した。案内板によると、「人知を越えた難事件を即解決」するらしい。しかし、一向に依頼人らしきものがやってくる気配を見せない。しかも、あゆみは意外な場所で度々この名探偵の姿を見かけるのだ。不思議に思ったあゆみは、意を決して探偵事務所を訪ねてみるのだが。
名探偵・巫弓彦の3つの事件を描く。

まず、名探偵といわれるだけあり、話を聞いただけで一瞬にして事件を解いてしまうという、名探偵っぷりは読んでいて気持ちよかったです。でも、名探偵なのに、生活していく為に必死でバイトをしている姿を思い浮かべると、そのギャップが可笑しくも微笑ましかった。それでも、生活する為につまらない事件を受けることはしない。あくまで巫弓彦が扱う事件は「難事件」でなければならないのです。その辺のこだわりが、やっぱり名探偵にふさわしいのでしょう。史上最も名探偵らしくもあり、名探偵らしくない探偵と言えるのではないでしょうか。設定の面白さが生きている作品ですね。

特に表題作「冬のオペラ」は面白かった。これは3つの事件のうち唯一殺人事件で、密室・ダイイングメッセージも出てくる本格もの。トリックの解明も鮮やかで読み応えがありました。
しかし、私は仏文出身なのに、ダイイングメッセージの謎が全く解けなかったのが悲しい・・・。
説明を読んで「なるほど~」と思いました。題名にもそれは表れていたのに、気付けませんでしたねー。
文中に出てくるマルセル・プルーストに関する講義は、私も是非聞いてみたいものでした。
プルーストの文章は常人では考えられない程計算された文章なので、その説明を聞いてるだけでも、素人のあゆみは面白かったのでしょう。

それにしても、シリーズキャラクターにしても良さそうな作品なのに、これ以降作品が出ていないの
ですね。あまり人気がなかったのでしょうか。巫氏のキャラクターが、他のシリーズキャラよりも
地味だからでしょうか。
私は、アルバイト店員であり名探偵でもあるという、二束のわらじを履いた名探偵の設定は面白いと思うのですけど、ね。