ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有栖川有栖「濱地健三郎の幽たる事件簿」(角川書店)

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心霊探偵(八雲じゃないよ)濱地健三郎シリーズ第二弾。一作目ってどんなのだっけ、

と全然覚えてなかったんだけど、有栖川さんだから即予約。すぐに回って来たのだ

けれど、実はその時は予約本ラッシュの時で、期限内に読めずに泣く泣く返す羽目に。

予約が落ち着いて、普通に開架に並んでいたので、ようやくリベンジが叶いました。

一作目の記事を読み返してみて、かなり辛辣な評価をしていて自分でもちょっと

びっくりしました。まぁ、言わんとしていることはわからないでもないのだけど。

二作目の本書は、一作目の時よりもずっと面白く読めました。濱地探偵と助手の

ユリエのキャラも、一作目ではあまり良い印象がなかったのだけど、今回はかなり

好印象に転換。二人の師弟関係が良いですね。そこに恋愛感情が入っていないところは

少し残念な気もしなくはないのですが、年の差あるしね(といっても、濱地探偵

の年齢は不詳で、見た目が30代から50代という幅のあるものなので、実際に

どれくらいの年の差があるのかはわかりませんが)。それに、ユリエにはきちんと

お付き合いしているお似合いの彼氏もいますしね(友達以上恋人未満らしいけど)。

七作が収録されていますが、それぞれに味わいがあってよかったです。個人的に

印象深かったのは、『饒舌な依頼人』『お家がだんだん遠くなる』『ミステリー

研究会の幽霊』辺りかな。

『饒舌~』は、べらべらとしゃべりまくる依頼人の正体に、二重にびっくりさせられ

ました。名前を聞かれた時に一瞬躊躇した理由にも、正体を知って納得。

『お家が~』は、依頼人の夢に出て来る家を探すくだりが、タイムリミットがある

だけに緊迫感があって読み応えありました。『世にも奇妙な物語』とかで映像化

しても良さそう。

『ミステリー研究会~』は、高校のミス研で起きる怪異が題材ってだけで、もう

楽しい。ラスト、怪異に対する濱地探偵の解決法がいいですね。なんか、ほっこり

しました。

ユリエが、濱地探偵の助手として、かなり成長しているところが良かったです。

濱地探偵の霊能力に感化されて、自身も霊感が少し強くなったりしているし。助手

としての自覚も前作より出て来た感じがしましたし。ラストの一作で、二人の師弟

関係がより強固になったようにも思いました。

著者あとがきで、二人の冒険はまだまだ続くとおっしゃっているので、第三弾も

楽しみにしていたいです。

七月隆文「ケーキ王子の名推理5」(新潮文庫nex)

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シリーズ第五弾。前作の最後でようやく想いが通じ合った二人。付き合い始めの

二人のその後が描かれます。

せっかく両想いになった割に、全然ラブラブな雰囲気がないのでちょっと拍子抜け。

まぁ、相手が無愛想でスイーツバカの颯人だから仕方がない。一応カップルロードを

手をつないで歩いて、話題騒然となったりはするのだけど。未羽もそんな颯人の

態度に不安を感じてもやもやしっぱなし。なかなか噛み合わない二人ですが、

最後の最後に胸キュンエピソードが・・・!!なんだかんだで颯人も未羽のこと

大好きなんだなーっていうのがわかってキュンキュンしました。合間にちょこちょこ

ミステリ要素も挟まってますけど、まぁそっちはつけたしみたいなものですかねー

(←オイ)。カロリーヌの新店で起きた煙事件の真相は、完全に科学でしたね。

料理は科学とはいうけれど。こういう方法で煙を出すことが出来るとは驚きでした。

漣が好きなあまりに、天の邪鬼な言動を繰り返す葵に関しては、最初は未羽に

対する横柄な態度にイラっとしましたが、その根底にあるのが全部嫉妬であるのは

明らかなので、だんだん可愛らしく思えるようになりました。わかりやすすぎて

笑えてくるくらい。今どき、ここまでツンデレ全開の女の子がいるんだろうかと

思っちゃいました。

それにしても、初デートで未羽の家族と一緒に野球観戦ってのはどうなんだ。

颯人が気の毒になりました。家族との野球観戦の前に、二人で横浜見物は

したものの・・・。その辺りの鈍感さが未羽の持ち味とも云えるのかもしれませんが。

まぁ、颯人は楽しんでたみたいだからいいのかな。未羽の家族は楽しい人ばかり

だしね。

今回颯人父が初登場しましたが、なかなかいいキャラですね。未羽とも気が合う

みたいだし。こうなると、離婚した颯人母のキャラクターも気になるところです。

 

このシリーズは小説よりはマンガの方が合ってそうですよねぇ。漫画化の話とか

ないのかな。

最後にラブラブな二人が見れましたが、次巻ではもっと胸キュンエピソード満載で

お願いします。

太田忠司「遺品博物館」(東京創元社)

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久々太田さん。依頼人の死後、その人の遺品をひとつだけ収蔵する博物館、遺品

博物館。そこで学芸員を勤める吉田は、依頼人の死後、遺族の元に赴いて遺品の

選定を行う。選定の基準は、生前のその人物の人生に関わる重要な物語を持って

いる物を選ぶこと――死者の遺品を巡る、八つの物語集。

なかなかおもしろかったです。亡くなった個人が生前に依頼していた遺品博物館への

遺贈品を巡って、生前の故人と遺族の悲喜こもごもが描かれます。さらっと読めちゃう

ので、忘れるのも早そうですけど・・・^^;遺品博物館の学芸員の吉田のキャラが

飄々としていていいですね。何考えてるのかさっぱりわかりませんけど。遺品の

選定を行う為に、依頼人の遺族の元にやって来るのだけれど、選定している間は

一切個人的な感情を見せない。あくまでも淡々と遺品を選定して去って行く。ただ、

どの遺品に故人の物語があるのか、それを選ぶ選定眼は非常にクレバーで、さながら

名探偵のよう。吉田さんの慧眼には度々驚かされました。遺品の価値は値段ではなく、

その人の人生における物語が感じられるもの、というのもいいですね。依頼時に、

吉田が本人から詳細な聞き取り調査を行っていて、更に死後、遺族からも生前の故人の

ことを聞くことで、どの遺品を選ぶべきか選定します。どの遺品にもその人の物語が

詰まっていて、確かに選ばれるべきものだな、と思えました。でも、いざ自分が

依頼するとなったら、吉田さんは一体何を選ぶのかなぁと考えると・・・うーん、

全然わからない。私を表す物語が反映されているモノって何だろう・・・。図書館の

利用カードとか?(笑)結婚指輪とかは当たり前だしなぁ。特にこれといった物語も

ないから、きっと吉田さん悩むだろうな(笑)。

オチは切なかったり、皮肉だったりとさまざま。

遺族は必ずしも故人を偲ぶ人ばかりではないけど(遺品目当てに群がるハイエナの

ような奴らもいたし)、吉田さんが選ぶ遺品が、故人と遺族を結ぶものなのは確か

だと思いました。

遺品博物館に遺品が遺贈されることで、その人の思い出(物語)がずっとその場所に

残り続けるのは、ある意味うらやましいことなのかもしれないなぁと思いました。

遺品を見れば、その人の思い出ごと思い出してもらえるってことですもんね。って、

展示されてるところに、その品に纏わる物語の解説とかが書かれているのかどうかは

よくわからないですけど・・・。

遺品博物館自体がどこにあるのかとか、吉田さんのフルネーム、吉田・T・吉夫の

Tが何の略なのかとか、謎は残されたまま。続編が出る可能性はあるのかなぁ。

ラスト一作でTの謎は解けるかと思ったんんだけど・・・結局謎のまま。ラストの

話の仕掛けには途中で気づけたのだけどね。Tの謎まではわからなかった(笑)。

気になるので、いつか続編書いて欲しいな。

加納朋子「二百十番館にようこそ」(文藝春秋)

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大好きな加納さんの最新作。ニートでネットゲームおたくの俺は、ある日突然

離島にある、亡き伯父から相続した館に住む羽目に。要するに、両親は体よく

ニートの息子を厄介払いしたかったらしい。父親からもらったなけなしの軍資金

50万を手に、ひとり広い館で生活し始めるが、外食やゲーム課金で目に見えて

資金は目減りして行く。どうにかして生活費を稼ぎたい俺は、広い館をニート

限定のシェアハウスとして使う手を考えつく。基本人見知りの俺だけど、ニート

同士だったらギリ話が合うかもしれないと考えたからだ。募集を始めて、すぐに

母親に連れられてヒロという重度のコミュ障青年がやってきた。紆余曲折あって、

ヒロとは上手くやっていけそうだと思い始めた頃、元医者ニートのBJさんも加わる

ことに。医者がいない島に貴重な医者が来てくれたと喜んだのも束の間、BJさん

には医者を辞めたきっかけとなる、苦い経験があることを知り――。ゲームの世界

にしか生きて来なかった青年たちが、島民が老人ばかりの島で、ニート仲間と

リアルな島生活を送って行くうちに、人間として成長して行く青春小説。

ニートだけのシェアハウス、というのが面白い着眼点でしたねー。しかも離島に

ぽつんと建つ館が舞台。殺人事件でも起きそうな設定ですが、そこは加納さん。

終始ほんわかのんびりした空気感で物語が進みます。まぁ、出て来るのがニート

ネトゲおたくばっかなんで、やたらにゲーム世界の描写が出て来たりはします

けど。個人的に、ネットゲームだけじゃなく、ゲーム自体をほとんどやらない人間

なんで、そこまで彼らがゲームにハマる気持ちはさっぱり共感出来ず、ゲーム描写を

読むのもちょっと苦痛だった。ゲームに何時間も取られるくらいなら、その時間

本読みたい人間なんで。

多分、ゲームにハマる人は、逆に本なんか読む暇あったらゲームしたいってこと

なんですよね。別にそこを否定するつもりは毛頭ないですし、そうやって没頭出来る

ことがあるのも悪いことじゃないと思ってます。趣味嗜好は人それぞれってことで。

ただ、ゲーム三昧で親のスネをかじって、廃人みたいになるってのはダメだと思う。

そりゃ、親からしたら、なんとかしたいと思って当然だし、放り出したくなるのも

頷けるってもんです。なんの前触れもなく、いきなり放り出すのはどうかと思い

ましたけど・・・^^;でも、人間、やらなきゃいけない状況に放り出されると、

それなりにやっていけるものなんだなぁというのがよくわかります。今まで社会から

爪弾きにされて来た主人公(ハンドルネームは刹那)だけど、島にやって来たら、

頼れる若者になっちゃうんですから。なんせ、島民はほとんどがじいちゃん

ばあちゃんで、一番若くても五十代。この島民と刹那たちシェアハウスの住民

たちとの触れ合いがとても良かったです。シェアハウスの住民たちは、みんな

基本的にはいい奴ばかりだから、島民たちが困っていたら手を貸してあげるし、島民

たちから施されたものはありがたく受け取る素直さもある。それぞれにイラっと

させられる面もあるけれど、根は真面目で優しい人たちだから、それぞれに好感

持てました。まぁ、実際のニートがこんなに真面目でいい人間ばかりだとも思え

ないのだけどね・・・。

全体的にご都合主義的な展開が多かったけど(島に医者が欲しいと思ったら医者

ニートがやって来たり、郵便局長の仕事が都合良く舞い込んだり、その就職の

ために最低限必要な三百万がタイミング良く手に入ったり)、そのご都合主義的な

展開がかえって、すごく気持ち良く受け入れられるタイプの作品でした。コミュ障

ニートが、少しづつリアルの世界で自分のいる場所を切り開いて行くところが

爽やかに描かれていて、良かったです。

ミステリ要素はないのかなーと残念に思っていたら、終盤畳み掛けるようにいろんな

仕掛けが明らかに。ヒロの恋愛相手タピオカさんの真相とか、ネットゲーム仲間の

ラクダさんの正体とか。そうかー、そういうことだったのかー!って感じでした。

そういえば、タイトルの二百十番館の意味を知った時も、なるほど!って膝を

叩きたくなりましたっけ。気づく人は一発で気づくと思うけど(笑)。

刹那の愛猫、チャットの存在も愛らしくて良かったです。できれば、もうちょっと

活躍の場を作ってあげて欲しかったような。

島民のじいちゃんばあちゃんもみんな、素敵なキャラばっかりでしたね。その

島民を慕って交流するニートたちとの関係がとっても良かった。刹那たちニート

がやって来たことで、この島は確実に若返りましたよね。平均年齢だけの話じゃ

なくって、島に活気が戻ったという意味で。ラストでは、しっかり観光地として

確立して行きそうな展開だし。こうやって、刹那たちの生きられる場所が出来て

良かったです。ニートの子どもに手を焼いている親は、荒療治だけども、

こうして一度徹底的に突き放すのもいいのかもしれないな、と思いました。

 

心霊探偵八雲12 魂の深淵」(角川書店)

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長年追いかけて来た八雲シリーズ、ついに完結です。一巻が発売されてから15年

以上も経っているんですね。途中さっぱり続きが出ない期間があって、一体八雲

シリーズはどうなってしまったんだろう、と心配することもありましたが、きちんと

最後まで完走して下さって良かったです。

前作の終わりがあまりにも衝撃的だったので、一体どうなってしまうんだろう、と

戦々恐々としながら読みました。特に、八雲が心配で。そして、心配はその通りに

なってしまった。晴香ちゃんの存在が、どれだけ八雲にとって大事だったのかを

痛感させられました。もちろん、晴香ちゃんは八雲だけじゃなく、後藤さんや

石井刑事や真琴さんや奈緒ちゃんにとっても、春風のように優しく温かい存在

だった訳で。みんなそれぞれに晴香ちゃんを大事に思っているのが伝わって来ました。

でも、自暴自棄になった八雲はひとり暴走。一体どうなっちゃうの!?と最後まで

ドキドキしながらページをめくりました。七瀬美雪金田一君の幼馴染じゃない方

ねw)との最終対決のシーンはほんとにハラハラしたなぁ。今までどれだけ読者を

恐怖のどん底に突き落としてきたかわからない彼女ですが、なぜ彼女があんな

モンスターに育ってしまったのか、その過去が明らかになります。まぁ、確かに

可哀想な身の上ではあるけれど、だとしてもあんな悪魔みたいな所業の数々を

許せる訳はないでしょう。それでも、最後に少しだけ、八雲のおかげで人間の心を

取り戻せたことは良かったです。八雲は散々な目に遭わされましたけどね。

晴香ちゃんのことは、最後のページをめくるまで希望を捨てずに読みました。

自暴自棄になった八雲の前にあの姿で現れた時は、さすがにもうダメかと思い

ましたが・・・。

神永さんを信じて読み続けて良かったです。素直になった八雲が今後どういう

態度になるのか、気になって仕方がありません(笑)。

八雲は、今回のことで自分にとって一番大事なものが何なのかよくわかっただろうし、今後はもう少し他人に素直になれるんじゃないかなぁ。憎まれ口ばかり叩いていた

後藤さんに対してもね。命の恩人だしね。

相変わらず、石井さんは後藤さんに叩かれてばかりで可哀想だったな。現実に

こういう人いたら、完全にパワハラとか暴力とかで訴えられてるんでは・・・。

石井さんはマゾ体質だから問題にならないんだろうけど。何せ、もともと後藤さん

LOVEな人だから、大好きな後藤さんになら何やられてもOK、みたいな(笑)。

あとがきで今後の八雲シリーズについて、嬉しい言及がありました。京極先生に

言われたら、そりゃー、もう書くしかないと思いますよー!その日が少しでも

早く来るよう、祈りたいと思います。

 

森見登美彦(原案:上田誠)「四畳半タイムマシンブルース」(角川書店)

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モリミー最新刊。著作四畳半神話大系と映画サマータイムマシン・ブルース

のオリジナルコラボ小説。

映画の方の『サマータイム~』は観ていませんが、なかなか面白かったです。

久しぶりに『四畳半~』の大学生たちのわちゃわちゃした感じを思い出して、

懐かしかったし楽しかった。やっぱり、モリミーの真髄は四畳半の中にあります

よね。

いろいろとツッコミ所は満載なのだけれど、こういう世界観なんだ、悪いか!

みたいな、突っ走った感じがモリミーらしくて良かった。『サマータイム~』の

ストーリーも、多分ばかばかしくて笑える感じなんだろうな~っていうのも

伝わって来ましたし。『四畳半~』に出て来た懐かしのキャラたちとの再会も

嬉しかったです。久しぶりにもちぐまとも会えたしね!明石さんが持ってる

もちぐまって、そんなにいろんな色があったんだ、とそこに一番びっくりしたかも。

私のイメージは白だったんだけど、どこで間違ったんだろう・・・??(表紙が

白いくまっぽかったからだと思うけど・・・あれは灰色だったのか?)

灼熱の京都の夏を乗り切るために、タイムマシーンに乗って一日前に戻って、

壊れる前のクーラー(エアコンではないところがポイントよね)のリモコンを

持って来ることを考えついた大学生たちのお話。ただそれだけのお話ではあるの

だけど、彼らの行く手には様々な困難が待ち構えているという。たった二日間

の出来事なんですが、タイムマシーンのおかげで最後はかなり壮大な物語に

なってます。まさか99年前の河童伝説の真相までもが暴かれるとは。コーラに

壊されたリモコンの発端がそんなところにあるとも思わなかったし。辻褄が

合っているような、いないような。タイムトラベルものはいろいろと頭がこんがら

がっちゃうところがあって基本的にはあんまり好きじゃないんだけど、これは

タイムパラドックスとかそいういう面倒な設定とかあまり深く考えずに、阿呆な

学生たちのわちゃわちゃをただ愉しめばいいって話じゃないかなぁ(え、違う?w)。

タイムマシーンを四畳半に持ち込んだ張本人、25年先の未来から来た田村の正体

には驚かされました。なるほど、なるほど、むふふふふ(怖)。田村がもっさりして

いる理由もこれで腑に落ちましたよ。母親に似たらそうはならないでしょう。

父親の影響ですよね、当然。彼の両親の恋が成就する過程の、うれしはずかしな

あれこれ、私はそれが一番読みたかったよ!

初期のモリミー作品がお好きな方なら、間違いなく楽しめる一作じゃないですかね。

 

 

三沢ケイ「これより良い物件はございません! 東京広尾・イルマディール不動産の営業日誌」(宝島社文庫)

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はじめましての作家さん。特に何の予備知識もなかったのですけど、タイトル見て

面白そうだったので予約してみました。不動産ものって結構好きなんですよね。

新築物件とか見るの大好きですし。別に買わなくても、チラシとかの間取り見てる

だけでも楽しい。

本書は、失恋して仕事を辞めた藤堂美雪が、たまたま訪れた広尾の不動産屋で

社員として働くことになり、優しく仕事の出来る同僚や、様々なお客様と触れ合う

うちに成長して行くお仕事小説。

さくさく気軽に読めてよかったのですが、不動産小説としてはちょっと食い足り

なかったかなぁ。とにかく、いろんなことが都合良く上手く行き過ぎ。失業中の

美雪がたまたま広尾を訪れたら、不動産屋さんで仕事が見つかって、同僚が

みんな親切でいい人で(まぁ、これは普通にあり得るかもしれないですけど)、

宅建の試験に数ヶ月の勉強で一発合格し、最後はイケメンで超仕事が出来る

先輩社員との恋が成就。普通だったら慣れない仕事で四苦八苦して、いろんな

壁にぶち当たって、それを乗り越えて成長するものだと思うんだけど・・・そういう

要素はほぼゼロ。試練らしい試練といえば、少々嫌な顧客が出て来るくらい。

一番最初に前の不動産会社でめちゃくちゃ嫌な目に遭ってるから、新しい生活では

いいこと尽くしにしてあげたのかもしれませんが。ま、その方が読む側も楽しい

しね。ただ、少なくとも、宅建って付け焼き刃でちょこっと数ヶ月勉強したくらい

で、一発合格出来るものじゃないと思うんだよね。いくら美雪が前の会社も不動産

関係だったからって。もともとすごく頭の良い子で、ものすごーく効率的に

勉強したのかもしれないけど・・・。

あまり考えずにさらっと読むべき作品なんだろうなぁとは思いますけど。この

作品自体、ネット小説大賞という賞を受賞した作品だそうで。なんか、納得。

全体的に、もう一歩づつ踏み込みが足りないって感じなんだよね。軽いというか。

でも、ネット小説だったら、これくらいが丁度いいのかも。文庫だしね。深みは

ないけど、読んでて不快にもならないし、コロナで鬱屈した状態だったら、

こういうさらっと読める作品の方が世の中のニーズにはあっているのかも。

ラストも爽やかでしたし。美雪と営業のエース桜木の恋愛は、距離的にも相当

離れた遠恋になってしまったのでこれから大変だと思うけど、離れていても

お互いを想い合って続いて行くといいなーと思いました。