大好きな加納さんの最新作。ニートでネットゲームおたくの俺は、ある日突然
離島にある、亡き伯父から相続した館に住む羽目に。要するに、両親は体よく
ニートの息子を厄介払いしたかったらしい。父親からもらったなけなしの軍資金
50万を手に、ひとり広い館で生活し始めるが、外食やゲーム課金で目に見えて
資金は目減りして行く。どうにかして生活費を稼ぎたい俺は、広い館をニート
限定のシェアハウスとして使う手を考えつく。基本人見知りの俺だけど、ニート
同士だったらギリ話が合うかもしれないと考えたからだ。募集を始めて、すぐに
母親に連れられてヒロという重度のコミュ障青年がやってきた。紆余曲折あって、
ヒロとは上手くやっていけそうだと思い始めた頃、元医者ニートのBJさんも加わる
ことに。医者がいない島に貴重な医者が来てくれたと喜んだのも束の間、BJさん
には医者を辞めたきっかけとなる、苦い経験があることを知り――。ゲームの世界
にしか生きて来なかった青年たちが、島民が老人ばかりの島で、ニート仲間と
リアルな島生活を送って行くうちに、人間として成長して行く青春小説。
ニートだけのシェアハウス、というのが面白い着眼点でしたねー。しかも離島に
ぽつんと建つ館が舞台。殺人事件でも起きそうな設定ですが、そこは加納さん。
終始ほんわかのんびりした空気感で物語が進みます。まぁ、出て来るのがニート
でネトゲおたくばっかなんで、やたらにゲーム世界の描写が出て来たりはします
けど。個人的に、ネットゲームだけじゃなく、ゲーム自体をほとんどやらない人間
なんで、そこまで彼らがゲームにハマる気持ちはさっぱり共感出来ず、ゲーム描写を
読むのもちょっと苦痛だった。ゲームに何時間も取られるくらいなら、その時間
本読みたい人間なんで。
多分、ゲームにハマる人は、逆に本なんか読む暇あったらゲームしたいってこと
なんですよね。別にそこを否定するつもりは毛頭ないですし、そうやって没頭出来る
ことがあるのも悪いことじゃないと思ってます。趣味嗜好は人それぞれってことで。
ただ、ゲーム三昧で親のスネをかじって、廃人みたいになるってのはダメだと思う。
そりゃ、親からしたら、なんとかしたいと思って当然だし、放り出したくなるのも
頷けるってもんです。なんの前触れもなく、いきなり放り出すのはどうかと思い
ましたけど・・・^^;でも、人間、やらなきゃいけない状況に放り出されると、
それなりにやっていけるものなんだなぁというのがよくわかります。今まで社会から
爪弾きにされて来た主人公(ハンドルネームは刹那)だけど、島にやって来たら、
頼れる若者になっちゃうんですから。なんせ、島民はほとんどがじいちゃん
ばあちゃんで、一番若くても五十代。この島民と刹那たちシェアハウスの住民
たちとの触れ合いがとても良かったです。シェアハウスの住民たちは、みんな
基本的にはいい奴ばかりだから、島民たちが困っていたら手を貸してあげるし、島民
たちから施されたものはありがたく受け取る素直さもある。それぞれにイラっと
させられる面もあるけれど、根は真面目で優しい人たちだから、それぞれに好感
持てました。まぁ、実際のニートがこんなに真面目でいい人間ばかりだとも思え
ないのだけどね・・・。
全体的にご都合主義的な展開が多かったけど(島に医者が欲しいと思ったら医者
ニートがやって来たり、郵便局長の仕事が都合良く舞い込んだり、その就職の
ために最低限必要な三百万がタイミング良く手に入ったり)、そのご都合主義的な
展開がかえって、すごく気持ち良く受け入れられるタイプの作品でした。コミュ障
ニートが、少しづつリアルの世界で自分のいる場所を切り開いて行くところが
爽やかに描かれていて、良かったです。
ミステリ要素はないのかなーと残念に思っていたら、終盤畳み掛けるようにいろんな
仕掛けが明らかに。ヒロの恋愛相手タピオカさんの真相とか、ネットゲーム仲間の
ラクダさんの正体とか。そうかー、そういうことだったのかー!って感じでした。
そういえば、タイトルの二百十番館の意味を知った時も、なるほど!って膝を
叩きたくなりましたっけ。気づく人は一発で気づくと思うけど(笑)。
刹那の愛猫、チャットの存在も愛らしくて良かったです。できれば、もうちょっと
活躍の場を作ってあげて欲しかったような。
島民のじいちゃんばあちゃんもみんな、素敵なキャラばっかりでしたね。その
島民を慕って交流するニートたちとの関係がとっても良かった。刹那たちニート
がやって来たことで、この島は確実に若返りましたよね。平均年齢だけの話じゃ
なくって、島に活気が戻ったという意味で。ラストでは、しっかり観光地として
確立して行きそうな展開だし。こうやって、刹那たちの生きられる場所が出来て
良かったです。ニートの子どもに手を焼いている親は、荒療治だけども、
こうして一度徹底的に突き放すのもいいのかもしれないな、と思いました。