ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

芦沢央「僕の神さま」(角川書店)

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読んだり読まなかったりの芦沢さん。これはなんとなく食指が動いたので、

借りてみました。主人公が小学生だから、ジュヴナイルと云ってもいい作品です。

タイトルといい、キャラクターといい、麻耶雄嵩氏の神様シリーズを彷彿とさせる

作品でしたね。こちらも小学生が主人公にしては、かなりブラックよりですし。

ただ、麻耶さんほど突き抜けた黒さではないですけど。あれはもう、読んだあと

しばらく引きずるくらい後味が悪かったですからね・・・。

主人公はクラスの中でも地味めな少年、僕。僕のクラスには、困ったことが

起きると何でも解決してくれる『神さま』の水谷くんがいる。ある日、僕は

亡くなったおばあさんが亡くなる前、最後に作った桜の塩漬けが入った瓶を落として、中身をぶちまけてしまう。おじいさんが春になると桜茶にして飲むのを楽しみに

しているのに。もうおばあさんはいないのに。困った僕は、頼りになる『神さま』

の、水谷くんに相談する。すると、正直に事実を告げて謝るか、買うか、おばあさんと桜の塩漬けを作った経験のある僕が、もう一度作る、の3つの選択肢を提示

してきた。僕は三番目の作るを選択した。桜の季節には少し早い気もしたが、

いつもおばあちゃんが桜の花びらをもらっていたお寺に行ってみると、一本だけ

満開の桜があり、そこから花びらを摘むことができた。家に帰って無事塩漬けを

作ることができたが、そのお茶を飲んだおじいさんに異変が起きてしまい――。

 

一話目を読んでいる時、どうもこのお話読んだ記憶があるなぁと思って、後ろの

初掲載のページを確認してみると、案の定、以前アンソロジーで読んだ作品でした。

短編として読んだ時は心温まるお話だなぁと思っていたのだけれど・・・その後で

ああいうお話に展開していくとは。帯の『一話目でやめれば良かった』と後悔

するほどじゃなかったけど、二話目の川上さんに関する二つの相談事から、物語は

一気にブラックな方向に進んで行くことになります。終盤、水谷くんの『殺していいよ』の言葉から、急に水谷くんという少年の得体の知れなさに冷水を浴びせられた

ような気持ちになりました。この少年は一体どんな本性を持っているのだろう、と

空恐ろしくなりました。その得体のしれなさが三話以降へとつながって行きます。

三話はまだ騎馬戦の戦術くらいでほのぼのしているけれど、ラスト一行で川上さん

に関する衝撃の事実を知ることになり、一気に突き落とされた気分に。そして、

川上さんに関する真実が明らかになる四話~エピローグへ。その前に、同じクラス

の黒岩くんが『呪いの本』にまつわる謎を水谷くんに持ちかけるのですが、

この呪いの本に関しても、途中で衝撃の事実が明らかになります。まぁ、ここの

仕掛けに関しては、ミステリ読みなら気づく人も多いかもしれませんが。

エピローグで川上さんに纏わる謎の伏線もほぼすべて回収されます。最悪の事態

ではなかったことにほっとしましたが、水谷くんと僕の関係が崩れてしまったのは

残念だったな。ホームズとワトソンのいい関係だと思っていたのにね。水谷くんは

どこまでもブレない少年だった。正しい道をゆこうとするが故に孤独になってしまう

辺り、どこまでも名探偵らしい子だなぁと思いました。彼がもう少し大人に

なったバージョンも読んでみたいなぁ。きっといくつになっても、彼は誰かの

神さまのままなんじゃないかな。大人になったら本当の名探偵になるのかも

しれないな。

麻耶さんのシリーズほどの強烈なインパクトはないけど、連作短編集としてしっかり

まとまっていて、良く出来ているなぁと思いました。面白かったです。

 

 

一木けい「全部ゆるせたらいいのに」(新潮社)

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『1ミリの後悔もない、はずがない』から結構気になっている作家さん。新刊が

出たので借りてみました。

今回は、アルコール依存症がテーマ。主人公の千映は、アルコール中毒の父親に

小さい頃から酷い目に遭わされて来ている為、夫が毎晩飲んで帰って来ることに

腹を立てている。しかも、夫は飲みに行くことを一言も伝えずに行く。何度

約束してもメールの一行さえ送って来ない。そして、記憶をなくすくらいべろべろ

に酔って、深夜に帰宅する。家には、幼い赤ん坊の恵もいるというのに。何度も

酒で失敗を繰り返す夫は、アルコール依存症ではないのか。父親に対する無数の苦い

思い出から危機感を覚えた千映は、夫の行動からアルコール依存症テスト(KAST)

を試みるのだが――。

なかなかに重い話でしたね。一話目では、千映の夫・宇太郎の言動にイライラムカムカ

しっぱなし。私も何度か相方が飲みに行って、メールもせずに遅く帰って来た時に

激怒した覚えがありますけど、あれは本当に腹が立ちます。別に飲み会自体は付き合い

だから仕方ないと思うけど、遅くなるならなるでメールくらいしろよ!って思い

ますもん。どっかで野垂れ死んでるんじゃないかと心配になるし。最近はコロナで

飲み会自体が全くなくなってしまっているので、そういう思いもしないで済んで

いますが(苦笑)。

でも、宇太郎は宇太郎でいろいろストレス抱えて大変ってこともその後でわかって

来るので、怒りの矛先は次第に千映の父親に移って行きました。この父親の言動は、

宇太郎よりも遥かに酷い。宇太郎はアルコール依存症予備軍くらいだけど、父親の

方は完全に依存症ですからね。こうなるともう、周りどころか自分でもどうにも

ならない。完全に病気。父親は本当は千映を可愛がりたいのに、千映のちょっと

した言動が気に障って、暴言を吐いたり暴力を振るったりしてしまう。そうした

DVのシーンを読むのは非常に辛かったし、しんどかったです。千映を育てる為に

やりたくもない仕事に就く羽目になったことから、父親の歯車が少しづつ狂って

しまう。仕事のストレスを酒で紛らわそうとして、どんどん深みにはまって、

挙げ句アルコールだけが心の拠り所になってしまった。

その過程や父親の内面も描かれているだけに、アルコール以外に心の拠り所が

持てたら、親子の人生は全く違っていたものになったのじゃないだろうかと思えて、

やりきれなかった。子供に暴力振るうような人間は、人として失格だとは思うの

だけど、根底に、娘に対する愛情が垣間見えていたから。本当は娘に優しい言葉を

かけてあげたいと思っているのに、アルコールですべてが吹き飛んでしまう。

あんなに酷い仕打ちをされているのに、千映はよく我慢してきたな、と思います。

私だったらとてもじゃないけど、耐えられないです。でも、宇太郎は千映の父が

アル中で、彼女が苦労してきたことを知っているのに、あんな風に酒に溺れる

ようなことをしちゃダメでしょう。そりゃ、千映も許せませんよ。そこが、人間の

弱さなのかもしれませんけど。

私の親戚にもアル中で家族に酷い仕打ちをしてきた人がいるので、千映の苦労は

よくわかります。それでも、家族は見捨てられないんですよね・・・。縁を

切ってしまうのは簡単なのに。タイトルのように、全部許せたら楽になるかも

しれないけれど、そんなに簡単なものでもないわけで。家族としての愛情よりも、

憎しみが勝ってしまう。どれだけ訴えても、父親はお酒を止めることはないし、

暴力をふるい続ける。千映の父親に対する憎しみや諦めの心情を読むのは、胸が

痛かったです。

読んでいて決して楽しい話ではないけど、いろいろと考えさせられるお話だったのは

間違いないです。アルコール依存症の恐ろしさをひしひしと感じる作品でした。

 

「ミッドナイトスワン」

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監督:内田英治

出演:草彅剛/服部樹咲/田中俊介/佐藤江梨子/田口トモロヲ/真飛聖 他

 

少し前に観に行って来ました。実は映画の記事はかなり久しぶり。昔は観に行く度に

アップしていたのだけど、読書記事で手一杯になってしまって、いつしか上げなく

なってしまいました。でも、この映画についてはどうしても記事に残しておきたくて、

アップすることにしました。

草彅君の役どころは、トランスジェンダーの凪沙。新宿の片隅で、ニューハーフショー

のステージに立って生計を立てている。お金を貯めて、いつか手術で心身ともに

本当の『女性』になる為、粗末な生活をしています。そんな凪沙の元に、母親から

虐待され、育児放棄された故郷広島の親戚・一果がやって来る。心を閉ざした一果に

手を焼く凪沙だったが、ある日一果がバレエを踊る姿を観て、彼女の才能に気づき、

支援することに。才能を開花させる一果を支えることが生きがいになっていく凪沙

だったが、ある日、そんな二人を引き裂く出来事が起きる。

 

とにかく、主演の二人が素晴らしかったです。草彅君は、完全に凪沙そのもの

でした。始めはビジュアルに戸惑うひとも多そうだけど、観ているうちに、

そんなことは全く頭の中から抜け落ちてしまうと思う。心に痛みを抱えた、孤独な

凪沙を見事に演じきっていた。

そして、一果を演じた新人の服部樹咲ちゃんもまた、とんでもない化け物でした。

演技もさることながら、そのバレエの実力たるや、女優さんにしておくのは勿体ない

くらい。それもそのはず、いくつものバレエコンクールで実際に華々しい成績を

収めているのだそう。なんでそんな才能があるのに女優を?と思わなくもないけれど、

女優としての才能も素晴らしいので、今後どちらの道を行くのか気になるところ。

バレエも続けて行くのかなぁ。何度か彼女がバレエを踊るシーンが出て来るのだけど、

本当に美しいのです。特に、ラストのオデットはすごかった。これを、一番観て

もらいたい人が観れない現実に胸が締め付けられたけれども。

孤独なふたりが少しづつ心の距離を縮めて行く過程がすごく素敵で、息をするのも

忘れるくらい没頭して観てしまいました。

一果とバレエ教室で仲良くなったりんとのエピソードも印象的です。そして、りんの

衝撃的なシーンには、息が止まりました。そうなるんじゃないかな、という予想は

していたのだけれど。あんなふうにあっさりと。その後のことも一切出て来ないし、

それについての一果の気持ちも全く出て来ないけれど、一果が舞台で踊れなくなった

ことがすべてなんでしょう。

後半では、凪沙の衝撃的なシーンもいくつか出て来ます。この部分に対しては批判も

かなり出ているようです。実際のトランスジェンダーの方がどう思うのかが気になり

ますね。実際には、術後のケア次第ではあり得ることらしいです。凪沙が一果と

一緒に暮らしていたら、こんなことにはならなかったはずです。一果を失って

自暴自棄になっていなければ・・・。胸が痛くて苦しくて、仕方がなかったです。

基本、あんまり本とか映画とかで泣かない人間なんですが、この作品はダメでした。

途中から自然と涙が溢れてしまって。終盤は、嗚咽を堪えるのが大変だった。コロナ

対策で前後左右の席が空いていたからまだ良かった。あとマスクしてたし。

観た後しばらく引きずりました。凪沙さんのことを思うともう・・・。でも、一緒に

行った相方は、「ちょっとうるっとしたけど、泣きはしなかったなー。それより、

上映前に流れた『浅田家!』の予告の方が泣きそうだったー」と軽く言ってて、

がっくり。この男の感性はどうなってるんだ!と悲しくなりました(苦笑)。

まぁ、そういう人もいるので、一概に絶賛するのもアレなんですけど・・・^^;

私は未だに凪沙さんの人生を思うと泣きそうになります。せめて、一果が羽ばたいて

くれたのが良かった。どなたかが、凪沙は『白鳥の湖』のオデットだ、と言って

ましたが、そう考えると、いろいろと腑に落ちることが多いです。悲劇のヒロイン

なんですよね。

一果が凪沙にバレエを教えるシーンと、二人でハニージンジャーポークソテー

食べるシーンが大好きです。あと、真飛聖さん演じるバレエ教室の先生に、凪沙が

『お母さん』と呼ばれて、照れ笑いするシーン。もう、完全にお母さんだった・・・。

素敵なシーンがたくさんあるだけに、後半の重い展開が辛いのですけれども。

音楽も素晴らしかったですね。

心に残る映画でした。上映館は少ないけれども、少しでも多くの人に観て頂きたい

です。

草彅君の演技はやっぱり好きだな。ドラマも好きなのが多いけど、映画の『ホテル

ビーナス』が大好きで、あれもラストで泣けて仕方なかったのを思い出す。

この作品で、また俳優・草彅剛の魅力が増したんじゃないでしょうか。

ジャ○ーズに忖度せずに、きちんと評価されて欲しい映画だと思います。

 

恩田陸「スキマワラシ」(集英社)

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恩田さん最新作。ある一定のモノに触れると、そのモノが記憶している過去が見える

不思議な力を持つ散多と、古物商を営む兄の太郎。二人は、理由あって古いタイルを

探していた。それは、事故で亡くなった建築家の両親にまつわるものだった。

そんな中、二人は取り壊し予定のビルに出た、白いワンピースに麦わら帽子

の少女の目撃談を耳にする。散多は、兄の何気ない言葉から、彼女のことを密かに

『スキマワラシ』と呼ぶことにした。あちこちの廃ビルで目撃されるその少女の

都市伝説とは一体何を意味しているのか――。

恩田さんらしい、独特のイメジネーションに溢れた長編小説だと思います。こういう

不可思議な、ファンタジックかつノスタルジックな舞台作りを考えるのが、本当に

お上手だなぁと思います。かなり分厚いのですが、読みやすいのでさくさく読み進め

られました。

あちこちの廃ビルに現れる、白いワンピースの少女の幽霊(?)という、都市伝説

的な設定もミステリアスで、彼女の目的が何なのか、最後までドキドキしながら

読みました。彼女が持っている胴乱に集めているものが何なのかも、気になりました

し。終盤になってそれが何なのか明らかになるのですが、集めているもの自体は

予想外のものでした。ただ、これが何を意味しているのか、それはイマイチ最後まで

よくわかりませんでしたけど・・・。途中で兄弟のどっちかが予想した、ボタンとか

の方が『らしい』と思えたかも。一応幽霊っぽいのだけれど、散多と彼女の遭遇

シーンとかは、緊迫感はあるけれど、全く怖さは感じなかったです。昼間の遭遇

だからっていうのもあるかもしれないけれど・・・彼女自身の雰囲気から、悪意

めいたものを最初から感じなかったからかも。風が吹く草原と共に現れたりするし。

むしろ彼女の存在は、清々しささえ感じるくらいでした。

古物商の兄・太郎の飄々としたキャラクターが結構好きでした。襖の引手の熱烈な

コレクターっていうのも変わってますね。いろんなコレクターがいるもんだ。

引手っていうものが、コレクション出来るタイプのものっていうのも初めて知った

かも。別売りとかするんだなぁ。聴診器型の引手っていうのが途中で出て来るのだ

けれど、一体どんな感じなのか全く想像できなかったなぁ。襖の取っ手が聴診器?

途中で結構風呂敷を広げまくっているので、最後どう収拾つけるんだろう、と

訝っていたのだけれど、恩田さんにしては(←失礼)ほとんど謎は回収されている

のではないかな。先に述べた、スキマワラシが集めているモノの意味はよく

わからないままだったけど。いろいろと都合良く行き過ぎな感じがなきにしもあらず

ではあるけど、兄弟と芸術家の醍醐覇南子とが出会ったのも、出会うべくして

出会ったのだろうし、何か超常的な力が働いて、物語が動いているのような印象を

受けました。偶然も必然っていうか。運命に引き寄せられているって感じかな。

散多の漢字の由来にはずっこけましたけど。自分のせいなんじゃんか(笑)。

両親が生前、がむしゃらに働いていた理由にはほろりとさせられました。願いが

叶わないまま逝ってしまって、切なかったな。でも、その願いが叶っていたら、

兄弟二人の人生も大きく違っていたかもしれませんね。大人になって、ハナちゃん

と二人が出会えて両親も天国で喜んでいるんじゃないかな。仲良くしてねってね。

途中若干冗長な印象も否めないですが、先が気になってぐいぐい読まされる

リーダビリティは健在でした。恩田さんらしいファンタジックミステリーと

云えるんじゃないかな。面白かったです。

 

青柳碧人「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。」(双葉社)

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『むかしむかしあるところに、死体がありました。』に続く、童話をモチーフに

した短編集。前作はそれぞれの作品に関連性はなかったですが、今回はヒロインに

赤ずきんを据えた連作短編集の体裁になっています。赤ずきんが他の童話の登場

人物とコラボする形になっているのが面白い。前作では日本の昔話がテーマに

なっていたのに対し、今回は西洋童話がテーマ。出て来る童話は、赤ずきん

に加えて、『シンデレラ』『ヘンゼルとグレーテル』『眠り姫』『マッチ売りの

少女』。子供の頃に親に買ってもらって読んでいた童話ばかりで、懐かしかったな。

今回も、童話に出て来る小道具が非常に上手くミステリに生かされていて、何度も、

上手い!と膝をたたきたくなりました。ただ、赤ずきんの旅の目的が明らかになる

最終話は、引っ張っただけに期待が大きかったせいか、ちょっと食い足りなさは

あったかな。青柳さんだけに、もう一捻りくらいはあるかと思ったので。それでも、

赤ずきんのちょっとニヒルというかダークなヒロイン像に加えて、童話の小道具を

逆手に取った大胆なトリックは前作と比べても遜色なく、十分楽しく読めました。

基本的に、童話っていうのは子供に向けた教訓譚という意味合いが大きく、残虐な

ものも多いものだとはいえ、ここまで救いをなくしてしまうのもなかなかにすごい。

ヘンゼルとグレーテルの兄妹間に隠された秘密だとか、ラストのマッチ売りの

少女のその後とか。もう、めちゃくちゃです・・・(苦笑)。まぁ、その黒さが

このシリーズ(?)の面白いところでもあるわけですが。

トリック的には、『シンデレラ』『眠り姫』がよくできていたかなぁ。

『ヘンゼルと~』も面白かったけど、さすがにツッコミたくなるトリックだった。

でも、アマゾンの評価見てたら、このトリックはお菓子の家がなくても成立するって

書いてる方がいらしたけれど、私は逆に、まさにお菓子の家だからこそのトリック

以外の何物でもないと思いましたけどね。普通の家でこれは無理でしょうが。

赤ずきんちゃんの冷静な名探偵ぶりがなかなか良かったですね。途中で前の話に

出て来た登場人物たちが再登場したりするところも良かったです。一話のラストで

ガラスの魔女がくれたアイテムの伏線があったので、どこかで絶対出て来るだろうな、

と思っていたので、最後に出て来た時は『キタキター!』と思いました(笑)。

日本の童話と西洋の童話、両方やってしまったので、今後はどうなるんだろう。

交互にやるのもいいと思うし、両者を取り混ぜるのも面白そう。もっといろんな

バージョン読みたいです。第三弾も出るといいな。

 

野村美月「むすぶと本。『さいごの本やさん』の長い長い終わり」(KADOKAWA)

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文学少女シリーズを放置したまま、もう何年経ちましたでしょうか・・・。一時期

めちゃくちゃハマって、古本屋でシリーズを買い集めていたのだけれど、思う

ように手に入らないので、そのままになってしまった。買ったシリーズも、途中

までしか読めてないし。っていうか、どこまで読んだかも忘れている体たらく。

いつか再開しなければと思いながら今に至る訳ですが。そんな野村さんの最新作。

基本ラノベの野村さんの本はほとんど図書館に入ることがないので、なかなか

読めずにいたのですが、本書は単行本の為、無事入荷してくれたようです。

久々に新刊情報に載っていた上、本屋さんものと知っては手に出さない訳はなく。

即予約と相成った次第。

うんうん。良かったです。とても本に対しても本屋に対しても愛情たっぷりの

素敵な優しいお話。舞台は東北のとある街の本屋、幸本書店。優しく温かい人柄で

人々に愛されていた店長が急死して、あと一週間で閉店することになり、閉店フェア

を行うことに。別れを惜しんで、幸本書店にお世話になった客たちが次々と訪れ、

本屋での思い出と、それに纏わる思い出の本について語って行くお話。

それぞれの客たちの思い出の本(『ほろびた生き物たちの図鑑』『野菊の墓

『かもめ』『かいけつゾロリなぞのうちゅうじん』『緋文字』『幸福論』)は、

残念ながら一冊も読んでいなかったけれど、本にまつわるエピソードはどれも

胸にぐっと来ました。そのどれもが、幸本書店や店長の幸本笑門氏がいたからこそ

生まれたものだと思います。幸本さんのような書店員さんがいる本屋さんなら、

誰だって通いたくなるんじゃないでしょうか。それだけに、突然の死が悲しかった。

冒頭から笑門さんの死が出て来るので、読者は生きて笑っている彼を知らずに、

優しく温かい人柄が伺えるエピソードのみで彼を知ることになります。それが、

とても残念でした。町で唯一の本屋さんが無くなってしまう悲しさは、本好き

だったらすぐに察することができるはず。周りの数ある本屋が閉店して行っても、

幸本書店だけは開け続けてくれた人。この町の人々に、本を読む楽しさを教え

続けて、与え続けてくれた人。そんな人の死が悲しくて仕方がなかったです。

そんな幸本さんが、自分の死後の書店のすべての本を託したのが、高校生の本好き

少年、むすぶ。むすぶは、本にまつわる、ある特殊能力を持っている。むすぶと

幸本さんがどうやって知り合ったのか、なぜ幸本さんはむすぶに幸本書店の本を

託したのか。物語を読み進めて行くと、それが明らかになって行きます。私も

本大好きだけど、むすぶみたいな能力があったら、それはそれでちょっと

面倒なような気もするなぁ。でも、むすぶはその能力があるからこそ、彼女も

できたわけですもんねぇ。

本書の主役は、むすぶではなく、言ってみれば幸本書店そのものだと思う。むすぶ

本人が主役の物語も文庫で出ているみたいなので、そちらも読んでみたいなぁ。

でも、図書館には入らないだろうな・・・ラノベ系文庫で出ているらしいので。

むすぶが店長になって幸本書店を継いでくれればいいのになぁ、とも思いましたが、

東京の高校生が東北のいなかの町の本屋を継ぐのは現実的ではないですよね。

幸本書店の終わりはやっぱり覆らなかったけれど、笑門さんやお客さんたちが

愛した本との思い出は確かに残っているのだから、それでいいのかもしれないな。

長く続いて愛して来たお店がなくなってしまうのは本当に寂しい。私の町の本屋も

昔はたくさんあったけど、今はほとんど無くなってしまいましたからね・・・。

東北の町の三階建の本屋が閉店するというエピソードは、実際作者が体験したこと

だそうで。きっと幸本書店みたいにアットホームで素敵な本屋さんだったので

しょうね。

幸本書店が無くなってしまって、この町の人々は今後どうやって本を手に入れる

のかなぁと心配になってしまった。そりゃ、今はアマ○ンとかがあるから入手

自体は簡単だろうけれども。やっぱり、本屋に行って、書棚をめぐりったり

平台の本をチェックしたりする楽しみが失われるのは悲しいことだから。幸本

書店の書店員、円谷さんを始め、本を愛する住民たちの力でまた、新しい本屋が

この町に出来る日が来るといいなと思います。

 

神永学「心霊探偵八雲 COMPLETE FILE」(角川書店)

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先日めでたく完結した心霊探偵八雲シリーズ。完結を記念して刊行された、八雲

シリーズの魅力が凝縮されたファンブック。

先に言っておきますが、シリーズ全巻読破してから読んだ方が絶対いいです。

一部完全にネタバレしてますから。最終巻の後日談となる書き下ろし小説なんかも

収録されてますし。一巻から追いかけて来たファンには、とても嬉しい内容になって

いると思います。

個人的には、冒頭の、著者と京極夏彦さんとの対談が嬉しかったですね~。京極

さんが八雲シリーズを読まれているとは驚きでしたが。神永さんは昔から京極さん

の大ファンだったそうで、対談すること自体がとても嬉しそうなのが伝わって

来ました。12巻のあとがきでもその旨が書かれていて、私も読むのを楽しみに

していたんですよね~。京極さんが、神永さんを始めとする若い作家さんたちが

頑張ってくれるなら、自分はもう引退してもいい、みたいにおっしゃっていて、

「だめだめだめ~~~~っっっ!!」と叫びたくなりました。京極堂シリーズ

を完結させるまでは、絶対作家をやめないでもらわないと。ファンは首を長く

しすぎて、ろくろっ首になるくらい待ってるんですからねっ。

京極さんの、『(ご自身の)感覚は新人と変わらない。自分より後にデビューした

作家はみんな同期という気がする』という言葉に感銘を受けました。

デビューして二十六年経って、数々の華々しい賞を獲っている大作家といっても

いいくらいの位置にいる方なのに。この謙虚な姿勢がほんとに素敵。でも、

キャラクターにもう少し愛着持って欲しいけどw(京極さんは、全く自身の

キャラクターに思い入れがないらしい。よって、主要キャラでもばんばん殺す)。

京極さんは八雲シリーズがほんとにお好きなようで、作品の分析なんかもすごく

的を射ていて、すごいなぁと思いました。八雲と晴香のじれったいつかず離れずの

関係を、『メゾン一刻(響子さんと五代くんだね)』に例えていたのが面白かった

(笑)。

あとはやっぱり、書き下ろしの後日談が読めたのはファンとしてもかなり嬉しかった。

後藤さんが探偵を辞めて○○になるかどうかが気になります。また転職するんかい。

そして、最後はやっぱり八雲と晴香のラストシーンにはニヤニヤが止まりません

でしたね。長かったもんな~~。いろいろあったし。晴香ちゃんの想いが報われて

良かったです。

で、本書には、今となっては幻と言われる、自費出版バージョン『赤い隻眼』

第一話が収録されているのも嬉しい。一作目なんてすっかり忘れていたから、

初回の二人の出会いを読み返せたのも良かったです。こんなに険悪なところから

始まっていたんだっけ。これを読んで、改めて後日談の『伝えたいこと』の部分を

読むと、より感慨が深まること請け合い。八雲も素直になれて良かったよ。

ちなみに、一番最後に収録されている、読者からのお祝いコメントページは、字が

あまりにも小さいので読むのを諦めました(うっ、小さい字が辛い年頃なのよぉ~

・・・涙)。

シリーズを完読したファンなら、絶対読むべきファンブックだと思いますね。