ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

下村敦史「同姓同名」(幻冬舎)

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下村さん最新作。下村さんの作品は読んだり読まなかったりで、本書も予約するか

迷っていた作品だったのですが、王様のブランチの本コーナーで紹介されていて

興味を引かれたので、予約してみました。

世間を震撼させた幼女惨殺事件が起きた。捕まった犯人は16歳。当初、犯人は

少年Aと報道されていたが、ある日週刊誌が実名の大山正紀』を報じた。すると、

犯人と同姓同名の大山正紀たちは、何も悪いことをしていなににも関わらず、

犯人と名前が同じというだけで周囲から差別的な目でみられるように。7年後、

ようやく世間が大山正紀の名前を忘れかけたと思われた時、刑期を終えて出所

した大山正紀を、被害者の父親が襲う事件が起きた。再び大山正紀の名が世間を

騒がせ、同姓同名の大山正紀たちを悪夢に陥れる。犯人の大山正紀に人生を

狂わされた同姓同名の大山正紀たちは、『”大山正紀”同姓同名被害者の会』を結成し、

意見を交換し合う。その中で、今後の対応策として、犯人と自分たちの顔が違う

ことを世間に認識させる為、犯人を捜し出してSNSで顔を晒そうという話になる

のだが――。

大山正紀』ってそんなにたくさんいそうな名前じゃないけど、ネット検索して

みると、意外といるものなんですかね。まぁ、たしかに私も自分の名前検索して

みたことはあって、同姓同名の人は何人か出て来た覚えがありますけど。ただ、

同じ学校の同じ学年に同姓同名の大山正紀がいたってのは、さすがに偶然が過ぎる

ような。まぁ、その辺りを突っ込んでしまうと、このお話自体が成立しなくなって

しまうので、そこはそういうものだと思って読むべきだとは思うのですけども。

ただ、登場人物が『大山正紀』ばっかりなので、途中でもう、誰が誰だかわからなく

なって来ちゃって。それぞれの大山正紀の転落人生なんかもひとつひとつ

追って行くので、『”大山正紀”同姓同名被害者の会』を結成するまでも長いし、

結成してからも、なかなか話が進まないから、とにかく読むのに時間がかかりました。

下村さんの作品、基本的にはいつもリーダビリティがあるので読み辛さを感じた

ことがなかったのですが、この作品に関してはすごく読みにくかった。途中で

読んでも読んでも終わらない地獄状態に・・・。前半部分なんかは、もっと省略

して、コンパクトにしても良かったんじゃないのかなぁ。なんか、無駄に長くて、

冗長にしか感じなかったな。

伏線回収とか、ミステリ部分は良くできているとは思うんですが、いかんせん、

大山正紀飽和状態で、からくりがわかりにくくて。最後は読み終わることが目的

になっちゃってました。そして、最後までなんだか読みづらかった。犯罪者と

同姓同名ってだけで迫害される人々がいるって事実を、今まで気にしたことが

なかったので、言われてみればそういうこともあるのかもしれない、という

気づきにはなりましたが。SNSというツールの恐ろしさも改めて感じましたし。

今まで愛着を持っていた自分の名前が、犯罪者と同じだったというだけで忌み嫌う

ものになってしまう、というのはとても悲しく、やりきれないものがあるな、と

思いました。

 

以下、ネタバレあります。未読の方はご注意を。

 

 

 

 

 

 

犯人がなぜ、被害者の女児をあそこまで猟奇的な殺し方で殺さなければならな

かったのか、その辺りの背景が端折られていたのはちょっと不満。幼女が好きで、

同級生の妹が可愛いという情報を得て近づこうとしただけの筈なのに、首が切断

できる程の凶器を持っていたっていうのにも首をひねらざるを得ませんし。何か

いろいろ腑に落ちなかったです。犯人自体は意外性ありましたけどね。

もうちょっとすっきり読ませてほしかったというのが正直なところでしたね。

 

 

 

 

 

青山美智子「お探し物は図書室まで」(ポプラ社)

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王様のブランチで紹介されていた本。図書室が舞台ってだけでも読みたくなる

のだけれど、内容もとても面白そうだったので予約してみました。はじめましての

作家さんだったのだけど、この方、話題になっていた『木曜日にはココアを』

作家さんなのですね。タイトルは新聞広告で何度も見かけて気になっていたの

ですが、予約が多そうだからスルーしちゃった作品なんですよね。予約しとけば

良かったかな。

さて、本書。とっても良かったです。気に入りました。小学校の隣に併設された

コミュニティハウスの中にある小さな図書室が舞台。人生に悩んだ人々が、

この図書室を訪れ、司書の小町さんにお薦め図書を聞くと、なぜか本と共に

付録として小町さんが作った羊毛フェルトの小物ももらえて、最終的には

人生の指標も教えてもらえる、というお話。小町さんのビジュアルは、マツコ

デラックスにしか思えなかったなぁ。ものすごく大きくて、色白で、首と顎の

境目がなくて、年齢は47歳らしい(確かマツコもそのくらい)。性別は違う

けどさ。アマゾンのレビューでも同じような感想の方がいたし、同じように

思う人は多そう。ただ、小町さんは既婚で、旦那さんとの馴れ初めとか結構

乙女なエピソードも多そう。職場での小町さんとプライベートでは、かなり

ギャップがありそうで、その辺りも含めて、とてもいいキャラだと思いました。

本をお薦めする時も、羊毛フェルトのおまけを渡す時も、淡々としていて、

押し付けがましくないところがいいんですよね。それでいて、その人にとって

すごく核心をついたものを提供している。すごい人だなぁと思いました。

小町さんが作るその羊毛フェルトの付録がまた、物語にいいアクセントを与えて

いていいですね。図書室のレファレンスコーナーでお薦め本を教えてもらえて、

羊毛フェルトの小物までもらえるなんて、なんていい図書室なんでしょうか。

しかも、そのお薦め本も、本人の本質を見据えて絶妙なチョイスで選んでもらえる

し。養護教諭からどういう経緯で司書になったのか、その辺りの小町さんの人生

エピソードだけでも一冊の本になりそう。謎の多い人なので、小町さんメインの

物語もいつか書いて欲しいなぁ。旦那さんとの馴れ初め話もちゃんと知りたいし。

一話から五話まで、登場人物も微妙にリンクしてるところもいいですね。途中

まで全然わからなかったけど、終盤の二話くらいで全部の主人公がどこかで

繋がっているのがわかって、嬉しくなりました。

と、ここまで書いてアマゾンレビューを何気なく読んでいたら、小町さんの独身

時代のお話はすでに書かれているらしい。そ、そうだったのか。それは読まねば。

本書は5話収録されていますが、どのお話も良かったです。一話目の婦人服

販売員の朋香のお話は、羊毛フェルトの小物がフライパンで、本はぐりとぐら

ぐりとぐらのカステラ(私もパンケーキだと思ってました)は、私も作り方検索して

作ってみたことあります。朋香みたいな失敗はしなかったけど、朋香が最終的に

成功したみたいにふっくら膨らんだって覚えもないから、全然違う味と作り方

なんだろうなぁ。朋香のレシピで作ってみたいと思いました。

二話目の家具メーカー経理部の諒のお話は、小物はキジトラ柄の猫で、本は

『植物のふしぎ』。個人でアンティークショップを始めるのはなかなか勇気がいる

ことだけれど、比奈という可愛いパートナーもいるので、二人で協力して軌道に

乗せて欲しいですね。

三話目の出版社勤務の夏美の話は、小物は小さな地球で、本は『月のとびら』

夏美へのお薦め本が占いの本というのは意外でした。ミラ先生との絆に、温かい

気持ちになりました。最終的に夏美は正しい選択をしたのだと思います。ちょっと

上手く行き過ぎな感じもしましたけどね。

四話目のニートの浩弥の話は、小物が白と緑の飛行機で、本は『進化の記録

ダーウィンたちの見た世界』。30歳でニート生活はやばいよなぁと思いましたが、

コミュニティハウスの雑用係をやることでお金を稼ぐことの尊さを学べたのは

良かったです。再び絵を描く楽しさも思い出せたし。小町さんが浩弥に言い放った

『お前は今、生きている』のセリフにしびれました。かっこいい。

五話目の定年退職した正雄は、小物がカニで、本は草野心平の詩集『げんげと蛙』

正雄の妻が、一話目の朋香のパソコン講師の権野先生だったのは驚きました。

こうやって繋がっていたんだなぁ。そして、権野夫婦のマンションの管理人が、

二話目の諒がかつて通っていた骨董屋の夜逃げした店主だったとは。夜逃げの

理由もわかって、伏線がきちんと回収されてすっきりしました。五作がきちんと

繋がっていて、きれいな円環小説になっているところはなかなかニクイな、と

思いました。

コミュニティハウスに併設された小さな図書室に、小町さんみたいなレファレンス

専門の司書がいるって、なかなか現実的にはあり得ない気もしますが、こんな

素敵な司書さんがいる図書室なら通いたくなるだろうなぁと思いました。

ほんわか心が温まる、冬に読むにはぴったりな一作でした。

 

瀬尾まいこ「夜明けのすべて」(水鈴社)

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瀬尾さん最新作。社員6名の小さな会社、栗田金属で働く28歳の藤沢美沙は、

月に一度、PMS月経前症候群)の症状に悩まされていた。生理の前になると、

どうしてもイライラが抑え切れず、周りの人に当たってしまう。職場の人たち

にはある程度の理解は得られていたが、転職してきたばかりの山添はそのことを

知らず、ある日PMSの症状が出た美沙の標的になってしまう。山添が何度も炭酸

飲料のペットボトルの蓋を開け締めする音が、気に障って仕方がなかったのだ。

それに、山添は普段から遅刻が多く、仕事中にぼーっとして覇気もなくやる気も

なさそうな態度も気になっていた。しかし、そうした山添の態度には、ある事情

が隠されていた。そのことを知った美沙は、自分の症状そっちのけで、山添に

おせっかいを焼き始める――。

PMSパニック障害で苦しむ主人公二人が、お互いにおせっかいを焼きながら、

相手と自分の症状に向き合って行くお話。

PMSに関しては、女性ならではの症状なので、わからなくもないです。まぁ、美沙

ほど極端な症状が出ることはまずないですけど。ちょっとしたことでイライラする

気持ちは、女性に限らず誰にでもあるとも思うし。ただ、月に一度必ずこういう

状態になってしまうのは、やっぱり辛いだろうなぁ。もともと性格が穏やかなだけに、

その日だけ別人のようになってしまうというのは。カッとなって理不尽に誰かに

当たって、周りの空気を凍らせてしまう。症状が収まった後で思い返すと、後悔

と恥ずかしさで落ち込んでしまうとか。自分ではコントロールできない感情な

だけに、厄介ですよね。なんであんなことを言ってしまったんだろう、と穴が

あったら入りたい状態に陥るという。PMSじゃないけど、身に覚えはある感情

ではあるなぁ。何かにイライラしてる時って、ほんと自分でもどうしようもない

くらい何かに当たったりしちゃうんですよね。炭酸飲料の蓋の開け閉めくらいで

文句言われた山添君は気の毒になりましたけども。

パニック障害に関しては、患っている人も知っているし、芸能人でも突然かかる

人の話を聞いたりもするので、割と身近な病気(というと語弊があるのかな?)では

あるのかな、と思います。身近な人にはいないのだけど。ある日突然かかると

聞くので、自分だって全く無縁とも言い難いでしょうし。うつ病とかもそうだと

思うのですが、こういう精神的なものから来る病気は、なかなか他人に理解して

もらうのも難しいのだろうな、と思います。結局、一人で抱えて、向き合うしか

ない。孤独な戦いですね。でも、本書の主人公二人は、自分の症状に苦しみながらも、

相手のことがほっとけず、なぜかおせっかいを焼いてしまう。恋でも友情でもない

相手への感情。どちらかというと、同士とか戦友みたいな感じなのかなぁ。二人の

関係がすごく良かったな。最初はどっちもそんなに好感持てるって感じじゃなかった

のだけれど。なんだかんだで相手が弱っている時に手を差し伸べてあげてしまう

ところが、二人ともすごく似ていて。似た者同士って感じが良かった。終盤、

山添くんが仕事でもやる気出すところが良かったなー。会社のみんなが本当に

いい人ばっかりだから、この会社でぜひとも一旗揚げて欲しい。もともと仕事は

出来るのだから。心配性の社長を安心させてあげて欲しい。社長がほんとに終始

いい人過ぎて、泣けました。山添君や美沙の若い力で、この会社がもっと発展する

といいなぁ。

病気や障害を抱えていても、周りの理解があれば、人間は居場所を見つけて成長

して行けるんだ、と優しく教えてくれるような作品でした。弱い立場の人間に

寄り添う瀬尾さんの目線が温かいな、と思いました。

 

内田英治「ミッドナイトスワン」(文春文庫)

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映画のレビューを読んでいたら、原作小説も絶対読んだほうが良い、というコメント

が多数あったので、借りてみました。確かに、映画では描き切れなかった細かい

部分や、登場人物の微妙な心情の機微など、かなり詳しく描かれていて、相互補完

の関係になっているな、と思いました。原作だけ読んでもダメだし、映画だけでも

消化不良な部分が残ってしまう。これは、両方当たってこその物語なんだな、と

思えました。

読む前は、脚本を無理やり小説化したようなシナリオっぽい作品なんだろうな、と

思っていたのだけど、普通に小説として面白かったです。文章もすんなり頭に

入って来ましたし。映画を観ていたので、場面場面が鮮やかに頭の中で映像化

されて、わかりやすかったですし。読みながら、あの美しいピアノ音楽もずっと

頭の中でリフレインしてました。

映画にはなかったシーンもたくさんありました。映画の中で、いくら一果に天賦の

バレエの才能があったとしても、東京に来てバレエ教室に数ヶ月通っただけで

あれだけ上達するのは不自然だよなぁと思っていたのだけど、実は広島でバレエ

の基礎は習っていたのだと知って、溜飲が下がりました。ちゃんと下地があったの

ですね。その辺りのエピソードは、少しでも触れるべきだったのでは、とも思い

ましたけどね。

あと、凪沙さんが髪を切って一般企業に勤めた時の同僚の純也とのエピソードは、

映画でも入れてもらいたかったなぁ。純也、めっちゃいいやつだった。純也が

凪沙の正体に気づいた後も、偏見を持たずに接してくれたところに感動しちゃい

ました。

トランスジェンダー仲間の瑞希のその後も嬉しかったです。映画ではそこまで

描かれていないから。瑞希はちゃんと、自分のやりたいことを見つけて、それに

向けて歩き出していることが伺えて。凪沙も喜んでいると思う。

あと、広島に連れ帰られてしまった一果の内面が描かれていたのも良かったです。

実際、一果は凪沙のことをどう思っていたのか、映画ではそこが少しわかりにく

かったから。こんなに、彼女は凪沙のことを想って、生きていたんだなぁ、と。中学

卒業するまでと自分に言い聞かせて、凪沙とは連絡も取らないようにしていたとは。

母親も酷なことしますよね。東京であれだけ自分の娘が世話になっていたのに。

一果がバレエのコンクールで踊れなくなった理由も、映画だけではいまいちよく

わからなかったので、彼女の心情が知れて良かったです。りんの死を察知したから

かな、とか想像していたのですが。

小説では、一果の衝撃的なシーンで終わっているから、原作だけ読んだ人には

バッドエンドの作品だと思われてしまうと思う。これは、やっぱり両方触れるべき

作品なんですね。監督も、その辺り狙って書いているんじゃないのかなぁ。どちらが

欠けても消化不良に思えてしまう。両方合わさって始めて『ミッドナイトスワン』

として成立するんだな、と思わされました。

原作読んだ上で、もう一度映画を観直したくなりました。読めて良かったです。

 

2020年 マイベスト

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どうもみなさま、あけましておめでとうございます。

お正月はいかがお過ごしでしょうか。画像は去年末に作ったお正月飾りです。

小さい我が家の玄関扉に飾るにはちょっと豪華過ぎたかなぁという感じですが^^;

今年のお正月は、例年と全く違う、静かなものでした。31日と1月1日は

いつもなら徒歩5分のところにある実家に行って、兄家族と姉家族が集まって

ワイワイと食事会をするのですが、今年はコロナですべてなしになりました。

夫婦ふたりで家で過ごす初めての年末年始。そして、毎年1日に行っていた

お参りも今年はまだ行けてません。例年2日に行っていた初売り(福袋)も今年は

やめました。こんなにどこにも行けないお正月は初めてだなぁ。なんか、全然

お正月っぽくない。動かないから太りそう・・・むぅぅ。コロナめ・・・!!

いやもう、愚痴はよそう。本題、本題。

遅れ馳せながら、昨年のマイベストを発表させて頂きたいと思いますー。ぱちぱち。

対象は昨年一年間で読んだ本すべて。昨年はがくっと冊数が減りまして。コロナの

影響・・・という訳でもなく、実はレンタルコミックにはまってしまって、漫画

ばっかり読んでいたってのが本当のところ。漫画だけなら軽く5~600冊以上は

読んでるんじゃないかなぁ・・・。月50冊は読んでたと思うから。

今年読んだ本は全部で117冊。去年のマイベスト調べによりますと、去年は

133冊だそうなので、めっちゃ減りました・・・。まぁ、緊急事態宣言で図書館

閉鎖期間ってのもありましたしね!(←言い訳)

今年は冊数が少ないので、割とあっさり決まりました。今年もそんなに突出したって

感じのものはなかったかなぁ。順位はあってないような感じです。その時の気分で、

どれが上位に来てもおかしくないかも。

今年もミステリ、ノンミステリで分けて発表~。

 

<2020年 ノンミステリベスト10>

1.喜国雅彦国樹由香『本格力』

2.町田その子『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』

3.髙田郁『八朔の雪』『花散らしの雨』

4.青山美智子『お探し物は図書室まで』

5.村田沙耶香コンビニ人間

6.若林正恭『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込』

7.野村美月『むすぶと本。『さいごの本屋さん』の長い長い始まり』

8.京極夏彦『地獄の楽しみ方』

9.森見登美彦『四畳半タイムマシンブルース』

10.朝井リョウ『風とともにゆとりぬ』

 

1は自粛中で図書館休館中に読んだ積読本。勿体なくて、温めていて良かったです。

コロナで暗澹たる気持ちの中で読んだので、喜国さんご夫婦が本当に仲良しなのが

伝わって来て、ほんわかしたなぁ。

2はお魚をモチーフに、人間ドラマを描いた短編集。生きづらい世の中でもがき

ながら、主人公たちが成長して行く姿に胸を打たれました。

3も自粛中に読んだ積読本。辛い過去を抱えた主人公が、新たな地で料理を通じて

成長して行く物語。時代物ですが、心が洗われるような優しい物語で、続きを読む

のが楽しみです。

4は実はまだ記事を上げていません。下書き保存はしてるんですが・・・^^;

小学校に併設された図書室が舞台のハートウォーミングな連作集。巷でも話題に

なっていて、王様のブランチでも紹介されました。コロナ禍に読むにはぴったりの、

心温まる作品です。

5は芥川賞を獲ったベストセラー。人より遅れて昨年読みましたが、マイノリティー

の主人公が、コンビニ店員の矜持を持って働く姿に心打たれました。特異な才能を

持った作家さんだと思いました(まだこれ一冊しか読んでないけど^^;)。

6はオードリーの若林さんの初期のエッセイ集。人見知りの若林さんが、少しづつ

仕事や他人との触れ合いを通じて、人見知りを克服して行く様子が伝わって来ました。

若林さんの文章がとても好きです。

7は閉店間際の町の本屋さんに、亡くなった店長にお世話になった客たちが訪れ、

店を任された高校生の少年と従業員に、思い出の本について話をして行くお話。

本好きならば心に響く温かい物語だと思います。

8は京極さんが大学生たちに向けて行われた講演を本にまとめたもの。京極さんの

含蓄のある言葉の数々はとても心に残りました。大作家なのに、すごく腰が低い

ところも大好きだー。

9は久しぶりにモリミーの腐れ大学生もの。四畳半ワールドが楽しかったです。

10は朝井さんのエッセイ集。どこまでも腰が低くて、でも変なところで自信家

の朝井さんの筆致が楽しく、爆笑しながら読みました。

 

<2020年 ミステリベスト10>

1.井上真偽『ムシカ 鎮虫譜』

2.伊坂幸太郎『逆ソクラテス

3.黒田研二『家族パズル』

4.米澤穂信『巴里マカロンの謎』

5.早坂吝『双蛇密室』

6.池井戸潤アルルカンと道化師』

7.青柳碧人赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』

8.長岡弘樹『風間教場』

9.東川篤哉谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題』

10.芦沢央『汚れた手でそこを拭かない』

 

順位は適当に決めてます。なんとなく自分の中でインパクトがあった順というか。

1は孤島ミステリ+冒険小説の体裁で、ワクワクしました。虫いっぱいで読むの

キツかったけど、終盤で伏線がすべて回収される過程はさすがだと思いました。

2は伊坂さんらしい物語ばかりで、すべてが心に響きました。やっぱり、伊坂

幸太郎の世界が好きだなぁとしみじみ思わせてくれた傑作集でした。

3は久々のくろけんですが、収録作どれも水準以上の出来の良さでした。どれもが

家族をテーマにしていて、優しい読み心地のミステリ集。

4はこちらも久々の小市民シリーズ。まず、出たことに感動。小佐内さんのブラック

さも相変わらずで、やっぱりこのシリーズ好きだなぁと思わされました。小佐内

さんも小鳩君も、全然小市民じゃないよね、実際は(苦笑)。

5は犯人の意外性でいえば、ダントツのNO.1。ただ、ナンセンスという意味で

いろいろと問題もある作品なので、とりあえずこの辺りの位置に留めて起きました

(苦笑)。ナンセンスと本格の絶妙なブレンド具合が好きなんですよねぇ。あんまり

他人に薦められないけどもね。

6はドラマも大ヒットして、相乗効果で話題になった待望のシリーズ新作。本編の

前日譚に当たる物語ですが、若き日の半沢も変わらず真っ直ぐでかっこいいやり手

銀行マンでした。

7は一昨年(2019年)の話題になった童話モチーフのミステリ第二弾。今回は

西洋童話を題材に、ブラック色満開のミステリ短編集でした。童話の中に出て来る

小道具をしっかりミステリの中に生かしているところが上手いなぁといつも感心

させられますね。

8はこちらも話題のシリーズ新作。シリーズ初の試みで、教官の風間視点という所が

新鮮でした。風間の内面が思った以上に人間臭いところに驚かされました。生徒

目線では気づけない、風間の知られざる一面が伺い知れたところがファンとしては

嬉しかったですね。

9は私のミステリランキング常連の東川さん。相変わらずゆるい作風を貫きつつ、

トリックはしっかり本格要素を取り入れているところがいいんですよねぇ。ツッコミ

たくなる要素も満載ではありますけれども。やっぱり好きなんですよね~。

10は最近のミステリランキングを騒がせている芦沢さん。小技を効かせたブラックな

作風は、少し長岡さんに似ているかな、と思います。これからも注目したい作家さん

ですね。

 

こんな感じになりました。ランキング考えるのって楽しいけれど、難しい。昨年の

始めの方に読んだ作品なんか、もう大分内容とか忘れかかってるし。自分の記事

ざっと読み返して、記事のテンションとか思い出しながら考えました。ダントツに

面白かったっていうのがあれば楽なんですけどねぇ。だいたい、どれも水準以上の

面白さとかだから、順位付けしようとすると悩む、悩む。どこを基準に考えるか、

とかによっても変わって来るしね。あくまでも、個人の意見ですし、異論ある方も

いっぱいいると思いますが、広い心で許して頂ければ幸いです。

 

では、今年も不定期更新になるかと思いますが、お付き合い頂ければ嬉しいです。

今年もたくさん良い本に巡り会えますように。

 

 

町田そのこ「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」(新潮社)

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最近お気にいりの町田さん。借りられる作品から少しづつ読み進めています。

やー、良かったです。やっぱり、町田さんの文章好きだなぁ。不器用に生きる

主人公たちが、悩み、もがきながらも、自由に泳ぐ(生きる)術を見つけて行く

作品集、とでもいいましょうか。なんとなく全体のテーマがお魚ってところも私好み。

ちょっとしたミステリ要素が盛り込まれているところも良いですし。各作品で

微妙に登場人物のリンクがあって、この作品はどう他と繋がっているのか想像

しながら読み進めて行けるところも良かったです(最後の最後までわからない作品も

ありました)。基本的には、一作目に登場した、さっちゃんと啓太がすべての作品

の中心になっていると云っても良さそう。きちんと人物相関図を作ってみたい気も

するけど。最終話の『海になる』は、終盤まで主人公が誰と繋がっているのか全然

読めなかったです。ラストであー、そういうことかー、と思いました。ここであの

人物が登場するとは。嬉しい誤算とも云えました。あの人物が、新しい地で幸せに

暮らせるだろうことが察せられたから。伏線がきっちり回収されて、すっきり

しました。

一話目のカメルーンの青い魚』は、啓太の正体にすっかり騙されました。啓太が

いるのに、りゅうちゃんを家に連れ込んだりして、節操のない女性だなぁとかなり

嫌悪感があったのだけど。ごめん、さっちゃん。これがどこまでも純愛の話だったと

わかって、溜飲が下がりました。さっちゃんの一途な愛にやるせない気持ちになり

ましたけど。いつか、報われる日が来て欲しいなぁ。さっちゃんが青いカメルーン

のめだかを川に放そうとしたことと、思い直して持ち帰ったのは良かったけれど、

そのまますぐに金魚鉢に放したことは、いちメダカ愛好家として大いにツッコミを

入れたいところではあったけれど(どちらも絶対NG行為)。翌日、一匹死んで

しまったのは、水合わせが失敗したからだろうなと思われ。なんだかとても悲し

かったです・・・。

二話目が表題作の『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』。個人的には、このお話が

一番好きだったな。一話目に登場した啓太が主人公。啓太と晴子の関係が好きだった。

周りから何を言われようと強く生きようと必死にもがく晴子が健気で、それを秘かに

応援する啓太の優しさが心に染みました。啓太は本当にいい子だなぁ。晴子を守って

くれていたお祖母ちゃんが、ああいう風になってしまったのがやりきれなかった。

でも、そうなってもお祖母ちゃんのことを晴子がとても大事に思っているのが伝わ

って来て、晴子もとてもいい子だな、と思いました。だからこそ、晴子には新しい

土地で幸せになってほしい、と思いました。啓太と同様にね。

三話目の『波間に浮かぶイエロー』は、さっちゃんが通う飲食店『軽食ブルーリボン

の店員・沙世が主人公。店長の芙美さんのもとに、ある日一人の女性が訪ねて来た。

昔、芙美さんが彼女に出した一枚の葉書を差し出し、『約束を守ってもらいに来た』

というのだが。

芙美さんのキャラクターが良いですね。おんこって始めて聞いた言葉だけど。芙美

さんの造語なのかな??自分の面倒を見ろと押しかけて来た環の図々しさには最初

辟易しましたが、彼女の事情がわかってからは同情の気持ちも湧きました。終盤

明らかになる、芙美さんの嘘には驚かされました。いなくなった共同経営者の謎も。

環さんには、悲しいけど、優しい嘘をついていたんだな、と思いました。いつか、

彼女にも真実を明かす日が来るのでしょうか。

四話目の『溺れるスイミーの主要登場人物である宇崎は、かつてさっちゃんが

止めに入ったりゅうちゃんのケンカの相手。さっちゃんの前歯を差し歯にした

原因の人物でもあります。そのことを大人になった今でも後悔していて、反省

しているところが伺えたのは良かった。今は普通にいいヤツになってますしね。

宇崎とヒロイン唯子の微妙な関係にもどかしい気持ちになりました。うまく

行ってほしかったけれど、広い世界に飛び出そうとしている宇崎と、今いるところ

で一人でも頑張ろうとしている唯子は、同じベクトルでは生きられないのかもしれ

ません。淡水魚が海水では生きられないように。それでも、これからもお互いの

住むべき場所での健闘を祈り合う関係なのは変わらないんだろうな、と思えました。

最終話の『海になる』は先に少し感想を述べましたが、補足を。ヒロインの桜子は、

三度の流産を経験し、四度目に授かった子が死産だったという、とても悲惨な境遇の

女性。心も身体も傷ついた彼女に対して、夫の言動があまりにも酷くて、こういう

のがモラハラの典型っていうんだろうな、と本当に腸が煮えくり返る思いで読んで

ました。そんなボロボロだった彼女が出会った男が清音。清音と桜子のやり取りが

好きでした。清音の名前がわかるまでは、彼はさっちゃんの元カレ・りゅうちゃん

なのでは?とか推測したりもしてたんですけど、全然違ってました(苦笑)。清音は

清音で、とても辛いものを抱えていたところで、桜子とは出会うべくして出会った

のだろうな、と思いました。二人のその後を知って、温かい気持ちに包まれました。

最後の最後で明らかになる、物語のリンク部分にも。最後に素敵な伏線回収があって、

爽やかな気持ちで読み終えられました。いい作品集でしたね。町田さん、俄然

他の作品も読まねばという気になりました。王様のブランチでも、今年の一冊は

町田さんのクジラのやつだったし(予約中)。この人の作品は全部制覇したいなぁ。

今一番の注目株かも。

 

 

 

ほしおさなえ「菓子屋横丁月光荘(3) 文鳥の宿」(ハルキ文庫)

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川越の街を舞台に、家の声が聞こえる青年・守人の成長を描いたシリーズ第三弾。

前作で出て来た、二軒屋が再び登場。同じ造りで二軒隣り合っていた家の片方が

焼けてしまって、一軒屋になってしまった二軒屋の片割れだったが、昭和の生活

を紹介する資料館として改修され、残されることに。片付け作業のボランティア

として参加した守人は、家の声を聞き、天袋に仕舞われていた七段飾りのお雛

さまを発見する。しかし、元の住民に聞いても知らないと言われ、守人たちは途方に

暮れてしまう。持ち主を探す守人は、二軒屋に持ち主について聞いてみると、

『ミコチャン』だという。要領を得ない家の言葉に戸惑う守人だったが――。

二軒屋のお雛さまには、切なくも温かい思い出が隠されていました。守人が家の

声を聞くことができたおかげで、日の目を見ることになれて良かったです。

今回は、院を卒業した後の進路で悩む守人が、今後どう生きていけばいいのかの

ヒントが得られるストーリーだったんじゃないかと思います。他人と距離を置いて

生きてきた守人が、川越の街で月光荘に住み始めてから、いろんな人々と出会い、

新たな人脈を作って、新たな自分と出会って行く。その過程が丁寧に描かれていて、

読んでいて爽やかです。誰にも自分を見せて来なかった守人が、今回は大学の友人に

自分の身の上を打ち明けるまでに至りますし。友人の田辺君もいいキャラですよね。

田辺君の祖父母の家と守人との意外な繋がりには驚きましたけれど。そういう不思議

な縁で、本人同士が知らないうちに繋がっていたというのにも、温かい気持ちに

なりました。田辺君の祖母は、今後の守人にとって心強い存在になりそうです。

三話目では、ついに活版印刷日月堂の弓子さんも登場。いつかニアミスしそうだな、

とは思っていたので、このコラボレーションにはテンション上がりました。やっぱり、

活版印刷と歴史ある川越の街って合いますね。二軒屋も古民家ですし。三話目に

出て来た『庭の宿・新井』も、元料亭をリノベーションして旅館にしたものですし。

伝統ある建物を違う形で残して行くというのは大変だとは思うけれども、すごく

意味のあることで、大事なことだと思います。活版印刷で作られた新井のリーフ

レット、私もすごく見てみたくなりました。二軒屋や新井の立ち上げに関わった

ことで、守人のやりたいことも少し見えて来たのかな、と思えて、嬉しかったです。

守人と月光荘の会話が個人的にはとても好きです。なんか、ほのぼのしてて。

月光荘も、かなり守人に懐いて来た感じがしますし。今回は、守人の特殊能力が

だいぶ、物語に生かされているお話になっているように感じました。

川越の街の雰囲気もほんと素敵ですよね。コロナが落ち着いたら、ぜひ訪れて

みたいなぁと思います。