ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

町田そのこ「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」(新潮社)

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最近お気にいりの町田さん。借りられる作品から少しづつ読み進めています。

やー、良かったです。やっぱり、町田さんの文章好きだなぁ。不器用に生きる

主人公たちが、悩み、もがきながらも、自由に泳ぐ(生きる)術を見つけて行く

作品集、とでもいいましょうか。なんとなく全体のテーマがお魚ってところも私好み。

ちょっとしたミステリ要素が盛り込まれているところも良いですし。各作品で

微妙に登場人物のリンクがあって、この作品はどう他と繋がっているのか想像

しながら読み進めて行けるところも良かったです(最後の最後までわからない作品も

ありました)。基本的には、一作目に登場した、さっちゃんと啓太がすべての作品

の中心になっていると云っても良さそう。きちんと人物相関図を作ってみたい気も

するけど。最終話の『海になる』は、終盤まで主人公が誰と繋がっているのか全然

読めなかったです。ラストであー、そういうことかー、と思いました。ここであの

人物が登場するとは。嬉しい誤算とも云えました。あの人物が、新しい地で幸せに

暮らせるだろうことが察せられたから。伏線がきっちり回収されて、すっきり

しました。

一話目のカメルーンの青い魚』は、啓太の正体にすっかり騙されました。啓太が

いるのに、りゅうちゃんを家に連れ込んだりして、節操のない女性だなぁとかなり

嫌悪感があったのだけど。ごめん、さっちゃん。これがどこまでも純愛の話だったと

わかって、溜飲が下がりました。さっちゃんの一途な愛にやるせない気持ちになり

ましたけど。いつか、報われる日が来て欲しいなぁ。さっちゃんが青いカメルーン

のめだかを川に放そうとしたことと、思い直して持ち帰ったのは良かったけれど、

そのまますぐに金魚鉢に放したことは、いちメダカ愛好家として大いにツッコミを

入れたいところではあったけれど(どちらも絶対NG行為)。翌日、一匹死んで

しまったのは、水合わせが失敗したからだろうなと思われ。なんだかとても悲し

かったです・・・。

二話目が表題作の『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』。個人的には、このお話が

一番好きだったな。一話目に登場した啓太が主人公。啓太と晴子の関係が好きだった。

周りから何を言われようと強く生きようと必死にもがく晴子が健気で、それを秘かに

応援する啓太の優しさが心に染みました。啓太は本当にいい子だなぁ。晴子を守って

くれていたお祖母ちゃんが、ああいう風になってしまったのがやりきれなかった。

でも、そうなってもお祖母ちゃんのことを晴子がとても大事に思っているのが伝わ

って来て、晴子もとてもいい子だな、と思いました。だからこそ、晴子には新しい

土地で幸せになってほしい、と思いました。啓太と同様にね。

三話目の『波間に浮かぶイエロー』は、さっちゃんが通う飲食店『軽食ブルーリボン

の店員・沙世が主人公。店長の芙美さんのもとに、ある日一人の女性が訪ねて来た。

昔、芙美さんが彼女に出した一枚の葉書を差し出し、『約束を守ってもらいに来た』

というのだが。

芙美さんのキャラクターが良いですね。おんこって始めて聞いた言葉だけど。芙美

さんの造語なのかな??自分の面倒を見ろと押しかけて来た環の図々しさには最初

辟易しましたが、彼女の事情がわかってからは同情の気持ちも湧きました。終盤

明らかになる、芙美さんの嘘には驚かされました。いなくなった共同経営者の謎も。

環さんには、悲しいけど、優しい嘘をついていたんだな、と思いました。いつか、

彼女にも真実を明かす日が来るのでしょうか。

四話目の『溺れるスイミーの主要登場人物である宇崎は、かつてさっちゃんが

止めに入ったりゅうちゃんのケンカの相手。さっちゃんの前歯を差し歯にした

原因の人物でもあります。そのことを大人になった今でも後悔していて、反省

しているところが伺えたのは良かった。今は普通にいいヤツになってますしね。

宇崎とヒロイン唯子の微妙な関係にもどかしい気持ちになりました。うまく

行ってほしかったけれど、広い世界に飛び出そうとしている宇崎と、今いるところ

で一人でも頑張ろうとしている唯子は、同じベクトルでは生きられないのかもしれ

ません。淡水魚が海水では生きられないように。それでも、これからもお互いの

住むべき場所での健闘を祈り合う関係なのは変わらないんだろうな、と思えました。

最終話の『海になる』は先に少し感想を述べましたが、補足を。ヒロインの桜子は、

三度の流産を経験し、四度目に授かった子が死産だったという、とても悲惨な境遇の

女性。心も身体も傷ついた彼女に対して、夫の言動があまりにも酷くて、こういう

のがモラハラの典型っていうんだろうな、と本当に腸が煮えくり返る思いで読んで

ました。そんなボロボロだった彼女が出会った男が清音。清音と桜子のやり取りが

好きでした。清音の名前がわかるまでは、彼はさっちゃんの元カレ・りゅうちゃん

なのでは?とか推測したりもしてたんですけど、全然違ってました(苦笑)。清音は

清音で、とても辛いものを抱えていたところで、桜子とは出会うべくして出会った

のだろうな、と思いました。二人のその後を知って、温かい気持ちに包まれました。

最後の最後で明らかになる、物語のリンク部分にも。最後に素敵な伏線回収があって、

爽やかな気持ちで読み終えられました。いい作品集でしたね。町田さん、俄然

他の作品も読まねばという気になりました。王様のブランチでも、今年の一冊は

町田さんのクジラのやつだったし(予約中)。この人の作品は全部制覇したいなぁ。

今一番の注目株かも。