ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東川篤哉「仕掛島」(東京創元社)

東川さん最新作。タイトルといい出版社といい、『館島』と雰囲気似てるなー、

もしや続編!?と思いながら読み始めましたらば、当たらずと言えど遠からず、

微妙に繋がっている作品でした。とはいえ、単独作品と云ってもほぼ間違いでは

ないです。一部『館島』に出て来る登場人物との血縁関係がある人物が出て来る

くらいで(電話での本人登場シーンも多少ありますが)。そもそも、『館島』の

登場人物なんてすっかり忘れていたので、そんな人出てたんだっけ?状態でした

けどね^^;ただ、あの作品は、トリックだけは未だに鮮明に覚えていて、とても

印象深い作品。館自体が巨大な○○ですからね・・・目が点になりましたよ^^;

本書は、デビュー20周年を記念して刊行された作品だそうで。瀬戸内海の孤島に

建つ奇妙な形の館を舞台に繰り広げられるクローズドサークルミステリです。

孤島ミステリも館ミステリも大好物なので、ワクワクしながら読みました。

東川さんですから、当然ながら微妙な(笑)ユーモアも散りばめられています。

本格ミステリガジェットもてんこ盛り盛り。

まぁ、ツッコミ所も多々ありましたけれどね。んなバカな、みたいなね。

美少女が目撃した赤鬼の謎、昼間にはなかった筈の小屋が夜中に出現した謎、

二十年前の人物消失の謎、そして、あちこちが損傷した殺人の謎、いろんな謎が

出て来て頭がこんがらがりそうにもなりましたが、真相を知ると、すべてが

きれいに理論的に解明されて、なるほど~!と思いました。途中に出て来た

何気ないシーンが、後に判明する殺人のトリックの伏線になっていたりして、

驚かされました。あの、ハエが潰されるシーンがねぇ・・・。

館自体の形の意味にもビックリさせられましたけれど。真相を知って、タイトルの

意味もわかりましたね。確かに、いろんな仕掛けが・・・。頂上階の丸い建物

の意味や、へんてこな螺旋階段にもちゃんと意味があって、良く出来ているなぁ

と思いました。まぁ、実現可能かどうか、という意味では、リアリティはないのかも

しれませんけどね・・・。

一番びっくりしたのは、やっぱり中庭のヘリポート『H』の部分かなぁ。どうなって

んの!?と思いましたよ・・・。こういう真相は、映像で観た方がよりわかり

やすいでしょうね。もちろん、文章でも十分伝わってはきましたけれども。面白い

イデアだなぁと思いました。さすが東川さんって感じ。前回に続き、巨大な○○

がポイントでしたね~。今回のもインパクトは絶大。細かい部分は忘れても、

このメイントリックは忘れないだろうなぁ。

探偵の小早川隆生と、ワトソン役(?)である弁護士の沙耶香のコンビも良かった

ですね。

全然二人の会話は噛み合ってなかったですけど(笑)。『館島』の時は探偵役と

ワトソン役に恋が芽生えたみたいですが、こちらは全くその素振りもありません

でしたね^^;

作家生活20周年記念に相応しい一作だったのではないでしょうか。ということは、

デビュー作から追いかけている身としては、ファンになって20年位経つんですねぇ。

早いものだ(感慨深)。

東川さんの本格ミステリ魂を感じる作品で、堪能させて頂きました。

 

織守きょうや「学園の魔王様と村人Aの事件簿」(角川書店)

最近人気の織守きょうやさんの学園ミステリー。話題になっている『花束は毒』

が人気で読めそうにもないので、予約の少なそうなこちらから手をつけてみました。

予約本が立て込んでいる時だったのだけど、一話読んでみたら面白かったので、

全部読み通してしまった。途中からだいぶツッコミ所満載だった気もしますが^^;

何より、学園の魔王様こと御崎くんと、村人Aこと陰キャな主人公・山岸くん、

二人のキャラと関係が、個人的にとてもツボに入りました。

平凡で陰キャな高校生・山岸巧は、ある日、学園で噂の生徒・御崎秀一に落とした本を

拾ってもらう。御崎は容姿端麗で頭脳明晰だが、ヤクザの孫だの不良を叩きのめした

だのと、不穏な噂も絶えない問題の生徒だった為、意外に思った巧だったが、その

数日後、巧は彼のもっと意外な姿を目にする。御崎は、雨が降る中、柱と壁

の間に挟まった猫を救おうと格闘していたのだ。その場に行きあった巧は、猫救出

で泥だらけになった御崎を自宅に誘い、服と浴室を貸してあげることに。御崎の

意外な姿に驚く巧だったが、その後帰って来た母親から打ち明けられた困り事を

鮮やかに解決してしまう推理力に更に驚くことに――。

一話目の、巧の母親のトイレ問題を解決したお話が一番面白かったかなぁ。っていう

か、二話目以降、アポ電強盗の半グレの話を引っ張りすぎ。四話しか入ってない

のに、うち三話それ関連の事件って。せめて前半の二作は単独で読めるような

お話にして、後半二作でアポ電のお話だったらバランス取れてたと思うのですが。

なんか、同じ関連のお話が続いて、途中から飽きて来てしまったところがあって。

せっかく学園ミステリーなんだから、もう少し軽めの事件を挟んでも良かったのでは。

魔王様と村人Aが少しづつ仲良くなって行く経緯はほっこりしましたけどね。

とにかく、御崎くんのキャラクターが気に入りました。少女漫画のヒーローのようだ。

若干BLっぽい雰囲気がないでもないけど。織守さんって、そっち系の作品も

書いてる方なのかな?もともとラノベっぽい作品書かれてるってイメージあるし。

ラストで明かされる、御崎くんの巧に対する打ち明け話にもニヤニヤしちゃいました。

カワユス。

しかし、ラストで明かされる巧の秘密にはビックリ。え、そっちだったのー!!?

って感じ。なるほど、御崎くんに対する伏線はそこに繋がっていたのか、と

目からウロコの気分でした。一話目で巧の父親の存在が全く出て来なかったので、

母子家庭なのかな?とか思ってたんですけどね。アホだな^^;

ミステリ的には若干不満がないわけじゃないけど、キャラクターが気に入ったので、

続編読みたいなぁ。ラノベ風に軽く読めて楽しかったです。

 

 

 

凪良ゆう「汝、星のごとく」(講談社)

凪良ゆうさんの最新作。はぁ。凪良さんってほんとにすごい作家さんだなぁと

再認識させられた作品でした。瀬戸内海の島で育った男女二人の複雑な恋愛模様

を描いた力作です。

冒頭のシーンを読んだ時点では、正直、「えー、不倫ものかぁ。好きな題材じゃ

ないなぁ・・・」と、かなりテンションが下がりました。でも、プロローグの後

で舞台は一転、時代が遡って、十代の高校生の男女二人の瑞々しい青春小説へ。

島生まれ、島育ちの女子高生・暁海と、自由奔放な母親の恋愛に振り回されて、

島に転校してきた櫂。ふとしたきっかけで話をするようになった二人は、次第に

惹かれ合って行く・・・。

瀬戸内海の島の風光明媚な雰囲気も相まって、高校生の二人の純愛は読んでいる

こちらが気恥ずかしくなるくらいに初々しくて、新鮮で、爽やかでした。もちろん、

二人がお互いに抱えている家族の問題という闇の部分も同時に描かれて行くので、

明るさだけではないのですが。閉鎖的な島ならではの閉塞感などもありますし。

ただ、それを差し引いても、お互いに想い合う二人の恋愛模様は、おばさん世代の

私には微笑ましかったです。

ただ、二人が高校を卒業して遠距離恋愛になってから、ありがちな話ですが、少しづつ

二人の仲には暗雲が立ち込めて行く。漫画原作者として華々しく東京に出て行った

櫂と、母親を見捨てられず、島で就職することを選んだ暁海。始めの頃こそ櫂の漫画

鳴かず飛ばずで、たまに上京する暁海と会えることだけが癒やしのような状態

だったけれど、漫画がヒットしたことで櫂の生活は一変。暁海との心の距離も少し

づつ開いて行く・・・。この辺りの展開は、まさしく『木綿のハンカチーフ

そのままじゃないか~とツッコミながら読んでました(苦笑)。櫂が、少しづつ

暁海に対して横柄になって行くところが、読んでいてすごくイラッとしました。

ああ、変わっちゃったなぁってヤツ。あまりにも典型的過ぎて、笑えるくらい。

人間、大金を手にすると、やっぱり大事なものを失くしてしまうんだなぁと

悲しくなりました。暁海が一生懸命話しをしようとしているのに、タブレット

映画を観ることに夢中で、話を聴き流そうとするシーンは、暁海の心情が伝わって

来て、こちらまでブチギレそうでした。

でも、櫂視点で同じシーンを読むと、櫂には櫂の理由があって、いっぱいいっぱい

だったのがわかる。暁海と櫂、それぞれの視点で物語が進んで行くので、それぞれの

心情が伝わって来て、どちらにも同じように肩入れしてあげたくなったり、その

時々でどちらかに反発したくなったりしました。少しづつ二人が大人になって行くに

つれて、二人の物語の行き着く先がどうなって行くのか読めず、気になって気になって

読む手が止められなくなりました。息つく暇もない読書とはこういう作品のことを

言うのだと思う。それぞれに衝撃的な展開もあり、なかなか感情が追いつかなかったり

しました。それだけ、物語に引き込まれたということです。

終盤の展開はもう、辛くて、辛くて。二人が幸せになって欲しいとただただ願いながら

読んでいたのですが・・・。何を書いてもネタバレになりそうなので控えますが。

冒頭で暁海があの人と夫婦になっていることは明らかになっているのですが、終盤

読むまで、なぜそうなったのかが全くわかりませんでした。なるほど、そういう

経緯があったのか、とすべてが腑に落ちる気持ちでした。最後まで読んだ上で、

もう一度冒頭を読み返してみると、同じシーンなのに、印象は180度変わって

いました。それは、読んだほとんどの人がそうなる筈です。冒頭読んで、不倫の話か、

などと底の浅い感想を抱いた自分にパンチをお見舞いしたい気分になりました。

ここまで、鮮やかに印象が変わるなんて。凪良さんの戦略勝ちですね。完全に

ノックアウトです。白旗。

タイトルは、暁海のことでもあるし、櫂のことでもあるのでしょう。それぞれに、

それぞれを裏切ったこともあったけれど、最後の最後まで、これは純愛の物語なの

だと思いました。

今年一番、のめり込んで読んだ作品なのは間違いない。男女の醜い争いもたくさん

出て来るし、人間の醜悪な感情もたくさん出て来る。でも、鮮やかに蘇って

来るのは、美しい瀬戸内の島の景色と、夜空に浮かぶ美しい夕星。そして、夜空に

儚く消えゆく遠くの花火の光景。情景描写が本当に美しかった。

凪良さんの筆力はやはり本物だと思い知らされる作品でした。素晴らしかったです。

 

 

秋川滝美「居酒屋ぼったくり おかわり!3」(アルファポリス)

居酒屋ぼったくり おかわり!シリーズ第三弾。今回は、妹の馨と夫の哲君夫婦の

お話が中心。美音さんと要さん夫婦の新婚いちゃいちゃシーンもちょいちょい

挟まってますが(笑)。お互いに尊敬し合って、ラブラブなので、当てられっぱなし

でした^^;

反面、馨の方は、新婚生活や結婚式のことで衝突しがち。美音を見習おうと

必死にいい奥さんしようとする馨が健気で、それに甘えっぱなしの哲にはイラッと

しました。美音さんと要さんが怒ってくれて良かったよ。いくら仕事が忙しくて

余裕がないからといって、愛する奥さんが三日も具合悪くしているのに気づかない

とかあり得ない。これは妹を溺愛する美音さんが怒って当然だと思いました。

それに、馨だって仕事で疲れ果てて帰って来ているのに、それでも哲の為にと

頑張って作ったご飯にケチつけるとか、もう私だったらブチ切れます。黙って

照り焼きを食え!疲れて帰って来ているのに唐揚げ作れとか、アホか!!って

言いたくなりましたよ。もう。まぁ、今回のことで、義姉と義兄にこってり

しぼられて、いい薬になったことでしょう。

結婚式に関しては、どっちかっていうと馨の方に折れてあげてほしかったかなぁ。

哲は、結婚式くらい馨の望む通りに挙げさせてあげたかったでしょうから。

馨の『もったいない』という気持ちもとってもわかりましたけどね。かくいう私も、

結婚式なんて恥ずかしい、お金も勿体ないし、その分新婚生活とか新婚旅行に

かけたいから、挙げなくてもいいって思ってたクチですから。でも、紆余曲折

あって、きちんと挙げて本当に良かったと思いましたね。馨たちに関しては、

周囲の人の意見も取り入れて、みんなが納得出来る式になって良かったです。

カンジが猫を迎え入れるお話はほっこりしました。まぁ、上手く行き過ぎって

気もしましたけど、良いご縁があって良かったです。

ラストの哲と要の奥さんズへのサプライズ企画は羨ましかった。金に糸目はつけない

辺り、要さんってほんととんでもない人だな、と若干引きましたけど・・・^^;

ラクレットヒーター羨ましい~。うちもラクレットチーズはちょいちょい買います

けど、普通にグラタンの上に載っけるとかしかしたことないもんなぁ。本来の

使い方で食べてみたい・・・!家族四人でのお泊り会にもほっこり。楽しそうで

いいなーと思いました。

今回も、どこまでも美味しくて幸せな一冊でした。

 

 

 

知念実希人「優しい死神の飼い方」(光文社文庫)

新着図書で文庫版が入った際に、あらすじ読んで面白そうだったので借りてみました。

知念さんは『硝子の塔の殺人』が面白かったので、ちょっとづつ読んでいけたら

いいなぁと思っている作家さんのひとり。もともとは医療ミステリー系の作品が

多い方のようですが、本書はそれにちょっとファンタジー要素を加えた変化球

作品と云えるでしょうか。他の医療ミステリー作品を読んでないので、比較が

出来ないのですが^^;

死神のレオの仕事は、人間の死に立ち会い、肉体から離れた『魂』を、『我が主様』

の元へと導くこと。しかし、ごくたまにこの世に未練を残す魂は、その場に留まり、

地縛霊となってしまう。肉体を失った魂が長時間その場に留まると、やがて消滅

してしまう。レオは、最近担当する魂が消滅する確率が高くなっていた。すると、

直属の上司はレオに、地上に降り立ち、死ぬ前の人間と接して、未練を残さないよう

働きかけるように命じられてしまう。しぶしぶ承知したレオは、なぜか『犬』の姿

で地上に落とされる羽目に。レオが放り出されたのは、終末医療専門のホスピス

だった。レオは、このホスピスに、未練を残して地縛霊になりそうな人物が四人

いることを突き止め、一人づつ接触を図ることに――。

犬の姿を借りた死神という設定が、なかなか面白かったです。死神のレオが、地縛霊

予備軍の人物と接触を図り、その人物の未練となるものを取り除き、憂いなく

あの世へ行けるように取り計らって行くという、切なくも温かいハートフルストーリ

ー。せっかく憂いを取り除いて、当該人物とレオが心を通わせるようになっても、

当の人物の命は残り僅かということがやりきれなかったです。特に、四人目の人物

に関しては、何らかの奇跡が起こるのではと最後まで期待していたのですが・・・。

死神のレオは、あくまでも死神なのでした。でも、最後の人物に関しては、死神

としての規則を破ってまでも、その人物の憂いを取り除いてあげようとした。人間

と直接触れ合うことで、レオの心情が少しづつ変化して行くところが良かったです

ね。

レオが犬の姿というところが、緊迫した場面も多々ある物語の中で、ほのぼのと

した明るさが感じられて良かったですね。レオを拾ってくれた菜穂とのやり取り

や関係が好きでした。それだけに、ラストは切なかったですが・・・。

ひとつ気になったのが、借りの姿とはいえ、実在する犬に憑依(?)している

レオに、好物だからって、やたらと菜穂がシュークリームを与えるところ。犬

にとって毒ではないんでしょうが、シュークリームという人間の食べ物をあげる

ってあまり良くないのでは?私は犬を飼ったことがないので、正確なことは

わかりかねるのですが・・・。甘い砂糖やバターを使ってる訳で。食べさせて

いいものなんでしょうか?塩分が入ってなければいいものなのかな??

ご存知の方に教えて頂きたいです^^;

ものすごい高額のダイヤがあんなところにあったというのは、ちょっと現実的

じゃないなと思ったし、個人の家を買い取って病院にするっていうのも無理が

あるような気がするしで、ちょいちょいツッコミ所は満載だったようにも

思いますが、心優しい死神と人間の交流に心が温まりました。

死神に上司や同僚がいるっていうのも面白い設定でしたね。続編あるのかな?と

調べてみたら、他に二作もあるんですね^^;そういえば、本書を予約したのも、

続編っぽい新刊が出ていたからだったような・・・(時間が経ってその辺りの

経緯も忘れていた^^;)。とりあえず第二弾から早めに読まなくては。

 

 

相沢沙呼「invertⅡ 覗き窓の死角」(講談社)

城塚翡翠シリーズ第三弾。invertシリーズ第二弾とも言うのかな?二作収録されて

いまして、どちらも倒叙ミステリ。まぁ、一作目は少しひねってあるので、厳密に

倒叙ミステリって言っていいのか微妙なところではありますが。

ドラマ化スタートに合わせて新作が出たのでしょうね。ドラマはなかなか配役が

良さそうなので、とても楽しみ。最近あまり観たいドラマがなかったから、久しぶり

に毎週観たいと思える連続ドラマになりそう。真ちゃんの配役がちょっと微妙な気も

しますが・・・(小芝風花ちゃんは大好きな女優さんだけど、宝塚の男役みたいな

ビジュアルをイメージしている真ちゃんとは全然イメージが合わない・・・)。

清原果耶ちゃんの翡翠ちゃんはなかなかハマっていて良い感じですけど。どんな

ぶりっ子翡翠になるのかしらん(わくわく)。

おっと脱線しました。失礼しました。

では、一作づつの感想を。

『生者の言伝』

友人の別荘に忍び込んで、あるミッションを遂行しようとした僕。しかし、うっかり

うたた寝をしてしまったが為に、友人の母親が戻って来たことに気づかず、彼女と

遭遇してしまった。そして、気が付いた時には、僕の手には血に塗れた包丁があり、

目の前に友人の母親の死体が横たわっていた。後悔ばかりで絶望に突き落とされた

僕だったが、そんな緊迫した状況の中、突然インターフォンが鳴り響いた。モニター

を見ると、なぜか若い女性の二人組が――。

主人公の蒼汰をあの手この手で篭絡しようとする翡翠のぶりっ子キャラが、相変わらず

演技だとわかっているとはいえ、やっぱり絶妙に鬱陶しかったですね(苦笑)。

それに翻弄される蒼汰が可哀想になりました。基本とても素直で良い子なので、彼が

はずみとはいえ殺人を犯してしまったことが残念でなりませんでした。翡翠の度重

なる揺さぶりにもめげずに、なんとかその場で言い逃れて乗り切ろうと四苦八苦

するところに、ついつい応援してあげたくなってしまいました。ただ、殺人を

行った直後にしては、翡翠や真にドギマギしたりして、いまいち緊迫感に欠ける

ところがあったので、そこはどうなのよ、と思ったりもしてましたけど。まぁ、

そういう部分も含めて、すべてラストへの伏線だったのですけどね。相変わらず、

伏線の張り方が絶妙だなぁ。蒼汰が友人の山荘に来て本来やりたかったことに

関しては、実はラストまで気づいてなかったんですよね。途中何度も彼の身の上が

出て来て、伏線は出て来ていたというのに!なぜそれに気づかなかったのか、自分。

この閉ざされた山荘の中で、翡翠たちと出会えた蒼汰は、実はとても幸運だったと

いうことですね。本当に、翡翠が彼の現状に気づいてあげられて良かった。しかし、

友人の別荘(の中でやろうと思っていたのではないでしょうけど)に来て、○○

しようとしていたってのは、さすがにちょっと迷惑じゃないかな・・・。遂行しなくて

本当に良かったですよ。

 

『覗き窓の死角』

写真家の江刺詢子は、いじめを苦にして自殺した妹の復讐をする為、モデルの藤島

花音を呼び出した。巧妙なアリバイトリックを使って、完全犯罪を目論み、一見

それは成功したかに思えた。しかし、アリバイを証明してくれる筈だった友人の

城塚翡翠によって、その目論見は少しづつ瓦解されて行く――。

ミステリを語り合える友達が出来たと真に嬉しそうに報告していた翡翠が、その

友人の犯罪を暴かねばならなくなったことが悲しかったです。殺人という犯罪を

許せない自分と、初めて出来た友達を失いたくないという思いとの葛藤で、

揺れ動く翡翠の心の動きが切なかったです。それでも、やっぱり翡翠の正義感が

打ち勝った。普段はふわふわしていてドジっ子な面ばかりが見える翡翠ですが、

いざ推理の段になると、途端に冷静で明朗な頭脳を開帳し始めるのだから、その

ギャップに萌えずにいられません・・・。怜悧な頭脳で詢子を追い詰めて行く

ところは、さすがでしたね。こちらの作品に関しては、そんなにど派手などんでん

返しがある訳ではないのだけれど、細かい伏線が終盤に向けてきれいに回収されて

行くところはお見事でした。どんでん返しを期待している読者にはちょっと

物足りなさもあるかもしれないですけど。この作品に関しては、特筆すべきは

真の存在です。終盤の活躍には目を見張るものがありました。翡翠を傷つけた

詢子への静かな怒りを感じて、ゾクゾクしました。かっこいい・・・!!!真

ちゃんは、なんだかんだいって、翡翠のことが可愛くて仕方ないんじゃないかなぁ。

翡翠は友達がいないと自分を卑下するけれど、真のような存在がすぐ近くにいる

のだから、どんな友達よりも恵まれていると思うけどな。しかし、真ちゃんって

探偵だったのね。って、そんな設定前に出て来てましたっけ??探偵が探偵の助手

やってたのか・・・。そりゃ、優秀な訳だね。真ちゃんといる時の翡翠は、素の

顔が伺えて、とても可愛い。二人の会話のシーンが大好きです。

今回もとても楽しめました。表紙は、詢子があの時に撮った写真の翡翠ですね。

この涙には、きっと彼女のいろんな葛藤が現れていたのだろうな、と思えました。

 

追記。

本書の下書きを考えたのはドラマの一回目放映の前でした。その後、一回目が

放映されて、視聴しました。

なかなか、全体的に原作に沿って作ってあったのではないかな?細かい設定は

すっかり忘れちゃってるんで、違うところもたくさんあるのでしょうけれど。

清原果耶ちゃんは翡翠にぴったりな感じしましたね。まだ表向きの顔の部分

しか出て来てないから、今後真ちゃんとのシーンが楽しみだったり。まぁ、

それも終盤にならないと本当の素の部分は出てこないでしょうけど・・・。

今後の展開が楽しみですね。

床品美帆「431秒後の殺人 京都辻占探偵六角」(東京創元社)

初めましての作家さん。ミステリ・フロンティアレーベルの作品は、食指が動く

ものはなるべく読むようにしています。これは、タイトルで何となく面白そうだな

と思ったので予約してみました。

うん、なるほど、いかにもこのレーベルから出そうな内容でしたね。京都を舞台

にした、連作ミステリ。

主人公は、駆け出しのカメラマン、安見直行。カメラの面白さを教えてくれた

写真展を営む叔父が、突然不可解な事故で亡くなった。叔父は生前、妻との離婚話

がこじれていて悩んでいる様子だった。事故は、妻と離婚の話し合いをして別れた

直後に起きていた為、妻の関与が疑われたが、事故の際、妻はタクシーの中にいた

ことが確認され、アリバイが成立した。しかし、そのことに納得がいかない直行は、

祖母の勧めに従って、叔父の事故が他殺である証拠を見つけてもらう為、失せ物

探しの達人だという六角法衣店の店主を訪ねることに――。

京都が舞台ということで、全体にはんなりとした空気が流れているところがなかなか

良いですね。探偵役の六角さんの飄々としたキャラクターも好みでしたし。名前の

通りまっすぐな性格の直行と正反対のキャラクターなので、なかなか良いコンビ

だと思いました。嫌がられてもめげずに六角さんの元に足繁く通う直行の人懐こい

ところが微笑ましかったです。なんだかんだで、六角さんも直行がぐいぐい来る

ところを拒まない辺り、本気で嫌なわけじゃないのがわかりますしね。正直、直行

のキャラは一作目の叔父さんの事件が解決した後はもう出て来ないかと思って

たんですけどね。二作目以降はまた違う依頼人がやって来る形式なのかと。二作目

読んで、変わらず直行視点が出て来たので、ちょっと嬉しかったです。

ただまぁ、ミステリ的には、ちょっとトリックに無理があるものが多かったかなぁ。

一作目のトリックも、計算上可能だとして、実際こんなに上手く行くとは思えないし。

この方法が上手くいかなくても、他にもいろいろ仕込んでいたってところにも、

ちょっとツッコミたくなりましたし。他の方法がヒットしたら、確実に犯人が

容疑者になっていたのでは・・・?ずさんすぎると呆れました。

二作目の襖絵のトリックは、割りとオーソドックスなもので、わかりやすかった

ですけど。でも、それだけに、ちょっとインパクトには欠けたかな。

三話目の映画館のトリックは、もう、ツッコミ所しかないって感じ。こんなの、

実際やって成功するわけないと思うけど・・・。絶対バレるでしょ。容疑者だって

少ないし。こんな空いている映画館で人を殺す必然性には、首を傾げざるを

得なかったです。大胆な手法という意味では斬新かもしれませんけど。奇抜なら

何でもアリってのはちょっと違うと思うんだけどなぁ。

四話目は、被害者の人間性が酷すぎた。その人間性が次第に浮き彫りになってきても、

まだ同じように接しようとする直行の言動が信じられなかったです。正直、刺されて

も仕方ないというか、自業自得としか思えなかったですね。骨壷(だと本人が判断

したもの)とその中の灰をそこら辺に捨てたってだけでも、もうその人間性

伺えましたしね。

五話目は、六角さん自身の過去が明らかになる作品。六角さんの母親失踪の真相は、

悲しいものでした。六角さんほどの勘の鋭さがあれば、もっと早く真相を解明

出来たような気もしましたが。敢えて、考えないようにしていたのかもしれません。

心電図のトリックは、なるほど、と思いました。六角法衣店の危機にハラハラ

しましたが、ラストの救いの神の手にはほっとしましたね。ま、上手く行き過ぎ

とは思いましたけど、六角さんの母親が息子の危機を感じて助けてくれたのかも

しれませんね。

ミステリ的にはところどころツッコミ所が見受けられましたが、キャラ読み出来るし、

軽く読めるのでなかなか楽しめました。

ただ、六角さんの辻占がいまいち作品に生かされてなかったのは残念だったかな。

別に辻占って設定なくても、本人の推理力で解決出来ちゃってたし。あと、一作目

で出てきた不思議な猫の存在も、もうちょっとその後も作品に絡ませて欲しかった

気がする。四話目で被害者が逃した猫は、実在する猫ですよねぇ?あの邪まな人間

に、あの猫が視える訳ないし。その辺りの書き方も、ちょっとわかりにくかった。

あと、ちょこちょこ誤字とか誤表記が見られたところも気になりました。校正、

もうちょっとしっかりしてくれー!って思いました^^;

 

そうそう、折り返しの近刊案内の二番目に、梓崎優さんの作品が載っていました。

次の次ってことは、来年前半までには出てくれるかなぁ。本当に久しぶりの

新刊になるので、とても楽しみですね。