ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畑野智美「若葉荘の暮らし」(小学館)

多分初めましての作家さん。新聞広告であらすじ見て、面白そうだなぁと思ったので

予約してありました。40代以上の独身女性専用のシェアハウスでの出来事を綴った、

すべての女性にエールを送るような作品でした。

なかなかに身につまされる内容で、心に刺さるシーンがたくさんありましたねぇ。

四十歳になったばかりのミチルは、飲食店のアルバイト店員。コロナが蔓延した

ことで、収入が激減し、住居費節約の為、知人から紹介してもらった四十代以上

の独身女性専用のシェアハウス『若葉荘』に転居することに。シェアハウスと

いっても、家賃5万の、八十代のおばあちゃんが営む古いアパートだ。住民は

みな親切だが、それぞれに理由ありの事情があるようで・・・。仕事や私生活に

悩むミチルは、若葉荘で暮らす中で、自分らしさを見つけて行く――。

四十代以上の独身女性限定のシェアハウス、という設定が効いてましたね。

年代的には私も当てはまるので(既婚なので入居条件には当てはまりませんが)、

共感出来る部分も多かったです。これが、もっと若い世代対象の設定だったら、

また全然違うお話になっているのだろうなぁと思いました。入居者間でもっと

いろんな諍いが起きたりね。主人公のミチルのこの年齢ならではの迷いや悩み

も、わかるわかる、って思えるものばかりだった。私も結婚遅くて、出会いも

なかった三十代の半ば辺りでは、このままこの先一人だったら・・・って老後の

こととか、いろいろぐちゃぐちゃ考えて凹んだりしたこともたくさんあったから。

幸いなことに、今の相方と出会えましたけど、もしそれがなかったら、多分

いまだに独身のままだったと思う。その状態でもしこの作品読んだら、また

全然違う感想を持ったかもしれないです。恋愛もなく、収入も少なく、取り

立てて誇るべきものもなく。自分って一体何の為に生きているんだろう、と

自問自答して、堕ちるところまで堕ちていたに違いない自分がミチルと重なって、

辛い読書になっていたかも。でも、若葉荘で他の住民たちと交流することで、

ミチルは少し、前向きに生きることを学ぶことができた。やっぱり、人間は

誰かと交流することが必要なんだなぁと思わされました。自分を自分として

認めてくれる人が一人でもいてくれるって大事。自分一人じゃ気づかないことも

教えてもらえるし。若葉荘の住人は、ほとんどがミチルより年上の人ばかり

だから、人生の先輩として学べることもたくさんある。かといって、若い子たち

みたいにベタベタした関係にもならないから、程よい距離感で付き合えるところも

いいですね。まぁ、こればかりは、年齢関係なく、距離をつめてくるような人が

いたらまた違って来るのだろうけれど。ミチルが入居した時の住民たちはその

辺り、程よい距離を保つ人ばかりだったから良かったのかも。若干、小説家の

千波さんは微妙な感じだけど。テーブルの下で丸くなって登場した時は面食らわ

されましたねぇ。初対面でソレは怖いよ!^^;;ちょっと面倒な人ではある

けど、基本的には良い人だからミチルも仲良くなれたのでしょうけどね。

ミチルが勤める飲食店のコロナ禍事情の厳しさも、ひしひしと伝わって来ました。

コロナが始まってから、ミチルのような境遇にいる人はたくさんいるんだろうな。

ミチルは最後に、自分のやりたいことを新たに見つけられて良かったと思う。

でも、ミチルのようには見つけられない人の方がきっと、世の中には多い。

でも、見つけられなかったとしても、こうやって毎日誰かとほんの少しでも

繋がっていられたら、それだけで心の支えになるんじゃないかな。

トキ子さんの年齢的に、終盤の展開は致し方ないところもあると思うけれど、

やっぱり切なかった。その後の若葉荘のことが心配になったけれど、良い道が

見つかってほっとしました。ちょっとうまく行き過ぎな気がしないでもなかった

けれど、そのことも見越して、トキ子さんが真弓さんのようなキャリアウーマン

を入居させていたようなので、トキ子さんは素晴らしい家主だな、と改めて思い

知らされた気持ちでした。

生涯未婚率がどんどん上がる中、若葉荘のように四十を過ぎた未婚女性の居場所

があるって大事なことだな、と思いました。

今の時代にぴたりと合った作品だと思う。面白かったです。

 

 

 

 

 

歌野晶午「首切り島の一夜」(講談社)

歌野さん最新作。タイトルから本格ミステリ色がぷんぷん漂っていたので、非常に

期待して読みました。孤島の宿で四十年ぶりに行われる同窓会を巡る群像ミステリー。

一章ごとに、そこに集まった七人を一人づつ取り上げて、同じ一夜をどう過ごしたか

が綴られて行くのですが・・・。

 

 

※以下、作品内容に触れています。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

えーと、えーと、読み終わった率直な感想は・・・

 

 

 

何コレ

 

 

 

 

 

 

です・・・。どうしました、歌野さん??ある意味、斬新すぎるミステリー

とも言えるかもしれないです。

だって、意味深に出て来るそれぞれの人物の行動とか思惑とか、ほぼ全部が一切、

伏線じゃないのですから・・・。えぇー・・・。云ってみれば、去年ミステリーの

話題をかっさらった相沢沙呼さんの『Medium』の煽り文句が『すべてが、伏線』

だったとしたら、この作品はその真逆『すべてが、伏線じゃない』とでもなりそう。

読んでる途中、これ、絶対伏線だよね?って思った部分が、ラストまで読んで

何の意味もなかったとわかった時の脱力ったら。同窓会に参加した人物を一人

づつ掘り下げて行ったのって、一体何だったの?って読み終えてしばし呆然。

読む側としては、ほぼ誰もが冒頭に出て来た久我陽一郎の死体の謎を解き明かす

為のそれぞれの人物の掘り下げだと思って慎重に読む訳じゃないですか。しかも、

途中ちょいちょいほんとに意味深な伏線らしき描写が出て来るんですもん。でも、

ラストで明かされる久我の殺人の真相を知って、そうした各々の推理はすべてが

無に帰する訳です。まぁ、ある意味、盛大に騙されたと云っても過言じゃないです

けども・・・。でも、こんな騙され方はミステリー好きとしては全然歓迎したくは

ないですよ。これは本格ミステリーではない、というのが歌野さんが仕掛けた最大

のトリックだった、という解釈をすれば良いのでしょうか。当然、賛否両論(多分

否の方が圧倒的に多いのではとも推察しますけれど)あることを承知の上で書かれた

のだろうなぁ。ミステリに伏線ありき、って風潮に風穴でも空けたかったのかしらん。

でも、読者としては、伏線が綺麗に回収されるカタストロフが一番ミステリの醍醐味

だと思っている訳でして。なんか、ものすごい肩透かしを食らわされた気分でした。

それぞれの人物の内面描写もイライラさせられるものが多かったしねぇ。まぁ、

読み物としては面白く読んだのだけど・・・肝心の殺人事件の本当の伏線らしき

ものはほとんど書かれていないような?読み落としもあると思うけどさ。最後に

いきなり犯人が判明して、犯行理由も明かされて、目が点だった。一人一人の

長い前フリを読まされて、ようやく最後の章まで来て、ようやっとすべての伏線が

回収される!と意気揚々と読んだのに・・・はぁ?って感じでした・・・。

野尻の部分が一番消化不良だったなぁ。息子の事件って一体何だったんだ。

野尻のバッグに血のついたタオルが入ってたのも、犯人の仕業だったってこと

なんでしょうけど。そこに至る描写も一切なし。最低限の伏線回収くらいして

欲しかったよ。

ミステリ的な仕掛けで唯一騙された、と思えたのは大島の章くらいだったかな。

とはいえ、それも殺人とは全く関係なかったですけどね・・・(しーん)。

まぁ、最初に述べた通り、ある意味斬新なミステリだったと云えなくもない。

ただ、人に薦められるかと言われると・・・ううむ。

読まれるかどうかは自己判断で願いします^^;

 

 

青山美智子 絵・U-ku 「マイ・プレゼント」(PHP研究所)

詩のような掌編のような、青山さんの短い文章に、『赤と青とエスキースでも

カバー絵を担当されたU-kuさんが挿絵を添えた、まさにプレゼントに相応しい

一作。2~30分もあれば全部読めちゃいますが、文章も絵もとっても素敵でした。

U-kuさんは新進気鋭の水彩画家さんなのだそう。色彩感覚がとても美しくて、

象徴的な絵も多いのですが、引き込まれましたね。

何より、青山さんの文章と非常に合っていて、アートを見ているような作品でした。

共感出来る内容も多くて、何度も胸に刺さりました。ちょっと疲れた時や心が

ささくれている時に読めば、そっと心に寄り添ってもらえるような、そうそう、

そうだよねって肯定して背中を押してくれるような、そんな一作でした。

内容に合わせて文章の書き方自体にも工夫があって、横書きだったり縦書きだったり、

円を描くように綴られていたり、ぐねぐねと曲がったように綴られていたり、と

文章自体でもアートを表現している感じで、凝っているなぁと思いました。

大事な人にプレゼントしてあげると喜ばれそうです。

 

万城目学「あの子とQ」(新潮社)

万城目さんの最新作。前作がかなりの大作だったので、今回はどんな感じかな?と

少々身構えたところがあったのですが、なんとも軽く読める青春ファンタジー小説

でした。主人公は吸血鬼の両親から生まれた、生粋の吸血鬼少女・嵐野弓子。

ただし、現在生息している吸血鬼は、今の社会に適応するよう、少しづつ生態を

変えて、脱・吸血鬼化を図って来た。日の光も大丈夫だし、鏡にもきちんと映る。

もちろん、人の血を吸うこともない。ただし、ニンニクは少し苦手。16歳の

弓子は、これまで問題なく人間に紛れて生きて来れた。そして、17歳になる

弓子は、人間社会に更に溶け込んで生活出来るよう、更に一歩進んだ脱吸血鬼化

への儀式を受ける予定になっている。すると、ある朝突然、儀式を滞りなく遂行

出来るよう、弓子の前にQと呼ばれる見届け役が現れた。見た目が気持ち悪く、

質問にもろくに答えてくれないQに腹を立てる弓子だったが――。

現代版の吸血鬼である弓子が経験する、波乱万丈の青春ストーリー。笑いあり、

冒険あり、涙あり。怒涛のエンタメ展開で、飽きることなく読み通せました。

吸血鬼の固定観念を根底から覆す設定に目が点になりました・・・。万城目さんの

頭の中は一体どうなっているんでしょうか(苦笑)。現代社会で生きて行く為に、

吸血鬼たちが人間に近くなるよう、進化しているというのが面白い。バイタリティ

溢れる弓子のキャラクターがとてもいいですね。弓子の友達のよっちゃん、

よっちゃんの想い人の宮藤君、宮藤君の友達の蓮田君、そして弓子の見届け人の

Q。キャラクターそれぞれに個性があって良かったです。吸血鬼仲間の佐久に

関しては、いい人だったり悪い人だったり、印象がブレまくりでしたけど^^;

弓子たちがダブルデート(中身は微妙に違いますが)、と称して遊びに行った海

から帰る時のバスで遭遇した奇禍以降、物語は怒涛の展開へ。

後半は、弓子のQに対する強い想いにぐっと来ました。最初はあんなに嫌っていた

のにねぇ。個人的には、Qに海を見せてあげた時に、Q自身も弓子に対する想いが

変わったのではないかなぁと思ったのですが・・・。長年孤独にさらされて、

暗黒の日々を送っていたQが、Qになってから初めて見れた美しい景色だったの

ではないかなぁ、と。ぐっと来るシーンでした。

佐久と共にクボーに行く後半は、なかなか緊迫した場面が続き、手に汗握る

展開でした。Qの正体も明かされて、胸に迫るものがありましたね。

Qがどうなってしまうのか、最後までハラハラさせられました。ラストは胸が

温かくなりましたね。そして、あのエピローグ。これは、続編を想定している

のだろうなぁと思わせるものでした。弓子がQと再会出来る日は来るのか?

よっちゃんの恋は順調に進むのか?

ぜひ書いて頂きたいですね。

万城目さんらしい、破天荒で風変わりな吸血鬼物語でした。青春小説としても

秀逸な作品なので、若い方にオススメしたいですね。面白かったです。

 

 

道尾秀介「いけないⅡ」(文藝春秋)

我らがミッチー、最新作。ラストに挿入されてる写真画像がオチになっている

作品ばかりを集めた短編集第二弾。いやー、前作よりもかなりひねりを加えた

写真ばかりで、一回見ただけですんなりオチが理解出来たのは一作くらいしか

なかったです。っていうか、これはもう、私が単にアホってだけの話かも

しれないんですけどね。すぐにああ、こういうことか!ってわかる人ってどれ位

いるのかな?みんなすぐにわかるものなのかなぁ。アホな私は、最初見ただけじゃ

全然どういう意味かわからなくって、写真見て何度か本文に戻って伏線っぽかった

部分読み返して、また写真見て・・・を繰り返して、やっとこういうことなのか

な・・・?って理解するって感じでした。自分の理解力のなさに呆れ果てました

けどね。っていうか、まだ完全に理解しているのかわからない作品もあったりする

んですけどね・・・ネタバレサイトで確認しなくては。前作のときはもうちょっと

わかりやすかった気がするんだけどな・・・と思いつつ、自分の過去記事読み

返してみたら、前作でもやっぱり一発でわかったのはほとんどなかったもよう(笑)。

読者にちゃんと考えさせるように書かれているってことなんでしょうねぇ。しかも、

前作では、道尾さんによる一言ヒントがあったのに、今回はそれも全くなし。前回

の作品を読んでいるのだから、これくらいヒントなしでもわかるでしょ!?って

感じなのかなぁ。えーん、全然わかんなかったよぅ。ミッチーのいけずぅ(涙)。

ただ、次の作品に、その前の作品のネタバレ的な文章が出て来るんですね。だから、

それ読めば前の話のオチもだいたいわかるようになっている。そこで答え合わせ、

みたいな感じなのかな。オチわかんなかった?でも、ちゃんと答えは次の作品に

書いてあるからね、みたいなね。だから、絶対収録順に読まないとダメですけどね。

一作目とは、舞台になる町が違いますが、微妙なリンクはあります。一作目に

隈島って刑事が出て来るんで、あれ、あの隈島さん?もしかして、時系列が

遡ってる?と思ったりもしたんですが、こっちに出て来るのは例の隈島さんの弟

でした。あちらのネタバレもちらっと出て来るので、シリーズも順番に読んだ方が

良いでしょうね。いろいろ惑わされましたが、やっぱり細かい伏線の張り方は

さすがでした。ラスト一編のオチも効いてて、巧いなぁと感心させられました(

こちらのオチも、しばらく考えなければわからなかったですけどね・・・^^;)。

 

では、各作品の感想を。

 

※個人的考察によるネタバレ含みます。ネタバレサイトからの言及も

あります。未読の方はご注意を!!!

 

 

 

 

 

 

 

第一章 『明神の滝に祈ってはいけない』

一年前に失踪した姉を捜す為、桃香は明神の滝にやってきた。滝の観瀑台で出会った

のは、滝の先にある山小屋の管理人の男だった。桃香は姉のことを尋ねてみるが――。

これはいまだにちょっと自分の中で消化しきれてない作品。

大槻が撮った写真の中に『確実に写っていると思っていたもの』についてですが・・・

正直、私は完全に読み違えてました。最初は意味がよくわからなくて、ラストの

写真を見て、桃香自身のこと?と思ったのですが・・・(幽霊だったのかと。アホ

過ぎる・・・(呆))。ネタバレサイトを読んだら、全く違うことが書いてあって

愕然。何を読んでいたんだ、自分^^;;

冒頭の写真も、良く手の部分を見てみると、アレがないんですね。言われなきゃ、

こんなの気づかないよぉ~~~(泣)。あと、ラストの写真に関しては、本文中に

何度か出て来た干支だるまの干支が鍵になっているそうで。そこまで見てなかった

(おい)。しかし、ネタバレ読んでも、いまいち理解しきってない自分って一体。

ミステリ好きって言うのやめようかな^^;

 

第二章『首なし男を助けてはいけない』

真は、祭の日、友達のヨッチとハタケと共に、いつも嘘ばかり吐くタニユウを

こらしめる為、どっきりを仕掛けることにした。その為に、引きこもりの伯父

さんの家を訪ねることに。伯父さんは、三十年前に水難事故で父親を亡くして

から、なぜか引きこもって奇妙な首吊り人形を作り続けているのだ。その人形を

使って、肝試しの最中にタニユウを嵌めてやろうと画策したのだが、仕掛けに

行く途中で思わぬ事故に遭ってしまい――。

これは一番オチがわかりやすかったですね。ラストの写真の右側に写っているのは、

首吊り人形ではなく――という。伯父さんの後悔に胸が苦しくなりました。

 

第三章『その映像を調べてはいけない』

隈島と戸頃は、息子を殺したと通報のあった老夫婦の家を尋ねた。主人の千木は、

息子の暴力に耐えかねて刺し殺してしまったという。遺体は六黒橋から川に

捨てたというのだが、警察がいくら探しても遺体は見つからない。遺体が見つから

なければ、千木を逮捕することも出来ない為、隈島たちは必死で遺体を探そうと

するが、どうしても見つからない。そんな中、隈島は、千木が乗っていた車の

ドライブレコーダーの存在に気づき、映像を確認することに――。

これも、オチの写真の意味が最初全然わからなくて。陶器市に行った話は出て

来たけど、コスモス畑に行ったなんて情報出て来たっけ?と何度も本文を確認して

しまいました。問題はこの場所じゃなくて、コスモスという花自体にあったん

ですね。遺体の隠し場所は、最後の話読むまで完全に勘違いしていました。

白い花に完全に惑わされた。さりげなくミスリードさせるように、もう一種類の

花を効果的に描写する辺りが非常に巧いですね。

でもさ、こんな写真持ってこられたら、勘違いもすると思うけどなぁ。道尾さん、

人が悪いよー^^;

 

第四章『祈りの声を繋いではいけない』

智恵子は、鶴麗山の明神の滝にやってきた。すると、観瀑台の上で、祈りを捧げる

少年に出会う。祈る少年を見て、智恵子自身も祈りを捧げた。どんな形でもいいから、

すべてが終わらせて欲しいと――。一方、警察は千木の息子の遺体を見つける為、

未だ夜目ケ森を捜していた。すると、一体の遺体が発見されて――。

ラストの写真見て、最初意味がわからなかったんですよね。でも、しばらく考えて、

本文に何度か戻って重要そうな部分読み返して、ああ、そういうことか、と。

桃香たちの両親が、桃香の携帯番号引き継いでたまに鳴らしてるって描写がポイント

ですよね。あの場面で両親のどちらかが緋里花の携帯を鳴らしたことで、すべてが

明るみに出るってことですよね。前に出て来た伏線なんか全然覚えてないから、

頭の中『?』だらけになりましたよ、もう^^;

一章で見つからなかった緋里花はどうなったのか、三章でそもそも、なぜ夫婦は

あんなことまでして息子の遺体を隠したかったのか、腑に落ちない箇所がいくつか

あって消化不良だった部分が、ほぼすべて綺麗に説明がついたので、すっきり

しました。

この最終章で祈りを捧げた人物、智恵子、真、隈島それぞれの祈りはすべて叶えられた

形になりました。どんな形でもいいからすべてを終わらせたかった智恵子の祈り、

再びしゃべれるようになりたいと願った真の祈り、自分の手で事件を解決したいと

願った隈島の祈り。それはとても皮肉な形で叶うことになりましたが。それぞれの

祈りの声を繋げてしまったことで、救いのない結末が明るみにでることになった、と。

細かい部分までよく考えられているなぁと脱帽でした。タイトルもきちんと効いて

いますね。

欲を言えば、ネタバレサイト見ないでちゃんとからくりを理解したかったですが

・・・^^;決定的に読み取り能力が欠けている私にはこれが限界でした。

作品的には徹底的に救いがないですが、ミステリとしてはさすがの面白さでした。

 

 

 

早見和真「新!店長がバカすぎて」(角川春樹事務所)

本屋大賞候補にもなった前作『店長がバカすぎて』の続編。続編出るとは思わなかった

です^^;予想外に好評だったから、出版社側から要請があったのかもしれません

ねぇ。こういうネタは、本が好きな人なら大抵食いつきますからねー(お前だよ)。

本屋あるあるも出て来て、結構楽しめますしね。しかし、今回もいろんな登場人物

に何度もイラッとさせられましたけどね。

しかし、前作のラストをすっかり忘れていたのだけれど、あの店長って異動させられ

たんでしたっけね。本書は、あれから三年が経って、世の中がコロナ一色になった

後が舞台。

谷原京子は、<武蔵野書店>吉祥寺本店に勤める書店員。おバカな元店長の山本猛

が異動して以降、小柳新店長のもと、平穏な日々を過ごしていた。しかし、コロナで

状況が一変、書店は窮地に立たされ、スタッフの不満がすべて店長にのしかかった。

結局三年経ち、現場を抑えることが出来なかった小柳店長は結婚を理由に退職、

地方に飛ばされていた山本猛元店長が、店長として再び吉祥寺本店に戻って来る

ことに。しかし、店長として舞い戻って来た山本の振る舞いは相変わらず京子の

目に余った。しかも、なぜか山本は京子を自分の後継者として育てると息巻いて

いて――。

バカな店長、バカなアルバイト、バカな親父に、バカな社長ジュニア――前作

に続いて、呆れるような言動の人物ばかりが登場するので、かなりイライラさせ

られましたね。まぁ、作者としては『バカ』という言葉には愛情も込めて使って

いるのかもしれませんが・・・京子視点だととても愛情を持った言葉には感じ

られない為、やはり、同僚や周りの特定の人を指して『バカ』と言い捨てる所は、

あまり読んでいて気持ちの良いものではないなぁと思ってしまいました。まぁね、

確かに、イライラムカムカさせられるヤツばかりなんだけどさ。

今回は作品構成自体にもちょっとした仕掛けがあるので、必ず章の順番通りに

読むことをオススメ致します。っていうか、まぁ、連作短編って訳じゃないから、

順番通りに読まない人なんていないと思うけどさ(苦笑)。あ、あと、冒頭から

いきなり前作に関するネタバレが出て来るので、必ず前作を読んだ上で本書を

読まれることを強くオススメしておきます。てか、編集側は、冒頭にその旨きちんと

注意書きしておくべきだと思うんですが?ミステリじゃないからいいと思った

のか知らないけど、そういう問題じゃないと思う。こっちから読んだら、一作目

のラストの重要な場面の面白さが半減すると思うんだけど・・・。苦情が来る

レベルだと思うけどなぁ。

今回の作中でやたらに出て来る、『ステイフーリッシュ・ビッグパイン』

作者、マーク江本の正体に関しては、あの人かあの人のどっちかだろうなーと

思いながら読んでいたので、それほど驚きはなかったです。というか、だいたいの

人が予想がついてしまう人物かも?いろんなところでアナグラムが出て来るけど、

結局竹丸トモヤの正体は誰なんだ?あと、丸谷武智君は実在するのか?謎は残された

ままだったので、若干モヤモヤの残る読後感だった。ラストで新たな視覚の存在

も出て来るので、三作目を想定した上での本書だから仕方ないのかもしれませんが

・・・。5話目の仕掛けとか、ミステリのような構成で驚かされたところもあった

けど、こういう作品だと、ちょっとこの手の仕掛けが浮いてしまっているような。

細かい伏線が回収されてないから、余計にそう思っちゃったのかもしれませんが。

あと、びっくりしたのが、いくら前作のラストで山本店長が異動になって三年

会わなかったからといって、京子が山本店長に対する恋心を全く本書で忘れている

ところです。あの前作に出て来た唐突な恋愛要素は何だったんだ・・・。山本店長

への恋心どころか、京子には今回新たな恋の相手が出て来る始末(まぁ、その結末

はちょっとお粗末なものでしたが・・・)。

今回店長が戻って来たのに、店長への恋心は全くゼロになってしまったような感じ

だったのが不思議でした。一体作者は何が書きたかったのだろうか・・・。

うーん、好きな書店が舞台なので、面白いことは面白いのですが、なにか読み

終えてすっきりしないものが多かったような。三作目はどうしようかなぁ。

 

 

アミの会「おいしい旅 思い出編」(角川文庫)

先日読んだ『おいしい旅 初めて編』と二冊同時に刊行された作品。あまり期間を

空けずにこちらも回って来て良かったです。そして、こちらには『初めて編』の

最後にちらっと触れた光原百合さんの作品が収録されていました。これが遺作に

なってしまったのだろうか・・・?他の方より分量も短く、ラストも少し唐突な

感じがしたので、大分具合が悪い中での執筆だったのだろうか、と少し勘ぐって

しまった。大好きな潮ノ道シリーズが最後(もしかしたらまだ未刊行の作品も

残っているかもしれませんが)に読めて嬉しいと同時に、もうこの続きが読めない

と思うと、どうしようもない寂寞の思いがこみ上げて来ました。局長と真尋さんの

関係がどう変化して行くのか、これから楽しみだったのになぁ(涙)。

と、感傷はそれくらいにして、他の作品の感想をば。今回は、タイトルにあるように、

旅先での思い出の味がテーマ。旅に出たらおいしいものを食べるのが醍醐味だけれど、

その土地でしか味わえない思い出の味っていうのが必ず出来るものですよね。

旅好きの私にとっては、共感出来るシーンがたくさんありました。前作では海外を

舞台にした方が多かったですが、今回は国内ばかりでしたね。海外は、秋川さんの

ドイツくらいだったかな?ドイツは行ったことがないので、すごく行ってみたく

なりましたね~。出て来る食べ物は、どれもとても美味しそうでした。

 

柴田よしき『あの日の味は』

昔過ごした京都で15年ぶりに旧友三人が再会するお話。15年も経つと、それぞれに

ライフステージも違っていて、なかなか会えなくなるものですよね。三人それぞれ

心に秘めたものがあっても、久しぶりの再会に水を差したくなくて、結局告白

出来ずに終わってしまう。主人公美奈の事情には胸が痛みました。確かに、こういう

事情は打ち明けづらいよなぁ・・・。でも、絶対また三人で再会出来ると思いたい。

 

福田和代『幸福のレシピ』

三十年ぶりにある人物と会う為神戸にやってきた琴子。その人物との待ち合わせの前

に神戸の街を散策している途中で、親切な青年と出会い、なぜかスイーツめぐりを

することに。琴子の亡くなった夫は、パティシエだった――。

親切な青年は何か隠し事がありそうだなぁと思っていたら、そういうことだったのか、

と思いました。いくら何でも偶然が過ぎるのではとも思いましたが、琴子のカバンの

チャームがポイントだったのですね。切なくも微笑ましい一作でした。

 

矢崎存美『下戸の街・赤羽』

仕事も同棲していた彼氏も失った美琴は、埼玉の実家に帰って来た。しばらく何も

せずにダラダラ過ごしていると、旧友の梨亜から祖父の実家の片付けのバイトを

しないかと持ちかけられる。片付けをしながら、梨亜と旧交を深めていると、

昔のように食べ歩きに行く話がまとまった。梨亜は美味しい物への嗅覚がとても

優れているのだ。当日、梨亜が案内したのは、せんべろの街、赤羽だった――。

赤羽って行ったことがないんですよね。私は下戸で、飲み屋街のイメージも

ありますし。今はこんなオシャレな街になっているんですねー。梨亜のように

美味しいお店をたくさん知っている友だちがいるのっていいなぁと思いました。

 

光原百合『旅の始まりの天ぷらそば』

真尋がパーソナリティを務めるFM潮ノ道の看板番組『黄昏旅行』、今回のテーマは

『私の旅』だった。放送を終えて、真尋は、局長を相手に、旅のお便りの話で

思い出した、思い出の天ぷらそばが『旅のはじまり』を意味していることを

話し始めた――。

噛み合わない話を平気で続ける真尋と、それに呆れながらも付き合ってあげる局長

の関係がいいですね。今後真尋の想いは局長に届くのでしょうか。その答えは永遠に

わからなくなってしまいました。悲しいです。

 

新津きよみ『ゲストハウス』

白馬村のゲストハウスに泊まりに来た小田切。ここはスイス人の夫と、日本人の妻が

営んでいるらしい。実は、このゲストハウスは、小田切が幼少の頃過ごした実家の

古民家を改装したものだ。今回、ここに泊まりに来たのには理由がある。今日宿泊

する予定の客の中に、自分の娘の沙織がいる筈なのだ。このゲストハウスでは、

オーナーが、ゲストに日常を忘れて過ごして欲しいからとのことで、宿泊客同士は

ニックネームで呼び合う。顔もわからない娘の沙織はこの中のどの娘なのか――。

田切に手紙を出した娘は、なんとなくあの人じゃないか、と思っていた人物で

合っていました。ただ、その母親はまさかの伏兵って感じでしたが。きちんと

名乗り出てあげて欲しいなぁ。小田切はきっと喜ぶと思うな。

 

秋川滝美『からくり時計のある町で』

七年前に訪れたドイツに再びやってきた七緒。でも、七年前には同行者がいたが、

今回は一人きりだ。一人でドイツ観光をしていると、思い出すのは七年前の同行者

のことばかり。今回の旅は、彼女との決別の旅にする筈だった――。

友人と些細なことでケンカして、その後お互い気まずくて謝る機会がないままに

疎遠になってしまう――なんか、似たような経験あるなぁと共感しまくりでした。

あんなに仲が良かったのに、ある日突然関係が途絶えてしまう。私にも、二十代

三十代で毎年海外旅行を一緒にしていた友人がいました。でも、私の結婚を機に、

なんとなくだんだん疎遠になってしまって。思い切って連絡してみれば良かったって

だけの話なんですけどね。なかなか勇気が出なくてね(ヘタレ人間)。今どうして

いるのかなぁと思いながら読んでいました。七緒は、ちゃんとお互いの誤解が

解けて良かった。ライフステージが変わっても、変わらない友情だってあるよね。

 

大崎梢『横浜アラモード』

コロナで旅行代理店の職を失った明穂。そんな矢先、母が母の友達のお姑さんを

横浜観光に連れて行くガイドのバイトをしないかと持ちかけて来た。明穂は、

バイト代10万の報酬に釣られて承諾し、綿密に旅行計画を練って当日を迎えた。

初日は順調に旅行日程を消化出来たが、二日目になり、当人が観光に行きたくない

と言い出して――。

行きたい場所があるなら、もっと早く言っておいてくれれば良かったのになぁと

思いましたね。でも、ああいう年代のひとは、相手に遠慮してしまって、なかなか

言いたいことも言えないのでしょうね。最終的には、本人の希望の場所に行けて

良かったです。しかも、会いたかった人にも会えましたしね。80代の人を旅行に

連れて行くって、ほんと大変だと思う。うちも父が80を超えているので、

いろいろと配慮しなきゃいけないことが多いです。それでも、本人嬉しそうに

しているので、出来るだけ元気なうちに親孝行したいと思ってますけどね。それも、

いつまで出来るのかな。