ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畠中恵/「うそうそ」/新潮社刊

畠中恵さんの「しゃばけ」シリーズ第5弾「うそうそ」。

日本橋の大店‘長崎屋’の一粒種・一太郎は、江戸で頻発している地震のせいで、頭に怪我
をして寝込んでしまう。その為母の勧めもあり、二人の手代と兄・松之助をお供に箱根へ湯治に
出かけることに!初めての旅に張り切る一太郎だったが、船の上で二人の手代とはぐれ、宿では
人攫いに遭い、人攫いの最中に天狗の襲撃を受け・・・と、どんどん事態は深刻な状況に。そして、
一太郎の前に出現する謎の少女。その正体とは・・・?

今回は久しぶりの長編です。若旦那が始めての長旅に出るのですが、次から次へとトラブルに
巻き込まれ、読んでて、若旦那の体力だったら絶対途中で死ぬだろう、と突っ込みたくなりました
(苦笑)。悲惨な出来事にしか遭遇しないのに、何故か若旦那だと緊迫感がないですね。普通、
ここまで究極に甘やかされたら、絶対鼻持ちならないぼんぼんに育つと思うのですが、よくもまぁ、
ここまで全うに性格が良く育ったものです。やはり幼い頃から怪しの者と親しんで来たせいでしょ
うか。
いつもほのぼのしてるこのシリーズですが、今回は少し人間の嫌な部分も描いてます。
一太郎をさらった貧乏藩の侍は、自分の藩の存続の為には世の中が洪水になっても構わない
という考えで、珍かな水門の朝顔を盗もうとする。完全に人間のエゴですよね。でも、こうした
侍が、完全な悪人側として描かれていない所がポイントという気がします。悪いことだと知りながら
も、藩の為には仕方ないという大言壮語をかかげる・・・。悪い人ではないけど、紙一重で悪役
になってしまう、微妙な立場の人間。私はやっぱり嫌悪感を覚えましたが。
反対の立場で登場する雲助には好感を持ちました。人間なんだけど、怪しっぽい雰囲気の人ですね。

このシリーズで好きなのは、一太郎と松之助の関係。普通だったら松之助は一太郎に嫉妬する
立場だと思うのですが、二人の兄やたち同様、やたらに一太郎に甘甘なのが微笑ましい。
一太郎のおかげで今の立場でいられる、という感謝の気持ちで奉公してる所が泣けます。
一太郎以外の長崎屋の人たちにはなんとなく疎外されてる感じがあるので、頑張れ!って
応援したくなりますね。

それにしても、今回も家鳴たちが可愛かった~。本作ではあちこち登場して大活躍(?)。
いつもの長崎屋周辺にいる妖怪たちの出番がなかったのは残念でしたが。
仁吉と佐助の二人は今回も若旦那命ですが、天狗たちに対抗する姿は格好良すぎでした。

まだまだ今後も楽しみなシリーズです。