ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

畠中恵「いつまで」(新潮社)

一年に一度のしゃばけシリーズ最新作。本書で二十二作目だそうです。毎回、

マンネリにならないようにか、いろんな趣向で物語が展開していきますが、

今回は、タイムスリップもの。タイムスリップって、前にもなかったっけ?とも

思いましたけど、似たような作品と混同しているのかも^^;夢の中系も結構

あるしね(今回も、始めは妖の貘である馬久の夢の中から始まってるし)。

若旦那自身が若返っちゃう話もありましたっけね。スピンオフで未来の話も

あったような。そう考えると、ほんと何でもありの世界観だなぁ(苦笑)。

今回は、突然姿を消した場久、次いで姿を消した火幻を心配し、捜す為に場久の

夢の中へ入った若旦那が、次に目覚めたのは五年後の世界。二人の失踪の原因は、

西から火幻を追ってやってきた妖・以津真天(いつまで)だった――という話。

以津真天が火幻や若旦那に敵意を燃やす理由は、完全に逆恨みでしかなく、呆れ

果てました。単なる、かまってちゃんじゃないか^^;自分が寂しくて誰にも

かまってもらえないから、若旦那やたくさんの妖怪に囲まれて楽しく暮らして

いる火幻医師に嫉妬して、自分の方を見てほしくて場久や火幻に嫌がらせした

っていう。子供か!って思いましたよ。言ってることもめちゃくちゃだし、やってる

ことも酷いし、私にはムカつくやつって印象しかなかったのだけど、ラストの

若旦那の以津真天に対する温情には驚かされました。若旦那、どこまでいい人

なんだよー。あれだけのことをされたのに。こいつのせいで、五年後の長崎屋

は偉い大変な状態になっていたのに。婚約者の於りんちゃんとの関係だって危うく

なりかけたのに。若旦那激ラブの長崎屋の人々が、五年間も若旦那と会えないままに

なってしまったのに!・・・まぁ、その優しいところが、若旦那の良いところ

なんだけどさ。なんだかなぁと思ってしまった。

ラスト、そのままの世界で暮らすか、リスクを取ってでも五年後に戻るか選択を

迫られた若旦那。どっちを取るかはわかりきっていたので、まぁそうだろうなー

という展開でした。うまく行って良かったけどね。

以津真天と手を組んで長崎屋を陥れようとした大久呂屋のやり口が汚すぎて、

腹が立って仕方なかったです。こんな汚いやり方で商売が続く訳はないし、

若旦那が作った薬升があったとしても、次第に商売は傾いて行ったでしょうね。

もともとの薬の知識が足りてないだろうし。まぁ、最後はいい気味だったし、

若旦那の薬升がなければこんな悪どい手法も思いつかないだろうから、未来の

長崎屋は安泰でしょう。商売が傾いた長崎屋なんて、読者としても見たくない

ですからね。

今回の件で、唯一良かったことは、五年後の於りんちゃんを見た若旦那の気持ちが

少し変化したことでしょうかね。五年後には、きっとお似合いのカップルに

なっているんじゃないのかな~。ただ、五年後の世界で、於りんちゃんが若旦那の

ことをわからなかったというのはちょっと解せないと思いましたね。若旦那の

年齢の五年って、そんなに人相変わらないと思うけどな。子供の於りんちゃんなら

まだしも。少し若返った?くらいの感想になると思うけどな~と思いながら読んで

ました。ま、細かいことですけどね(苦笑)。