ミステリフロンティアシリーズの話題作、桜庭一樹さんの「少女には向かない職業」。
中学二年の大西葵は、その年に二人の人を殺した。夏休みに一人と、冬休みに一人。
武器は一つめの時は悪意で、もう一つ目の時はバトルアックスだった――強くなりたい、と
願ったあの夏、そばにいたのは、あいつ――宮乃下静香だけだった。二人の少女の壮絶な
≪戦い≫の記録。
これはすごい。単なる青春小説なんかで片付けられない、苦く悲しい思い出の記録。
中学二年という、まだまだ大人になりきらない少女の孤独や焦燥・諦観が痛い程伝わって
きました。文章は簡潔で、作品自体もあっという間に読み終わってしまいますが、
あちらこちらにセンスの良さを伺わせる表現がちりばめられていました。簡潔だからこそ、
ひしひしと伝わる少女たちの必死の思い。胸に迫るものがありました。
基本的にはライトノベル系の作品を書かれている方のようですが、この苦さや毒は一般書でも
十分通用するものであると思います。
葵の友人たちは、一般的な女子中学生として登場しますが、葵のちょっとした発言に反発し、
葵を精神的に迫害し、怯えさせます。‘いじめ’まではいかないけど、微妙な集団心理の
怖さ。そんな葵が見つけた一条の光である筈の静香。そして二人の間で交わされた無言の契約。
ぐいぐい引き込まれました。ごく一般的な主人公がいかにして殺人者になったのか、物語は
倒叙形式で綴られますが、二人の少女の戦いの果てにあるものは・・・この先は読んで確認
されることをお薦めします。
本の装丁や雰囲気からもっと明るい青春ミステリなのかと思ってたんですが、完全に裏切られ
ましたね。タイトルの意味もいきなり冒頭で明かされてしまうのですが、全く想像外の内容
だったので、作者の戦略的な巧妙さを感じました。
私にとっては、とても印象的な作品になりました。この方の他の作品も読んでみたいです。
でも、お気に入り登録させて頂いているゆきあやさんのブログで紹介されていた作品(「砂糖
菓子の弾丸は撃ちぬけない」)の写真を見たら、書店ないし古本屋でカウンターまで持って
行く勇気が出るかどうか・・・自分との葛藤になりそうです(苦笑)。(完全に萌え系小説
ですよ、あれ~^^;)