ミステリ読書録

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射逆裕二/「情けは人の死を招く」/角川書店刊

横溝ミステリ大賞受賞作家・射逆裕二さんの「情けは人の死を招く」。

斉藤和樹は無職のフリーター。幼い頃からの親のしつけにより、困った人がいたら助けなさい
という教えを忠実に守って生きて来た。その教えのおかげで、10年前のとある出来事で出会った
皆井順子と運命的な再開を果たし、二人は付き合うことに。そんな二人が休日を謳歌するべく出かけた
湯河原のリゾートマンションで、事件は起こった。マンションの一室で、大学教授の和気が撲殺
されたのだ。警察の捜査で犯人のめぼしはついたものの、第二の殺人が起こり事件は迷走する。
マンションの最も怪しい住人・女装マニアの狐久保朝志が事件の謎に迫る。

これ、読んだ後で知ったのですが、狐久保シリーズの2作目という位置づけだったのですね。
狐久保さんは作中、一人だけキャラが濃くて変な存在感はあったのですが、まさか探偵役とは。
しかし、私はこの作品、いまひとつでしたねぇ。まず、文章があまり上手くない。所々に教養を
ひけらかすべく引用が出てくるのですが、それがいまいちはまっていない。漢字の送り仮名の
誤用も目立ちましたし。全体的にしっくりしない文章なので、読みにくい筈のない部分でも
何故か読むのに時間がかかってしまいました。

それに、この作品での主人公・和樹のキャラがいけない。だいたい、33歳無職でこんなふらふら
してる男がもてる訳ないのに、周りの女性キャラがこぞって「いい男」と称えるのは何故!?
納得いかない。順子のキャラもなんだか薄っぺらいし。妙に鋭い部分があるので、もしかしたら
彼女が探偵役になるのかも、と思って読んだら、そんなこともないし。
そして、一番気になったのが、和樹の元カノとのエピソード。これって、このストーリーに
必要でしょうか?全然、事件と関係ないですよ。和樹が「人に情けをかけてしまう性格」という
部分を強調させたかったのでしょうけど、もともと、その性格も事件とあまり関係ない
エピソードだし。読んでいて、この女性の言動にむかついただけ、余分な感情を使って
しまった。なんだか、無駄なエピソードが多すぎて、肝心の事件の謎解きの魅力が薄れてしまった
気がする。
肝心のトリックについては、第1の殺人のトリックはなかなか面白い着眼点でしたが、
実現的とは思えないし、第2の殺人に至っては、完全に先行作品がある使い古された手法。
あまり目新しいとは思えなかったなぁ。別に推理できた訳じゃないですけど。

う~む、世間的には評価されているようなのですが、作品としての完成度はかなり低いと思います。
これで完全に見限るって程ではないけれど、少なくともこの作品に関しては好きではなかった。
それに、この題名にも疑問。この事件は「情け」で人が死んだのではないと思うのですが・・・。
題名見て面白そうだと思って手に取ったので、その辺りもちょっとがっくり来ました。
横溝賞を取った作品なぞは読んでみたいと思っているので、作家自体の評価はもうちょっと
先送りになりそうです。とりあえず、狐久保シリーズの1作目も読んでみましょうかね。