ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森谷明子/「七姫幻想」/双葉社刊

森谷明子さんの「七姫幻想」。

遥か昔の世から、水辺に住み只管機を織る美しい機織女たち。彼女たちはそれぞれに罪の衣を
纏い、男たちを翻弄して来た。様々な時代を超えて、今語られるたなばたの七姫の物語。

実は時代ものを読むのは苦手です。時代背景を掴むのが大変だし、登場人物の当時の
位とか人間関係とか血縁関係とかがわからなくなるし、いつも混乱してしまうからです。
ただ、本書は連作短編形式で、それぞれの作品ごとにそんなに登場人物も多くないので、
比較的わかりやすかった。それに何より、文章が美しい。書いている題材は男女の愛憎
だったり、人間のエゴだったり、あまり美しいとはいえないものばかりなのですが、
端正で情緒的な文章で、森谷さん独特の美しい世界観に浸ることが出来ました。それに、
それぞれ時代は違うものの、ちょっとづつリンクしてる所も良かったです。ただ、その
リンクの仕方が本当に微妙なので、してるのかしてないのか、作品によっては非常に
わかりづらかったのですが。あと、難を言えば、それぞれ時代が変わるので、どの時代
なのか掴むのに戸惑いました。だんだん近代に近くなり、ラストでは‘与謝蕪村’が
出て来るのでわかりやすいのですけれど。ただ、一作ごとにミステリ形式になっていて、
単独でも十分楽しめる作品ばかりです。
私が一番好きなのは「朝顔斎王」ですね。ミステリとしての流れも好きだし、娟子と
俊房のやりとりが良い。漫画にしたらベタな感じですが、その初々しさが良かった。
次点は「薫物合」。真相の切なさと、ラストの後日談の余韻が好きですね。

それぞれの物語に合った和歌も出てくるので、解釈ができればもっと楽しめるのになぁと
思いました。古典なんて忘却の彼方ですからね・・・。

7つの美しいたなばた姫の物語。秋の夜長に読んでみるのはいかがでしょうか。