ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

若竹七海/「船上にて」/講談社文庫刊

若竹七海さんのミステリ短編集「船上にて」。

若竹七海が仕掛ける、毒と皮肉の詰まったミステリ短編集。表題作「船上にて」他、
8編を収録。

この8作の中で「船上にて」だけがなんだか異質な感じがしますね。一番本格より
ではありますが。それはあとがきで著者もご自身で述べられているので、それでも収録
したかった意欲作ということでしょうか(というか、ここで収録しないと、一生どこにも
入らないと思われたというのが正しいのかも)。この手の作品ばかりの短編集も是非とも
読んでみたいものではありますが。謎解きを読んで、○○○○○○と○○○を見間違えるか
という根本的な問題に疑問を覚えはしたものの、案外暗い所で先入観があったら間違え
たりするのかも、とも思いました。しかし、このトリックはどこかで誰かが書いてそう
な感じもしますね(苦笑)。

どれもラストで突き落とすような結末ばかりで、実に‘らしいな’、と思いました。
特に「手紙嫌い」と「黒い水滴」のラストは救いがない。「手紙嫌い」はどこかで
読んだ記憶があるので、何かのアンソロジーにでも収録されていたのでしょうか。
あとがきに書かれている推理作家協会の代表作選集は読んでませんけど(だいたい、
これが本として刊行されているのかもわからない)。この作品に出てくる手紙の文例集、
実際あったら読む本としては面白そうだけど、実在の遺書の文例なんか読んだら、ぞっと
するでしょうね。
「黒い水滴」は、登場する一条刑事が妙に鋭くキャラが確立してる感じがするな、と思って
いたら、他の作品にも登場する人物なのですね。「製造迷夢」、読んだかどうかすら覚えていない
ので、ちゃんと読まなければ、と思いました。この作品のオチが最初ピンと来なかったのですが、
よく考えると、とても救いがないラストだと気付きました。(合ってるかな?弱冠不安^^;)
「かさねことのは」の手法も面白かったですね。8通の手紙だけでミステリが確立してる
所がすごい。手紙の差出人や出された時期の思い違いでこれだけ先入観を植え付けられるのだ、
と感心しました。

短いながらもちゃんとラストに独特のオチがあって、とても若竹さんらしさの出ている
作品集だと思いました。よく考えると、純粋な若竹さんの短編集って初めて読んだのかも?
(「ぼくミス」は連作短編だし)
今度は「船上にて」系統一でお願いします(笑)。