ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

瀬尾まいこ/「幸福な食卓」/講談社刊

瀬尾まいこさんの「幸福な食卓」。

「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」。春休み最後の日、朝の食卓で父さんが言った。
5年前の梅雨のあの日から、うちの家族の歯車は少しづつ狂っている。母さんは一人家を出て
アパート暮らしをしているし、兄の直ちゃんは優等生だったのに大学に行かずに農業団体で
無農薬野菜なんか作っている。そして、今日父がまた朝食の席で妙な提案をした。我が家では
重大な決心や悩みを打ち明けるのは決まって朝食の時なのだ。全員が揃う朝食。私たちの食卓は
きっと私たちを守りすぎている・・・。ちょっと風変わりな、切なくて優しい‘家族’の物語。

良かったです。「図書館の神様」同様、始めは主人公・佐和子に好感が持てず、家族の会話も
なんだか絵空事のようにしか感じられなかったのですが、この家族に起こった出来事を知って
初めてその会話の意味する所がわかって、この家族の優しさがわかりました。言葉の一つ一つが
優しく胸に響いて、‘家族’というもののあり方を考えさせられました。ばらばらになっても、
家族は家族。どんなに辛いことが起こっても、家族だけは自分を見捨てないし、暖かく迎えて
くれる場所なんだと教えてくれたような気がします。正直、大浦君のエピソードはあまりにも
お約束な展開だなぁと思って読んでいたのですが、ラストへの布石としては挿入されなければ
ならない出来事なのでしょうね。でも、ラストの大浦君のお母さんのマフラーに関する行動は
どうなんだろう?と疑問を覚えてしまいましたが。

今回ツボだったのは直ちゃん。こんな優しくて素敵なお兄ちゃんがいたら、家に帰るのも楽しい
でしょうね。料理も上手だし、佐和子が落ち込んでいたら、一緒になって自分も落ち込んでしまう
位妹を可愛がっている。私も実際佐和子と同じように6歳離れた兄がいますが、直ちゃんとは雲泥
の差でしたね(比べてはいけないのだろうけど^^;)。まぁ、それなりに仲は良かったのですが。
しかし、直ちゃん以上にツボだったのは直ちゃんの彼女の小林ヨシコです。まさしくこの作品
助演女優賞ものです。このキャラは良かった。初登場の時は「なんだ、この女」っていう
悪印象だったのに、どんどん覆って行きました。彼女のぶっきらぼうな優しさがいいですね。
佐和子にあげるシュークリームのエピソードにはほろりときました。
お父さんもお母さんもなんだか素敵だったなぁ。あんなに暗い過去を背負っていても、こんな
風に前向きに生きていけるのはすごいと思う。暗い過去があるからこそ、とも言えるけれど。
佐和子もきっと、これからそんな風に生きて行くのでしょうね。この二人の血を引いている
のだから。

読み終わった後になんだかとてもほんわかした気分になれました。瀬尾さんの作品は、切なくて
優しい気持ちにさせてくれますね。今後も注目したい作家になりました。