ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青柳碧人「むかしむかしあるところに、死体がありました。」(双葉社)

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図書館新刊案内でタイトル見て面白そうだったので予約してみました。
予約後に、結構話題になっていることを知って(テレビで紹介されたらしい?)、
早めに予約しておいて良かった~と胸をなでおろしたのでした(今は結構
予約数が膨れ上がっているもよう)。
なるほどなるほど、話題になるのも頷ける面白さ。有名な昔話をミステリー
仕立てにしたものばかりを集めた短編集ですが、特筆すべきは、その
ミステリ部分の出来の良さに加えて、そのブラックさ。まぁ、もともと
童話とか昔話って、結構黒いものが多いけれども、本書の結末はどれも
全く救いがないお話ばかり。ここまで徹底してくれると、いっそ痛快
でしたけれどね。どれもミステリとしての小技が光る良作ばかりでした。
これは今年のミステリランキングに入るんじゃないかなぁ。

 

では、一作づつ感想を。

一寸法師の不在証明』
鬼の腹の中にいた一寸法師の完璧なアリバイをどう崩すのか。一寸法師
のキャラの腹黒いこと。とんでもないヤツで辟易。打ち出の小槌の特性を
生かした犯行方法には感心させられました。実際の古典を下敷きにしつつ、
しっかりその特性をミステリに活用させる手腕に脱帽でした。得体の知れない
黒三日月の正体にはほっこりしました。

『花咲か死者伝言』
花咲かじいさんの二代目の犬の視点から語られるところが新鮮。優しい
おじいさんのやることなすことが気に入らず、おじいさんの手柄を
全部横取りしようとする強欲な太作爺さんにムカムカ。でも、それよりも
更に上を行く悪辣な殺人犯の正体には暗澹たる気持ちになりました。
まぁ、多分犯人はこの人物だろうなとは思っていたのだけれど。亡くなった
おじいさんがただただ可哀想だった。そして、語り手である犬の次郎の
ラストの復讐も悲しかった。こんなやり方しか出来なかったのが。いつか、
次郎の願いが報われて、犯人に天誅が下ってほしい。

『つるの倒叙がえし』
命を助けてくれた弥兵衛に献身的に恩返しするつうに対して、どんどん
要求がエスカレートしていく図々しい弥兵衛の強欲さに辟易。弥兵衛を
慕うつうはそれに応える為に、必死に身を削って機を織っているのに。
極めつけに、つうをどん底に突き落とす宣言をしながら、更に機を織れと
迫る弥兵衛。腹が立って仕方なかったです。途中から、何か変だなぁとは
思っていたのだけれど、最後にからくりが明かされて、そういうこと
だったのかー!と目からウロコ状態でした。つうの織る織物の特性が犯行に
生かされているところは、一寸法師の話同様、上手いな、と思いました。
とにかく、この作品は構成の巧さが光る一作ですね。必ず、最後読んだら
前に戻りたくなるんじゃないかな。

『密室竜宮城』
浦島太郎が、竜宮城で殺人事件に遭遇するというもの。多分この作品だけ
どこかのアンソロジーで既読だと思います。細かいトリックは全然覚えて
なかったけれど。ととき貝を使ったトリックには感心させられました。
途中に出て来た怪しげな男の正体にも手を叩きたくなりましたし。真相を
知ると、この男のことが哀れでならなかったです。女性(メス)のみんな
から慕われているのが海牛ってところはちょっと首をかしげる設定だったけど
(苦笑)。

『絶海の鬼ヶ島』
桃太郎の退治された鬼側からの視点で描かれます。桃太郎たちの鬼退治
の仕方が、かなりエグくて、ちょっとげんなり。鬼視点で見ると、桃太郎

の方が悪者みたいに思えてしまいました。鬼一族の名前が、いちいち
全員に『鬼』がつくので、途中誰が誰だかわからなくなってしまい、大混乱。
結局最後まで鬼が整理しきれずに読んでいたような^^;
これまでに読んだ作品の小道具がいろいろ登場して、集大成みたいな作品に
なっているのですが、そんな訳で、いまいちすっきりせず終わってしまった。
鬼ヶ島の鬼たちがみんな殺されて行って、最後に犯人と主人公の鬼太が
残るのですが、最後に明かされる犯人の鬼○の正体には驚かされました。
っていうか、鬼○って誰だっけって確認したんですけど(おい)。鬼ばっか
出て来るからわかんなくなっちゃった。結構重要な人物だったのに(笑)。
一人だけ色が違うのがヒントだったんですかねぇ。もう一度しっかり
読めばもっと面白いのかもしれないなぁ。